マンスリーレビュー

2020年10月号トピックス3防災・リスクマネジメント経済・社会・技術

高セキュリティ産業の「生産性向上」に向けて

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2020.10.1

フロンティア・テクノロジー本部尾野 航

防災・リスクマネジメント

POINT

  • 情報セキュリティ優先の働き方の弊害がコロナ禍で顕在化。
  • 米国防総省ではセキュリティを維持しつつテレワークを推進。
  • 業界・関係府省庁が一体となって、生産性の高い働き方を追求すべき。
情報セキュリティ対策は業務の生産性低下をもたらすとされる。実際、「セキュリティ優先によって生産性が犠牲になっている」とするユーザー企業の従業員は76%にのぼる※1。特に、高いセキュリティ水準が要求される防衛や金融、電力、交通のような「高セキュリティ産業」では、業務に多少の不便さや無駄があったとしてもセキュリティを優先して対応しているものと推察できる※2

新型コロナウイルス感染症の拡大前は、日本企業の多くが出社や対面での打ち合わせを前提とした働き方をしており、高セキュリティ産業との違いは少なかった(図)。しかし、ウィズコロナの時代となり、一般企業で急速にテレワークの利用が広がる中でも高セキュリティ産業のテレワーク活用は進んでおらず、業務の縮小や一部停止、もしくは通常どおりの業務形態を維持しているとみられる。一般企業は、新型コロナと共存する新常態における従業員の「働き方改革」と「業務の効率性(生産性)の向上」の両立を目指しているのに対し※2、高セキュリティ産業はこうした潮流から取り残されてしまう。

一方、米国ではコロナ禍を契機として高セキュリティが要求される業務でのテレワーク活用が試行され始めている。サイバー攻撃の脅威やリスクを常に抱える米国防総省でも、商用のクラウド技術を利用したテレワークを一部の業務で導入し始めた。魅力ある職場をつくり、生産性向上を図るべくセキュリティリスクを一定程度に抑えながらテレワークやリモート会議を推進・拡大させている※3

日本の高セキュリティ産業においても、リスク管理を徹底した上で、生産性の向上が模索されるべきである。例えば、特定の業界に閉じた官民クラウド基盤を構築するなどして、さまざまな場所からの安全な情報共有が可能な環境を整備することが考えられる。その場合は、企業の参加基準や情報共有ルールなどを綿密に定める必要があろう。各業界は、所掌・所管する府省庁と協力し、各種のルールを定めた上で、産業維持のためにも業界・関係府省庁が一体となって、生産性の高い働き方を追求すべきである。

※1:米Dell 「Dell End-User Security Survey 2017」。

※2:新型コロナウイルス感染症によってテレワークが急速に拡大した中で行われた「第1回 働く人の意識調査」(日本生産性本部)において、テレワークの課題として「職場に行かないと閲覧できない資料・ データのネット上での共有化」が挙げられている。高セキュリティ産業はまさに該当する。

※3:テレワークを導入した企業が挙げた目的において「業務の効率性(生産性)の向上」と回答した割合が68.3%で最も高い。さらにテレワークの導入目的に対して「効果があった」と回答する企業は87.2%だった。 
総務省(2020年5月29日)「令和元年通信利用動向調査」。

[図] ウィズコロナ/ポストコロナの働き方