マンスリーレビュー

2022年4月号トピックス2ヘルスケア

がん検診の受診率向上・適正受診に向けて

2022.4.1

イノベーション・サービス開発本部釜澤 史明

ヘルスケア

POINT

  • がんの早期発見・治療には、検診の受診率向上と適正受診が不可欠。
  • 検診主体間における検診情報の連携不全がそれを阻む。
  • 個人と実施主体を繋ぐ民間サービスによる障壁克服に期待が高まる。

受診率向上と適正受診の障壁

「がん」は治療法が飛躍的に進歩し、「治る病」と言われるようになった。しかし、それでも早期発見・早期治療の重要性は変わらない。諸外国と比べ低水準にあるがん検診の受診率を上げることが不可欠だ。一方で、がん検診には偽陽性や過剰診断のリスクもある。やみくもに受診するのではなく、年齢や頻度、検診項目などを適切に設定することも重要といえる。

すなわち、がん検診の受診率向上と適正受診の同時達成が求められているわけだが、自治体、健康保険組合(健保組合)、企業など実施主体が多様であり、情報も十分に共有されていないことが問題解決の障壁となっている。

例えば、住民検診や職場検診を中心にさまざまなかたちでがん検診が提供され、対象年齢、検診項目、検診間隔などの整合性が取られないまま、受診者に検診案内が個別に届けられている。また、検診データも自治体や健保組合、企業で共有されておらず、正確な受診状況すらも不明瞭である。

自治体、健保組合、企業などの情報連携不全

厚生労働省の「職域におけるがん検診に関するマニュアル(平成30年)」では、「医療保険者※1や事業者は、受診者の同意を得る等した上で、市町村と職域におけるがん検診の受診状況を共有する」としている。課題解決の第一歩は、自治体や健保組合・企業が必要なデータを共有して検診を推進することにあるといえる。

しかし、その連携が実現している事例はいまだ少ない。人的リソースや財政余力が限られていること、職域におけるがん検診は法的義務がないことが主な要因である。こうした状況下では、関係者間の連携が短期間に加速するとは考えにくい。国が推進しようとしているPHR(Personal Health Record)※2の一元化は究極の問題解決法ではあるが、がん検診情報の共有に活用されるには、まだまだ時間を要するだろう。

個人と実施主体を繋ぐ民間サービス

今後の連携を推進する鍵として、検診予約や個人別の検診結果データの管理・活用などを行う民間サービスの躍進に期待したい。

このような個人向け民間サービスが普及すれば、がん検診の最適な頻度・検診項目・場所などの提示、予約状況や検診結果の統合的な管理に資することが可能となり、過剰受診の回避や適正受診に繋がりうる。

さらに、正確な受診状況の把握から未受診者を特定し、属性・ニーズに応じた効果的な受診勧奨も期待できる。これらの効果により、自治体や健保組合、企業といった検診主体間の連携が後押しされ、受診率向上を図ることも可能となる。

がん検診に関する情報は機微な内容を含み、取得や取り扱いなどでクリアすべき課題も多い。個人と実施主体を繋ぐ民間サービスがそれぞれの障壁を克服し、がん検診の受診率向上と適正受診を推進する主体的役割を担うことが期待される。

※1:医療保険事業として保険給付などを行う団体。 具体的には市町村や健康保険組合など。

※2:個人の健康情報などを電子記録で個人や家族が把握できる仕組み。