マンスリーレビュー

2021年4月号特集3デジタルトランスフォーメーション経済・社会・技術

地域通貨により個人の行動変容を促進

2021.4.1

イノベーション・サービス開発本部堀 健一

デジタルトランスフォーメーション

POINT

  • 社会課題解決に向け注目される「行動変容」をデジタル化が後押し。
  • 減価するデジタル地域通貨、SDGsポイントの実証進む。
  • 社会インパクトの最大化に向けプラットフォームに知見の集約を。

必要性高まる「行動変容」

3密回避、カーボンニュートラル、災害時の安全な避難行動、個人のウェルビーイングと社会・地域の持続性の両立など、多くの課題解決に向け、個人の意識・行動変容への注目が高まっている。

一人ひとりの関心・価値観の多様化はさらに進む。特定の課題解決に向け、行動変容を実現していくことは容易ではないが、コロナ禍で一挙に進んだデジタルツールの普及が実現の後押しになる。

減価するマネー、SDGs活動へのポイント実証

行動変容を促進する仕組みの実証が進んでいる。
 
その一つは、特定地域内の消費喚起、経済循環促進を目的とした「地域通貨」だ。時間経過とともに価値が減る「減価する貨幣」への期待が高まっている。減価機能の概念が登場したのは20世紀初頭のドイツである※1。価値が目減りする前にお金を使おうとするインセンティブが働き、消費が促進される。利用範囲が地域に限定されることで、地域での経済循環が促進される。

従来は「紙幣」であり利便性も低く、より効果を上げていく際のインセンティブのデザインが難しかった。この課題を、デジタル技術の1つであるブロックチェーン※2の活用によって克服し、低コストで運用可能な仕組みを提供するのが当社の「Region Ring™」である。複数種類のデジタル通貨やポイント、チケットなどを1つの基盤上で発行管理できる点(カラードコイン)と減価できることが特徴である。異なる経済的価値の同時提供、交換が可能となる。利便性の高い住民サービスを実現するとともに、複数地域の同時発行の管理が容易となり、地域ごとの導入・運用コストの低減を図れる。

国内では、2018年10月から12月に大阪市・あべのハルカス周辺エリアで発行された「近鉄ハルカスコイン」の実証例がある。さらに、3つの地域※3で総務省事業として減価機能の実証を行った。利用額に応じて付与されるコインが減価対象となるが、減価がない場合と比べて3割程度の利用単価の向上効果が、これらの実証で確認されている。

SDGsポイントの事例としては、東京都「令和元年度東京ユアコイン(オフィス型)」がある。大手町・丸の内・有楽町地区のオフィスワーカー・来街者を対象に、合計2,500万ポイント(1ポイント1円相当)の規模で実証を行った。アプリ登録者がSDGs推進に寄与する取り組みに参加した場合にポイントを発行。社会貢献活動における「認知」「関心」「実践」など各フェーズで行動変容の効果を可視化できた。

プラットフォームに知見の集約を

仕組みがうまく使われなければ、地域社会全体でその効果を享受できない。このため、多くの利害関係者(マルチステークホルダー)の協調による地域社会への実装が必要である。

とりわけ運営に参加するサービス提供主体(支援サイド)数の増加はインセンティブ多寡に影響する。社会貢献や健康増強などの活動に応じてポイントを発行するケースでは、行政、企業、NPO、健康組合などに参加協力を仰ぐ必要があろう。

しかし、ステークホルダーのノウハウが一様とは限らない。

その場合、ステークホルダーの相乗りを容易にする地域課題解決型のプラットフォームを用意できることが望ましい。これにより、さまざまなノウハウを提供しつつ、短期かつ安価に地域通貨の社会実装を実現できるメリットは大きい。当社のRegion Ring™は、まさに、このプラットフォームとしての機能を提供し、地域社会における行動変容の仕組みの強化・実装に取り組んでいくことができる(図)。

健康増進、観光活性化、デジタル行政の推進、働き方支援、SDGs活動支援など、地域に新しいアクションを創発し、今後の地域における社会課題を統合的に解決することを目指す。

さらに、地域社会の内外から多様なステークホルダーがRegion Ring™上に知見を持ち寄って相互作用させ、斬新・有効な解決策を集積することができれば大きなインパクト(コレクティブインパクト)が得られるだろう。
[図]三菱総合研究所が提供する地域通貨プラットフォーム「Region Ring™」の概要

※1:ドイツの実業家・思想家のシルビオ・ゲゼルが提唱したのが始めとされる。実装例としてドイツ・バイエルン州キームガウで2003年に発行された地域通貨「キームガウアー」がある。

※2:暗号資産(仮想通貨)に用いられる分散台帳技術。セキュリティーに優れ、改ざんや二重支払いの防止機能を容易に実現することができる。

※3:大阪市天王寺区上本町・静岡県浜松市・広島県福山市。