マンスリーレビュー

2023年10月号トピックス2エネルギー・サステナビリティ・食農

洋上風力のコストを低減するデジタル技術

2023.10.1

English version: 6 February 2024

エネルギー・サステナビリティ事業本部小島 泰志

エネルギー・サステナビリティ・食農

POINT

  • 日本の洋上風力発電に運転維持(O&M)コスト低減は必須。
  • 風車の稼働率向上にデジタル技術によるメンテナンスが有効。
  • 協調的な風車データの蓄積で、デジタル技術のさらなる活用を。

洋上風力発電の継続的な導入に向けて

日本の洋上風力発電では、2040年までに最大45ギガワットの案件形成を目標として、排他的経済水域(EEZ)を含む海域での導入拡大が検討されている。洋上風力の導入量を継続して増やすためには発電コストの低減が必要だが、中でも総事業費の約3割を占める運転維持(O&M)コストの低減が求められる。

洋上風力はアクセスの制約から故障時の対応が遅れるリスクが高く、大規模修繕になるとO&Mコストは大きく増加する。解決に向けたヒントは、洋上風力の導入が進む欧州の取り組みにある。

欧州で進むデジタル技術の活用

欧州ではO&Mコスト低減の観点からデジタル技術の活用を進めている。ドローンやロボットで撮影した大量の画像データを、AIを用いて解析する点検技術のほか、制御システムや振動センサーのデータなどの解析によるモニタリングを行う。故障予知や風車の余寿命診断に役立て、点検やメンテナンスに要する時間や人員の削減、運転停止期間中の発電量損失の低減、設備の長寿命化によるライフサイクルコストの低減につなげている。

風車のメンテナンスは、発電事業者との契約によりメーカー主導で行うケースが多い。欧州では発電事業者自らがデジタル技術を駆使したO&M戦略を立てて予防的な保守を行うことで風車の稼働率を向上させ、メーカーが実施するときよりもコスト低減を図る事例も出てきている。

風車データの有効活用を図る

日本の洋上風力でデジタル技術の活用を進めるのに先立って、発電所のデータの蓄積も必要となる。ただし課題もある。まず風車メーカーとの契約によるデータ収集の制約がある。

洋上風力の導入初期段階では、海外風車メーカーとの長期間の保証契約が想定される。契約時には、風車データの取り扱いやアクセス権などが協議されるが、発電事業者による風車データの収集に制約が生じないよう、メーカーとの交渉を進める必要がある。

さらに今後は、データの協調的な利用への理解醸成も必要だ。解析するデータをより多く蓄積できれば、AIを用いた風車の運用改善に役立つアプリケーションの開発をこれまで以上に進めることが可能になるだろう。

ただし第三者へのデータ提供にメーカーが難色を示すことも多く、限定的な共有にとどまる可能性もある。風車データを集積するためには、発電事業者が協調すべき課題を設定し、データを集約する目的を明らかにする必要がある。例えば日本特有の落雷、ブレードの浸食(エロージョン※1)への対策、洋上風車の風況データを反映してシミュレーションモデルの精度向上を図ることなどは、O&Mの将来にとって重要な共通課題である。

O&Mの高度化を社会課題と捉え、DXを絡めた協調的な取り組みを進めることが、日本の洋上風力の今後を考える上でも重視されるべきだ。

※1:高速回転するブレードの先端部に雨粒が当たることによる劣化現象。