マンスリーレビュー

2022年3月号特集3防災・リスクマネジメント経済・社会・技術

気候変動時代の地域レジリエンスの構築に向けて

2022.3.1

セーフティ&インダストリー本部大山 剛弘

防災・リスクマネジメント

POINT

  • 気候変動による風水害の激甚化は地域の衰退に直結しかねない。
  • 将来の気候変動影響を前提とした政策転換はすでに進められつつある。
  • 産官学一体となった新しい地域レジリエンスの構築が必要である。

気候変動によって風水害が激甚化する懸念

1時間雨量が50mm以上の「滝のように降る雨」の頻度は増加傾向にあり、この傾向は地球温暖化の進展に伴って継続すると見込まれる。気温上昇を2℃に抑えたとしても、国内の降雨量は約1.1倍、洪水発生頻度は約2倍に増加すると予測され※1、近年発生した「平成29年7月九州北部豪雨」「平成30年7月豪雨」は地球温暖化によってその発生確率が高まっていたとされる※2

気候変動によって風水害が激甚化すれば、復旧・復興に人員や予算を割かざるを得ない地域が増え、すでに復旧・復興に取り組んでいる地域に追い打ちをかける災害が間髪を入れず発生する事態も想定される。このような事態は、人口減少による歳入減に悩む地域が衰退する可能性を高める。

気候変動を前提とした治水政策の大転換

今後の地域の持続的発展には、気候変動による被害を防止・軽減しつつ、社会や経済の健全な発展や自然環境の保全を目指す「気候変動適応」の考え方を取り入れたレジリエンス構築が重要となる。近年の国内治水政策の大転換は先進的な事例だ。

まず、長らく実績降雨量と流域重要度に基づいて行われてきた治水の在り方が将来の気候変動による降雨量の増加予測に基づいたものへと見直された。今後、全国の治水計画がこの方針に沿って改正されていく。また従来は国や自治体の河川管理者が中心に行ってきた治水を、住民や企業なども含め流域のあらゆる関係者で担うものとして再定義した「流域治水」政策も画期的だ。遊水地、田んぼなど広く「面」で洪水を受け止めることに加え、地域公共交通と連携したコンパクトなまちづくりなど洪水リスクに応じた土地利用の最適化を推進し、地域の持続的な発展も目指すとしている。

気候変動影響は河川洪水にとどまらず、農作物の品質や適地、熱中症リスク、動植物分布域、海岸侵食など多くの分野に及ぶと予測される。治水分野でのさらなる取り組みの進捗はもちろん、同様の政策転換を他の分野でも実現することが、あらゆる地域の急務である。

気候変動時代の地域レジリエンス構築の課題

考えられる課題を3つ取り上げたい(図)。

①科学的知見のさらなる蓄積と普及:誰もがアクセスできるユーザーフレンドリーな情報基盤が構築されてきている※3。ただし、気候変動の影響を捉える観測データの整備は途上だ。観測できていない項目については観測体制構築や代替データ活用の検討が、観測されている項目については産官学のさまざまな主体が蓄積するデータを共通様式で統合することが必要だ。さらに、それら観測データを一元化し、先述の情報基盤などに搭載、普及させることが望まれる。このことは政策立案にとどまらず、市民が気候変動の影響を身近に感じ、気候変動問題に対して行動を始めることにも繋がる。

②地域の政策立案力の強化:地理的条件(位置、地形、標高など)や社会経済的条件(人口、産業など)を前提とした地域行政と、気候変動の双方に精通する人材の育成と、ノウハウの開発がポイントとなる。全国各地の「地域気候変動適応センター」などを核に取り組みが進みつつあるが、自治体と研究機関間の連携・人材交流、自治体内の研修への気候変動分野の知見の組み込み、地域の多様なステークホルダーとの意見交換といった活動の全国規模での展開が有効だろう。このような取り組みを通じて、地域の人々の意向を踏まえた、気候変動下における有事の安全・安心と、平時からの地域振興を両立させる政策立案が全国各地で進展することが期待される。

③民間事業者の参入促進:地域のレジリエンスを高めるソリューションを充実させる観点から欠かせない。関連が深いのは近年国内でも推進されている適応ビジネスだ※4。世界市場は2050年までに最大50兆円に達するとの予測もある※5。しかし、一般的な認知度の低さもあって十分な投資を呼び込めておらず、地域特性に応じた多様なソリューションが提供されるには至っていない。ESG投資や気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)といった既存枠組みとの関連付けや普及啓発を通じて、ソリューションの提供主体へのマネタイズを促進することが有効ではないか。あわせて、標準化・認証のスキームを導入し、ユーザーが適切な製品・サービスを選定できるようにすることも重要だ。
[図] 気候変動時代の地域レジリエンス構築の課題
[図] 気候変動時代の地域レジリエンス構築の課題
出所:三菱総合研究所
本稿で示した課題はいずれも単独の主体だけで解決しえず、さらに平時・有事によらず取り組まねばならない。気候変動時代の持続的な地域の発展のために、今こそ産官学が叡智を結集し、新たな地域レジリエンスを構築する必要がある。

※1:気候変動を踏まえた治水計画に係る技術検討会「『気候変動を踏まえた治水計画のあり方』提言(令和3年4月改訂)」。

※2:気象庁気象研究所などのプレスリリース(2020)「地球温暖化が近年の日本の豪雨に与えた影響を評価しました」、今田・川瀬(2021) 「近年の日本の豪雨や高温事例に地球温暖化が与えた影響~d4PDFによる Event Attribution 研究の進展~」。

※3:「データ統合・解析システム(DIAS)」「気候変動適応情報プラットフォーム(A-PLAT)」といった情報基盤。

※4:気候変動の影響による被害の回避・軽減に貢献する、あるいはその可能性があるビジネス。

※5:国連環境計画(UNEP)(2016) "The Adaptation Finance Gap Report 2016."

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