マンスリーレビュー

2022年6月号特集3MaaSスマートシティ・モビリティ

官民連携の地域通貨導入がactfulnessを後押し

2022.6.1

イノベーション・サービス開発本部早川 玲理

POINT

  • ウェルビーイング向上と地域課題解決を目的とした地域通貨導入が活発。
  • 地域への浸透と持続可能な運営スキーム構築とを実現できるかが課題。
  • 顧客基盤を同じくする自治体・民間が相乗りして運営する仕組みが必要。

actfulnessサービスとしての地域通貨・ポイント

コロナ禍で打撃を受けた地域経済の活性化、カーボンニュートラルやSDGs達成などの課題解決を目的に昨今、デジタル地域通貨やポイントといったインセンティブの付与により、個人の行動変容を促進する仕組みの導入が進んでいる。

これらは個人と地域の接点を増やし、社会に良いインパクトを与えるSocial Goodな活動を促す。個人のウェルビーイングと地域価値を同時に向上させることを目的としており、多様な行動機会の創出と価値の向上を目指すactfulnessサービスを社会実装させる一例といえる。

当社も地域課題解決型デジタル地域通貨サービス「Region Ring®」を開発して、自治体のみならず、鉄道・電力・ガス・金融・デベロッパーなど地域に事業領域や顧客基盤を抱える民間企業とともに展開している。その中で「近鉄ハルカスコイン」※1、「金シャチマネー」※2といった地域通貨や商品券、「ACT5メンバーポイント」※3などのSDGsポイントを社会実装してきた。

一気開拓と持続可能なスキームが重要

当社の経験や類似事例を踏まえると、デジタル地域通貨サービス成功に重要な点は2つだ。

1点目は、導入期に個人ユーザーと利用できる店舗・事業者の双方を一気に開拓することである。ユーザーがいなければ店舗導入のメリットは低く、魅力的な店舗がなければユーザーは使わないため、短期間でいかに地域に浸透させられるかが重要だ。デジタル弱者を顧客として開拓するのが難しく、多様なキャッシュレス手段が競合する現状で、この点は資金力だけでは解決できない。

2点目は、資金調達や体制整備などによる、持続可能なスキームの構築である。運営主体が自治体の場合、初期段階でシステム導入や体制整備、インセンティブ付与の予算を確保できたとしても、費用対効果を示せないと年々予算は縮小し、実証実験にとどまることも少なくない。民間企業の場合も、補助金などを活用して導入したとしても、自社の収益事業や社会貢献事業としての位置づけを明確にできなければ、継続が困難となる。

官民のサービスをつなげた環境共用が鍵

こうした課題を乗り越える際に着目すべきは、自治体が住民に行政サービスを提供するエリアは、地域企業の顧客基盤と一致する点だ。

自治体は、これまで地域商品券や行政ポイント・給付などを紙で提供してきたが、名古屋市が2022年度に開始する日本最大規模※4の商品券事業に電子商品券を導入したように、近年はデジタルへの移行が大きく前進している。

地域に根差した企業も自社関連事業のための商業ポイントを提供しているほか、東急などによる地域共助プラットフォームアプリ「common」のように、地域情報の発信などに加えて、地域活性化に資するサービスの提供を充実させる例もある。

逆に、こうした動きがアプリ乱立を招き、ユーザーの新規獲得を難しくする側面もある。デジタル技術進展により、サービスの連携や一体提供が容易になった現在、顧客基盤を共有するかたちで官民が同一のプラットフォーム上でサービスを提供できれば、効率的に顧客を獲得できる。

一例として、地域に根差した民間企業が地元でデジタル地域通貨プラットフォームを提供し、自治体が消費喚起事業や給付といった市民サービスを相乗りさせる連携手法を提案したい(図)。
[図] 自治体と企業が相乗りした地域通貨プラットフォーム
[図] 自治体と企業が相乗りした地域通貨プラットフォーム
出所:三菱総合研究所
ユーザーから見れば単一のアプリで多様な行動機会と、新たな気付きの両方を得られ、利便性・満足度が高まる。自治体は、民間のプラットフォームの利用料を負担した方が、自前で展開するよりも低コストかつ効果的に、持続可能な市民サービス提供が可能だ。民間側も、行政サービスという強力なユーザー接点を武器にできるため、自社事業を展開する上でも地域活性化の点でも、メリットを享受できる。

社会全体の観点からすると、官民がサービス間の相互誘客を進めれば、actfulnessにつながる活動への参加者は増え、一人あたりの活動量も増大する。この流れが、より良い個人・地域・社会づくりにも貢献すると期待される。個人のウェルビーイング実現と地域の課題解決に向け官民が連携することが、actfulness実現には重要である。地域通貨サービスは、その糸口となるはずだ。