マンスリーレビュー

2023年6月号トピックス2テクノロジー

宇宙スタートアップの役割拡大に向けて

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2023.6.1

English version: 24 August 2023

フロンティア・テクノロジー本部内田 敦

テクノロジー

POINT

  • 宇宙スタートアップ企業が自社だけで月を目指す時代に。
  • 世界では国家の宇宙活動の一翼を新興企業が担う。
  • スタートアップの役割拡大には大手企業との連携で機会創出を。

世界初への挑戦と今後の可能性

日本のスタートアップ企業ispaceの月着陸船が昨年12月11日に米国から打ち上げられ、2023年4月26日未明に月面着陸に挑戦した。重力天体である月への着陸は、過去6カ国※1が挑戦し、米国、ロシア、中国のわずか3カ国の、しかも国家プロジェクトでしか成功していない。この難事業に対して残念ながら同社の挑戦は成功に至らず、民間企業として世界初の栄誉は獲得できなかった。

しかし、2010年に創業したスタートアップが、自社が調達した資金のみでこの難事業である月面着陸に挑み、成功の一歩手前まで進んだことは、今後の日本の宇宙活動におけるスタートアップの役割拡大の可能性を感じさせるものであった。

新興企業が国家の宇宙活動の一翼を担う

米国ではイーロン・マスク氏率いるSpaceXが、大手企業が担ってきた衛星打ち上げ市場に参入し、今や世界中の衛星打ち上げの大半※2を担当している。Starlinkと呼ばれる4,000機を超える人工衛星※3からなる衛星通信網も構築している。約20年前に設立された同社は、規模・役割から見てスタートアップの域を超えているが、ほかにも米国家偵察局が設立間もないスタートアップから衛星画像を調達するなど、国家の宇宙活動の一翼を新興企業が担う時代なのだ。

一方で日本の宇宙スタートアップは、2018年頃から急激に増え始め、2022年10月末時点で約80社に達している※4。政府が支援策として、リスクマネーの供給や宇宙実証の機会などを提供して数は増えてきたが、国家の宇宙活動の一翼を担うレベルの企業は出現していない。現在の宇宙活動は宇宙ごみの除去をはじめ、従来なかった新しい活動が増え、拡大している。もはや限られた大手企業だけで担える状況ではないのだ。そのため、国内でもスタートアップの役割の拡大を考える必要があるだろう。スタートアップ側も役割を担えるだけの実力をつけることが不可欠である。

日本のスタートアップの役割を拡大させるために

大手企業は「オールドスペース」と呼ばれることもあり、スタートアップなどを指す「ニュースペース」と対立的に取り上げられることも多かった。しかし状況が変わったことで、今後はスタートアップの能力向上のため、大手企業とスタートアップが連携した機会の創出が必要と考える。

これまで日本で宇宙分野のスタートアップへの出資と言えば、異業種大手による新規事業開発向け中心だった。しかし2023年2月に三菱電機によるアストロスケールホールディングスへの出資・協業が発表され、大手企業とスタートアップの連携が本格化し始めた。欧米では数年前から大手宇宙企業が新規技術の発掘などを狙って宇宙スタートアップへの出資や協業を積極的に推進し、対立状態から相互に協調するステージに転換した。やや出遅れた感はあるが、日本でも今後増加が見込まれるスタートアップの参加も交えたエコシステムの形成を考えるべきではないだろうか。

※1:米国、ロシア、中国、イスラエル、インド、日本の6カ国(着陸挑戦順)。

※2:世界中の商用衛星と米国の軍事衛星。

※3:最終的には軌道上に約3万機の追加配備を目指している。

※4:一般社団法人SPACETIDE(2022年10月)「SPACETIDE COMPASS Vol.7」。