マンスリーレビュー

2020年10月号トピックス6サステナビリティ

50周年記念研究 第9回:日本から始めるエコフット基準の持続可能な社会創造

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2020.10.1

イノベーション・サービス開発本部山本 奈々絵

POINT

  • 人間活動による自然資源使用量が自然資源供給量を超過した状態が続く。
  • デジタル化・省ロス化・高効率循環、供給領域での脱炭素化がキー。
  • 技術革新と行動変容で未来は変えられる。
われわれの生活は物質的に豊かになった一方、人類の生存基盤である地球環境は、資源の枯渇・環境破壊により脅かされている。1990年代初めに地球の持続可能性を評価する指標「エコロジカルフットプリント(EF、エコフット)」が開発され、2003年設立のグローバル・フットプリント・ネットワーク(GFN)により普及が図られている。

EFとは、「私たちが消費するすべての再生可能な資源を生産し、人間活動から発生する二酸化炭素を吸収するのに必要な生態系サービスの総量」※1である。1970年代に世界全体のEFが生態系サービスの供給量「バイオキャパシティ(BC)」を上回る「非」持続可能な状態※2に陥り、2016年には約70%超過するに至った。しかし、人間の活動を見直すことで環境負荷が低減される可能性もある。GFNでは「その年に再生できる地球1個分の資源が尽きる日※2」を毎年発表しているが、2020年は新型コロナ感染拡大に伴う経済活動の停滞から前年より約3週間遅れ、人間活動との関係性への関心が高まった。

日本が先鞭をつける好機ともとらえられるが、まずは日本における目標水準と、その実現に向けた取り組み方法を定める必要がある。当社はGFNの協力のもと、「50年後に人間の活動による資源消費が、地球全体の環境容量を下回る状態※3を日本で実現する」ために必要なEF削減量のシミュレーションを行ったが、現状と目指す未来に2.7倍以上のギャップがある(図)。食料・住居・光熱・交通など消費面の改善に加え、エネルギー生産、利用産業のCO2排出など、供給面の無駄の削減・高効率化・脱炭素化が求められる。

具体的には、「生産・流通のスマート化による需給最適化・省ロス化」「デジタル化や分散製造による脱物質・脱輸送」「農業などのDX推進による生産効率向上」などの技術改革が必須となる。EF削減効果が大きい脱化石資源対策では、再エネ発電設備や蓄電設備などの相互連携により安定供給を実現するデジタル・分散化技術が活躍するだろう。

消費側の行動変容も促す必要がある。といっても、やみくもに節約や我慢を強いるのではない。商品・サービスの環境負荷を「見える化」し、消費者に選択の判断材料を提供した上でインセンティブを与えるなど新たな気づき・意識変容を促す必要があるだろう。

※1:エコロジカルフットプリントは「生態系を踏みつけている足跡」という意味。消費行動が環境に与えている負荷を可視化して数値化する手法で、地球が生産できる自然資源量をどれくらい超過しているかを示している。世界自然保護基金ジャパン (WWFジャパン)およびGlobal Footprint Network「地球1個分の暮らしの指標~ひと目でわかるエコロジカル・フットプリント~」、同「環境と向き合うまちづくり」。

※2:アース・オーバーシュート・デーとして「世界の人々の消費量が、1年間に地球環境が生産できる自然資源の量を上回った日」を発表している 。2019年は7月29日だったが2020年は8月22日となった。
Global Footprint Network「Earth Over Shoot Day」および世界自然保護基金ジャパン(WWFジャパン)(2020年8月22日)「2020年のアース・オーバーシュート・デーは8月22日『地球の使いすぎ』前年より3週間遅い到来となったが、いまも続く使い過ぎの状態」。

※3:日本の一人あたりのEF÷世界の一人あたりのBC<1。

[図]日本における一人あたりエコロジカルフットプリント(EF)の取り組み項目別削減量と内訳