マンスリーレビュー

2021年4月号特集5テクノロジー経済・社会・技術

21世紀のムーンショットにチャレンジ

2021.4.1

先進技術センター関根 秀真

テクノロジー

POINT

  • ムーンショットは人類の「夢」への挑戦。
  • 日本はアイデアと技術力により民間チームが参加してきた。
  • 50年後に目指す未来社会の夢を描き、コレクティブに実現。

社会課題解決のアイデア・コンテスト

特集2〜4では、コレクティブインパクトによる具体的な取り組み例を紹介した。ここではその起点となる、解決のアイデア発掘に注目する。

特集1で紹介したINCFでは、社会課題解決のビジネスアイデアを広く募集するコンテストを毎年実施してきた。回を重ねるごとに多くの優れたアイデアが集まり、入賞者と協働で事業開発を進める例も増えている。この活動は2021年4月にスタートしたICFでも一層の拡充を図っていく。

ムーンショットの「夢」は広がる

世界を見渡すと、大きな視野で人類の夢に挑戦する取り組みがある。「ムーンショット」と呼ばれる壮大なアプローチは1960年代、ケネディ米大統領が人類を月に送ると宣言したことに端を発する。難度は極めて高いが、実現すれば多大なインパクトを生む挑戦は、その後も連綿と続く。

近年のムーンショットの代表例としては、米国の非営利団体のXプライズ財団によるコンテスト、イーロン・マスク氏ら異能の経営者が掲げる壮大な事業などがある。Xプライズ財団は、有人弾道宇宙飛行の実現など、民間資金を活用した多くのコンテストを展開し、マスク氏は火星に人類の文明社会を築くことを自身の最終目標としている。

従来の価値観を打ち破り、革新的な技術・手法を駆使して夢の実現を狙うものである。

日本の挑戦

Xプライズ財団のコンテストには、日本からも多くのチームが参加し善戦している。自律型海中ロボットのコンテスト「Shell Ocean Discovery※1」ではTeam KUROSHIOが2019年に2位に入賞した。月面無人探査コンテスト「Google Lunar※2」は勝者のないまま終了したものの、Team HAKUTOが2018年の最終フェーズまで残った。

応募・参加にとどまらず、募集に回る例も出始めた。Xプライズ財団のコンテストで、ANAが資金を提供し「アバター」ロボットのアイデアを募る「ANA AVATAR」が現在進行中である。ANA自体も、社会インフラとしてアバターが活躍する未来づくりに事業として挑戦している。

このように、日本は民間を中心にアイデアと技術力でムーンショットに挑戦してきた。政府も、2050年の達成に向けた「ムーンショット型研究開発制度」に着手して「地球環境再生に向けた持続可能な資源循環」など7つの目標を掲げている※3。日本発の挑戦として、未来実現が試される。

50年後の目指す未来社会へ

当社は、創業50周年の記念研究において、50年後の「目指す未来社会」を示した。その実現・実装に向けたコレクティブな活動を進める一員として、積極的に参画し貢献することで、行動するシンクタンクの新しい姿を開拓していきたい。

※1:シェル石油がスポンサーを務めた。

※2:グーグルがスポンサーとなった。

※3:「人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会」などの目標も含まれている。