マンスリーレビュー

2022年3月号特集2防災・リスクマネジメント経済・社会・技術

被災しても社会を止めない自立的防災

2022.3.1

セーフティ&インダストリー本部大熊 裕輝

防災・リスクマネジメント

POINT

  • 災害への備えを特別な行動にしてはならない。
  • 企業は、ライフライン自立化を事業投資と考えて備えるべき。
  • 個人は、生活拠点の複数化でレジリエンス強化と幸福度の向上を。

災害への備えを特別な行動としない

東日本大震災が発生したからといって、「東日本ではしばらく大きな地震や津波は起きないだろう」と考えるのは早計である。地震調査研究推進本部によると、千島海溝沿いの根室沖、日本海溝沿いの青森県・岩手県沖北部※1、宮城県沖で、今後30年以内に巨大地震の高い発生確率が示されている。

南海トラフ地震についても切迫性が指摘されている※2。政府は、東日本大震災をきっかけに、想定しうる最大級の地震・津波に対して被害想定を実施し、警鐘を鳴らしてきた。一方で、自然災害の危険性は理解できても、事前対策が防災に特別な行動と考えられていることから普段の行動に結びつきにくい側面もある。

これを打開するためには、事前対策が平時の企業経営上のコスト削減や利益に繋がり、個人にとっては普段の快適性や豊かさ(ウェルビーイング)の向上に繋がるという実感が必要である。

ライフライン自立化で企業活動を守る

南海トラフ地震が発生した場合、国内の製造業出荷額の約6割、自動車輸出の約9割を担う地域に甚大な被害をもたらし、社会に多大な影響を与えかねない。

被災エリアの拡大に伴い、被災地域外からの応援を分散せざるをえない状況も想定しうる。基本的には地域内の復旧人員・機材でライフラインを復旧せねばならず、企業活動の再開の遅れが予想される。仮に個社ごとに地震・津波対策を実施し被災を免れても、停電(計画停電を含む)・断水・通信支障などの復旧遅れにより、事業再開に影響する恐れがある。特にこの地域の産業の復旧が遅れれば、全国への影響は計り知れない。

しかし、これまで各企業が作成している事業継続計画は、ライフラインの復旧が短期間でなされることを前提としているのではないだろうか。ライフラインの復旧を前提とした計画から自立化へシフトすべきである。

それは、コストではなく事業投資の一環だ。政府は2050年までにカーボンニュートラルの実現を目指すと表明している。達成には個社ごとの取り組みが欠かせない。自社の努力で解決可能な事業所や工場のライフラインの自立化は決してコストではなく事業投資といえる。

例えば、事業所などの基幹業務からライフライン(特に電気、生活用水といった上水道、構内通信網など)を可能な限り自立化して、商用電源などをバックアップとして活用することで、光熱費のトータルコストが削減され、経営的にプラスになることもありうる。

断水に備えて雨水や再生水を日常的に活用するなども考えられる。平時の事業投資をそのまま自然災害対策に繋げる動きを促進すべきである(表)。
[表] ライフライン別にみた企業の防災の自立化策
ライフライン別にみた企業の防災の自立化策
出所:三菱総合研究所

平時から、備えない「備え」を

2021年12月に公表された千島海溝・日本海溝地震の被害想定では、人的被害のほとんどが津波によるものである。ただし、早期避難や建物の耐震化などを実現することで、約8割低減可能と想定されている※3

早期避難を実現するためには、強い揺れを感じるやいなや、避難行動に移すことが第一である。さらに、千島海溝などの地震や南海トラフ地震のような巨大地震では、気象庁が事前に発する情報に従って行動することも大事である※4※5

事前の発信情報は、地震の発生可能性の高まりを通知する。特に移動に時間を要する高齢者が多い人口減少地域、あるいは健常者であっても避難を開始しても津波から逃げ切れない地域などに居住している人々は、事前情報に基づく具体的な行動計画を普段から描いておくことが肝要である。

万が一、事前に発信した情報が外れた場合に備え、そのことが負担と感じない環境づくりをすることが鍵である。例えば生活拠点となる場所を複数持ち、それぞれで人と繋がる楽しみがある。どちらでも働ける環境を作り、オンラインでも仕事をする——。「場所を変える」ことさえも、新たな楽しみに繋がるかもしれない。生活拠点、人との繋がり、働く場、時間の自由度が高い生活へと社会全体がシフトすることで、個人のレジリエンスも幸福度も向上する。

一方で、そうした環境を整えられたとしても、普段の生活を楽しむためには健康でなければならない。超高齢化に伴い健康寿命を延ばす動きも活発である。健康であればますます日々を楽しむことができ、いざというときに自力で避難行動がとれる。まさに備えない「備え」である。

※1:東日本大震災の震源断層域より北部。

※2:地震調査研究推進本部(2022年1月1日)「活断層及び海溝型地震の長期評価結果一覧」。

※3:中央防災会議(2021年12月21日)「日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震の被害想定について」。

※4:中央防災会議「日本海溝・千島海溝沿いにおける異常な現象の評価基準検討委員会」。

※5:気象庁「南海トラフ地震に関連する情報の種類と発表条件」。

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