マンスリーレビュー

2023年6月号トピックス1デジタルトランスフォーメーション

「DX疲れ」からの突破口 3つの課題と処方箋

2023.6.1

デジタル・トランスフォーメーション部門杉江 祐一郎

デジタルトランスフォーメーション

POINT

  • 「DX推進状況調査」から見えたデジタル化進展の2極化状況。
  • 当社の顧客課題の解決経験を踏まえ、3つの課題の処方箋を提示。
  • DX推進に求められる「失敗からの軌道修正に相対する強い意志」。

日本企業のデジタル化進展は2極化

当社は2022年12月、前年に続いて「DX推進状況調査」※1を実施した。課題解決に向けた処方箋の概観を考察すると前回との差異として、デジタル技術を活用した新たな価値の創造を指す「ビジネス変革」の段階に至った企業層が33%と5%ポイント増加した一方、「データ化・オンライン化」段階にとどまる企業は30%と変動がなかった。

ビジネス変革層がジワリと増えつつ、取り組みに苦戦する企業との2極化傾向も見られた。

調査から見えたDX推進上の3つの課題

変革を進めている企業の共通点から見える課題は、まず将来事業のあるべき姿として「DXビジョン」を描き実行していることだ。ビジネス変革段階の企業層の58%は「ビジョンを策定済みで計画通り実行」と回答。他の企業層との差は大きい。

第2は「データやファクトを重視した判断」である。ビジネス変革段階の企業層の48%が、DXの成功要因にデータ活用を挙げた。そして第3の課題が、「階層間の連携によるDX投資の実現」である。投資を増額した企業の74%は「経営層の危機意識」をDX成功の要因として挙げた。実務者と経営の連携が円滑であることがうかがえる。

当社顧客の支援事例に基づく3つの処方箋

当社の経験も踏まえ、前述の3つの課題解決の処方箋を1点目のDXビジョンから考察する。

ビジョン策定にはCDO(最高デジタル責任者)の任命や担当部署の割り振りにより推進責任を明確化し、全社を巻き込んで各部署の課題を言語化することが成功の鍵となる。しかし、ビジョン実現のため施策を細分化した結果、独立したITプロジェクトの集合体にとどまる懸念もある。

これを避けるため当社では、戦略上重要な横串の変革領域軸※2を設定し、全体が連携して一つの目標を実現する道程「DXジャーニー®」を具体化することを勧めている。定めた計画の到達度を測る指標を設計して、実行状況に応じてビジョンや指標をアップデートすることも重要である。

さらにデータ活用により、収益や業務品質の向上を直接図ることができる。しかし、いざ取り掛かると「データ分析人材がいない」などさまざまな障壁にぶつかる。いきなり全社のデータを活用する大構想を掲げるのではなく、まずは多くの人がメリットに感じる具体的なビジネス課題※3を設定できるとよい。そして基幹系業務などの「今あるデータ」の可視化から着手し、議論の共通の土台として活用を習慣化することが肝要である。

階層間の連携では、「ビジョンに沿ってDX投資の増額を実現」した企業のデジタル化が特に進展していたことが調査結果から明らかになった。実務者層としては、ビジョンを堅持し着実に遂行しつつ、投資効果や進捗を可視化し経営層と共有できるとよい。経営層はデジタル技術を理解している部下に権限を与えるなど、現場を後押しすることを意識したい。「失敗」は「検証・学習」と捉えて、迅速に軌道修正する強い意志が必要である。

※1:直近一年間の売上高が100億円以上の1,000社を対象に2022年12月実施。

※2:DXジャーニー®」では①UX(顧客体験)、②オペレーション、③ビジネスモデル、④システム、⑤組織の5軸をもとに設計。

※3:組織にとって最重要である売上高・利益増に関することや、社員の共感を得やすい業務負担軽減に関することなど。