マンスリーレビュー

2020年10月号トピックス1デジタルトランスフォーメーション

行政デジタル化に欠けているもの

同じ月のマンスリーレビュー

タグから探す

2020.10.1

公共DX本部星野 和洋

デジタルトランスフォーメーション

POINT

  • 行政のデジタル化の遅れは環境変化と法制度のギャップが主因。
  • コロナ禍を受けオンラインによる給付申請は簡略化の方向にある。
  • 対面確認や押印を不要とする流れをバックに、法的な制限の除去を。
行政のデジタル化の遅れに対する批判が強まっている。特別定額給付金などのオンライン申請を受け付けたにもかかわらず、支給がずれ込んだことなどによる。この現象は失業関連も同様だ。2020年1月にインターネット上での求職申し込みの仮登録が可能となってハローワークの求職窓口はガラガラ状態となったが、失業給付申請の窓口は変わらぬ混雑ぶりで、確認作業を経て失業認定まで時間を要する状況だ。

技術の進歩でオンライン化は進んでいるのに、給付が絡むとなぜ、もたつくのであろうか。理由の一つは、不正受給の防止のために提出を義務付けている各種証明書の真偽確認に手間がかかる点にある。担当者と直接対面することを法的に義務付けられる場合もある。さらに、申請様式が省令で定められていると、オンライン化しても紙と同じような、細かい記載が必要となる。押印が必要な書類が多いことも電子化の妨げとなる。使い勝手よりも「法にのっとっているか」を重視する行政の世界では、致し方ない部分があるとの見方がこれまでは強かった。

しかし、コロナ禍で状況は確実に変化している。例えば2020年8月14日に受付開始となった「Go To トラベル」の還付申請※1では、特別定額給付金の申請で必要とされたマイナンバーカードがなくてもオンライン申請が可能となった。必要な添付書類の種類も、従来の省庁の制度設計ではありえないほどに簡略化※2された。還付金は時限的・一時的な給付で省令の対象ではないとはいえ、大きな進歩と言えよう。

さらに、テレワークの浸透に加え、スマホでのビデオ通話環境の普及により、ITにさほど強くない人でも、直接担当者と対面しなくても事実確認がほぼ可能になった。押印についても内閣府、法務省、経済産業省が連名で2020年6月に「特段の定めがある場合を除き、必要な要件とはされていない」との見解を公表※3した。こうした流れをバックに、AIやRPA(Robotic Process Automation)※4の活用による審査の効率化や、デジタル手続法※5で示されたような、行政手続きの原則オンライン化などを進めれば、法制度の制限がなくなり、真のデジタル化への道が開けるはずである。

※1:キャンペーンの適用対象となるのに割引が反映されていないツアーを利用した人などが、事後に割引を受けるための手続き。

※2:個人で予約して宿泊するのみの場合で必要な添付書類は、宿泊証明書と宿泊時の領収書、通帳の口座番号(写真でも代用可)などであり、同行者の住民票や押印などは不要となっている。

※3:2020年6月19日付の公開文書「押印についてのQ&A」。

※4:ロボットが仕事を肩代わりしてくれるかのように、コンピューター上の定型業務を自動で大量に一括処理するソフトウエア。

※5:正式名称は「情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律」。2019年12月施行。行政サービスについて①個々の手続き・サービスが一貫してデジタルで完結する②一度提出した情報は二度提出することを不要とする③民間サービスを含め複数の手続き・サービスをワンストップで実現する、などの方針を明示した。

[図] 真の行政デジタル化への流れ

関連するナレッジ・コラム

関連するセミナー