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送配電事業が抱える課題とその解決に向けて

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2019.3.25

環境・エネルギー事業本部中村俊哉

環境・エネルギートピックス
2016年4月に電力小売全面自由化が始まった。これに伴って、一般送配電事業者には託送料金(電力を送るための送配電系統の利用料金)を算定し、経済産業大臣の認可を得ることが必要になった。託送料金に基づく各事業者の収支結果は、電力・ガス取引監視等委員会において毎年横並びで評価され、支出の低減策として設備関連費や工事費などのさらなる圧縮が求められている。背景には、高度成長期に大量に設置した電柱などの設備が更新時期を迎えていることがある。収入面に目を向けると、太陽光発電をはじめとした分散型電源の大量導入が系統電力の需要を減少させ、託送料金の収益が減っていくことが懸念されている。実際に、欧米諸国では、固定費を回収するために託送料金を値上げしたことで、顧客の系統電力利用の回避(自家消費)が進み、託送料金をさらに上げざるを得ないという負の連鎖(デススパイラル)が生じている。こうした問題に対処するため、基本料金と従量料金の割合を変更するなど、さまざまな対策がとられている。以上をふまえると、一般送配電事業者は、事業環境の変化に適切に対応し、収入の減少リスクを踏まえつつ、継続的なコスト削減を図っていく必要があるといえる。

一方、分散型電源の大量導入に的確に対応するためには、系統増強あるいは調整力確保のための設備投資を効率的に進めていく必要がある。欧米諸国では、ガスコージェネレーション、蓄電池などの分散型電源が有する柔軟な調整力(フレキシビリティ)を系統運用に最大限活用するという視点で、設備投資の取り組みが進められている。今後、日本においても同様のニーズが一層高まっていくと考えられる。

加えて、送配電事業以外のビジネス開発も重要な課題である。2020年には、送配電事業の法的分離(発電事業・小売電気事業との別会社化)が予定されており、一般送配電事業者にはより自律的な事業運営体制の構築が求められる。そのために、自社のリソース(送配電設備やインフラ保守のノウハウなど)を活用して新たな収益源を創出しようとする動きもみられる。

以上の三つの課題のうち、一つ目の課題である「収入の減少リスクを踏まえた継続的なコスト低減」への対策としては、事業者間での設備仕様の統一化などを行い資機材調達コストのさらなる低減を目指すことや系統電力利用の実態に合わせた合理的な設備形成などが挙げられる。二つ目の課題である「系統運用における分散型電源が有する柔軟な調整力の活用」に対しては、分散型電源の発電量などを監視・制御するためのシステム開発や運用するための新たな仕組みの構築などが検討されている。三つ目は「既存リソースを活用した新たな収益源の創出」であり、この課題に対しては、電柱に高齢者や子供を見守るセンサや路上機器に広告物を取り付けることで付加価値を生む取り組みなどが挙げられる。

これらの課題解決には、先進技術の知見、電気事業制度の知見、新規事業開発に関する総合的知見が求められる。欧米諸国の先進技術や新規事業の日本への適用を検討する場合には、日本の電気事業制度との違いは重要な視点となる。例えば日本では総括原価方式を採用しているのに対し、欧米諸国ではレベニューキャップを採用している。前者は、送配電事業に必要な原価に応じて託送料金を設定する仕組みであり、収支を一致させることで一定の事業報酬を保証するものである。一方、後者は一定の期間において託送料金収入の総額に上限を設ける仕組みであり、コスト削減を図るほど一般送配電事業者の利潤も増加する。具体的に検討を進めるうえでは、このような背景の違いを十分に理解しておく必要がある。

当社では、多彩な研究員が、これまで培ってきた実績やノウハウ、ネットワークを生かし、さまざまな形で課題解決に関わらせていただいている。例えば市場動向や先進事例の調査をはじめ、業務プロセス改善、システム開発・改良、新規事業の具体化検討、さらにはAIを活用した新たな技術・分析手法の開発など、広範囲に及ぶ。社会課題解決をミッションとする当社の研究員として、これらの業務を通じて、健全かつ持続可能な送配電事業運営に今後も貢献していきたい。
図 一般送配電事業者が取り組む課題と対策例
図 一般送配電事業者が取り組む課題と対策例
出所:三菱総合研究所

電力・ガス取引監視等委員会(閲覧日2019年3月15日)
http://www.emsc.meti.go.jp/activity/