マンスリーレビュー

2022年4月号特集3人財デジタルトランスフォーメーション

タレントマネジメント実践による人材育成高度化

2022.4.1

キャリア・イノベーション本部小原 太

人財

POINT

  • タレントマネジメントシステム台頭により人事施策はデータ駆動型へ。
  • データの一元管理を通じて、AIも活用した人材育成や適正配置が可能に。
  • ToBe人材の要件を明確にし、効果的なタレントマネジメント実践を。

タレントマネジメントシステムの台頭

タレントマネジメントとは人材情報の可視化を通じ、教育・研修の機会を提供して本人の成長を促進したり、人材の適正配置を実現したりすることだ。その実践のため、従業員の人事データを一元管理するとともに、eラーニングの受講、組織へのエンゲージメントの把握などができるタレントマネジメントシステムの導入が近年進んでいる。

従業員エンゲージメント※1関連の製品・サービスだけでも、市場規模は2017年度の8億円から翌2018年度は24億円へ成長した。2023年度は118億円まで成長すると予測されている※2

かつてはデジタル化が遅れているとされてきた人事領域であるが、このように教育・研修関連の業務においてもデータ化やツール導入が進み、テクノロジーの活用が加速しつつある。

タレントマネジメントの活用事例

タレントマネジメントがもたらす具体的な恩恵としてはまず、従業員が適性診断、スキル診断を受けることで、人材情報を可視化できる。診断を経て、不足しているスキルを伸ばすための教育を行うような具体的な施策も考えられる。

また、従業員にeラーニング受講やアンケート回答をしてもらうことで、組織へのエンゲージメントや本人のモチベーションを把握することも可能だ。エンゲージメントが低下傾向にある組織への対策を講じることも考えられる。

これら基礎的な利用に加えて、データが蓄積され一元管理されることで、AIによる分析を行うことも可能となる。実際に製品化されている事例もあるが、ロールモデルと呼ばれる従業員を選び、どのような特徴があるかをAIが分析することで、ロールモデルの特徴について定量的な示唆を得ることができる。

ただし、示唆を得ただけではなく、それを従業員の成長やケアに繋げることなどが重要である。

効果的な人事施策へ繋げるために

タレントマネジメントを効果的な施策に繋げるにはどうすればよいだろうか。

まずは経営戦略の上で必要な「ToBe人材」について、適性、スキル、コンピテンシー(成果に繋がる行動特性)などの定義を、人手と時間をかけてしっかりと行うことが不可欠である。

自社にとってのToBe人材の定義をタレントマネジメントシステムが行うことはできない。日立製作所ではAIやデジタル技術に通じた人材の育成目標を独自に設定している。キリンホールディングスでは、デジタルスキルを現場社員に定着させるための「DX道場」を開校した。このようにToBe人材の定義や育成状況の管理が進みつつある。

定義をしっかりと行うことで、現状そのままの「AsIs人材」とのギャップを明確化できる。スキルのギャップであれば研修などによって埋めることが可能だ。実際にToBe人材に近づけているか、経過をウオッチしていく必要もある。

例えば、求めるスキル要件を詳細に定義し、ToBe人材の育成に役立てている企業もある。同社では、事業計画に沿った人材像を明確化するためスキル要件を棚卸しする調査を実施して人材育成に向けたキャリアパスを確立し、具体的な育成策を構築している。スキル獲得のために、従業員の研修受講や資格取得を支援するとともに、育成状況をチェック・評価する仕組みの運用を通じて、効果的に人事施策が実践されている。当社が実践の必要性を提唱しているFLAPサイクル※3が企業内で実現されている好例である。

AIの活用でより高度に

ここまで述べてきたことが、効果的なタレントマネジメントを実践する上での基本である。さらにその先として、ToBe人材をロールモデルに、データから読み取れる特徴をAIであぶり出すことも可能である。属人的な判断に頼らずに、複合的なスキルの影響度を客観的かつ定量的に分析することは、驚異的な演算能力をもつAIにしかできないからだ。ToBe人材と比較して不足しているスキルの育成を行うことで、より高度なタレントマネジメントが実践可能となる(図)。
[図] AIを活用したToBe人材の育成
[図]AIを活用したToBe人材の育成
出所:三菱総合研究所
一方、AIには限界や、活用にあたっての留意点もある。日本国内や海外でも、プライバシーの保護や説明性の担保など、AIの利活用にあたってのガイドラインが整備されており、その順守が求められる。これらテクノロジーと上手に付き合いながら、効果的な人事施策を実践していくことが今後、より一層重要となる。

※1:従業員が組織を信頼するとともに目標や戦略を理解し、自発的な貢献意欲を持つこと。

※2:ITR「ITR Market View:人事・人材管理市場2020」。

※3:現状を「知り(Find)」、必要な知識やスキルを「学び(Learn)」、志向するキャリアの実現に向け「行動し(Act)」、「活躍する(Perform)」サイクル。

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