マンスリーレビュー

2021年4月号特集2ヘルスケア

女性の健康リスクをコレクティブに低減

2021.4.1

デジタル・イノベーション本部前田 由美

未来共創本部大井 修一

ヘルスケア

POINT

  • 女性の健康リスク低減に向けて乳がんの克服が重要課題に。
  • 乳がん検診を受けやすくする仕組みを整える必要がある。
  • 多様な関係者が連携した経済的な好循環づくりが求められる。

女性の健康リスクは多様

一人ひとりが生きがいをもって社会で活躍していく上で、心身ともに「健康」であることは大前提となる。男性の健康リスクは年代を問わず生活習慣病が中心だが、女性の健康リスクは年代に応じて多様で未解明なものが多い(表)。

生活習慣病については2008年に特定健診と特定保健指導が義務化され、糖尿病の患者数抑制などに大きく貢献している。

一方、日本人の死因第1位であるがんの検診は義務化されておらず、受診率も低い。特に早期に発見して治療すれば生存率が100%近い乳がんの検診を必ず受ける仕組みを作れば、女性全体が健康で生き生きと暮らせるだけでなく、出産を望む女性が次の世代を安心して産むことができる。

乳がん検診については、事業主などに義務付けられている健診のオプションとして受診する機会も増えつつある。2018年3月に厚生労働省が公表した「職域におけるがん検診に関するマニュアル」で、胃がん、肺がん、大腸がんとともに、女性特有の子宮頸(けい)がんと乳がんの検診についても推奨レベルが示されたためである。

それでも、日本の受診率は欧米諸国や韓国に比べて低い※1。義務化まではされておらず、費用が自己負担の場合が多いことなどが響いている。検査で痛みを感じることへの抵抗感も根強い。
[表]男女の健康リスク(○は発症率の高い年代)

受けたくなる乳がん検診を

乳がん検診は視触診、X 線撮影(マンモグラフィ)、超音波検査の3種を組み合わせるよう推奨されている。視触診やマンモグラフィでは痛みを感じるケースもある。加えてマンモグラフィには微小ながらも被ばくのリスクがある。

また日本の女性は、乳腺の濃度が極めて高かったり不均一だったりするデンスブレスト(高濃度乳房)の傾向が強い。このため、マンモグラフィでは乳腺腫瘍が白く映ってしまい、本来発見しなければならない腫瘍が隠れてしまう可能性がある。

デンスブレストが比較的多い40代以下の場合、マンモグラフィよりも超音波検査の方が乳がんを発見しやすい。出産期に当たるため、被ばくリスクを避けたいと考える女性も多いだろう。

当社が出資・提携するベンチャー企業Lily MedTechは、この問題の解決を目指している。同社は、従来方式よりも痛みや被ばくリスクを大幅に抑制して検査精度も高い乳がん検診技術を開発済みであり、2021年中に製品化の予定だ。

だが、既存の検診技術・体制が確立されている中で、新製品の普及は容易ではない。実績をあげ続けることで、自治体や健保組合による新たな検診メニューとして認められる必要がある。

女性が乳がんのリスクとその対応方法に対するリテラシーを高め、乳がん検診を自ら積極的に受診する意識改革も必要だ。当社は女性の健康リテラシー向上の目的で、SNSなどのツールを活用して健保組合の組合員(被保険者・被扶養者)の健康づくりをサポートするサービス「健康エール」を提供している。受診率の向上や早期発見につながった例もあり、引き続き推進していきたい。

コレクティブインパクトの条件

健康リスク低減を通じて女性がより暮らしやすい社会を実現していくには、多くの関係者の協力が必要だ。乳がんについては、検診受診率向上に向けて行政、機器メーカー、健保組合などが連携することに加え、女性が仮に罹患(りかん)しても働きやすい職場環境の整備も求められよう。

乳がんを早期に発見して治療しながら、仕事や普段の暮らしを続けられる社会を構築する。こうした共通の目的に向け、スタートアップ、企業、健保、行政といった多種多様なプレーヤーが各自の解決策を組み合わせること、これがまさに、特集1で述べたコレクティブインパクトである。しかし、解決策の組み合わせや全体の枠組みを、最初から描くことは難しい。

コレクティブインパクト創出には、経済的な裏付けも重要である。痛みも被ばくリスクも少ない検査機器が多くの健診実施機関に納入されれば開発元のベンチャー企業の収益が上がるほか、行政や医療保険者の医療費削減につながる。企業にとっても、乳がんの発症によって有望な働き手を失うことを回避できる。

このような経済の好循環をつくり、コレクティブインパクトを精神論から現実のものとしていくことが重要である。当社はこれからも、女性が活躍できる社会づくりに貢献していきたい。

※1:厚生労働省のがん検診キャンペーン資料「低い日本の検診受診率」。