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経営戦略とイノベーション経営コンサルティング

長期ビジョンで企業変革を実現する 第4回:目指す姿をビジョンに落とし込む

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2019.10.17

経営イノベーション本部宮川貴光

藤澤広洋

山越理央

経営戦略とイノベーション
本連載では、長期ビジョンの有効性と、策定プロセスについて紹介してきた。4回目となる本稿では、ビジョン設計におけるポイントを整理する。
将来起こりうる環境変化を予測し(第2回参照)、現在の自社事業・自社らしさについて評価を行った(第3回参照)うえで、目指すべき姿・方向性を形作る。これが、長期ビジョン策定における一連の流れとなる(図1)。
図1 長期ビジョン策定の5ステップ
図1 長期ビジョン策定の5ステップ
出所:三菱総合研究所

1. ビジョン設計とは「登る山を決める」こと

ソフトバンクグループの創業者(現会長)である孫正義氏は、その発言の中で、会社の在り方を登山に例えることがしばしばある。
「自分の登りたい山を決めないで歩くのは、さまように等しい」
「登りたい山を決める。これで人生の半分が決まる」

出所:ソフトバンクグループホームページ「孫 正義 LIVE 2011」より抜粋
https://group.softbank/corp/about/message/2010/20100416_01/(閲覧日:2019年9月12日)

氏の例えに倣うならば、ビジョン設計とは「登る山を決める」ことであり、これまで本コラムにて紹介した策定プロセスは「なぜ、その山を登るのか」という理由を整理する作業となる。登る山を決めたのち、どのように登るか(=戦略)、いつまでに登るか(=目標)を計画していくことで、ビジョン策定が完了となる(図2)。
図2 ビジョン設計のイメージ
図2 ビジョン設計のイメージ
出所:三菱総合研究所

2. ボトムアップ型のビジョン設計

ビジョン設計においては、関与メンバーの議論をより活発化させ、創発的な取り組みとすることが重要である。メンバー一丸となり、あえて期限を設けず、納得がいくまでとことん議論する。議論によって、自社の将来について、これまで想像もできなかったような新たな姿を導出するチームもあれば、現状にとらわれ、発想を飛躍できなかったチームなど、さまざまなケースを見てきた。ここがビジョン策定におけるキモであり、検討メンバーの腕の見せ所でもある。
ビジョン策定を従業員の中から選定したメンバーで進める場合、MRIでは事業単位での戦略を検討したうえで、全社戦略に収斂させていくボトムアップ型のアプローチを推奨している。選定されるメンバーは、次世代幹部候補として期待される優秀な人材であるものの、現時点では事業部門にて活躍する一従業員であり、全社レベルで経営を議論することはまれである。
経営者のもつべき思考として、「視点・視野・視座」という言葉がある。視点は「対象への着眼点」、視野は「観察する範囲」を指す。また、視座は「対象を観察する際の位置(ポジション)」を示すものであり、事業を一段高いところから見渡すことで、将来の姿に思いを巡らせることができる(図3)。
図3 「視点・視野・視座」のイメージ
図3 「視点・視野・視座」のイメージ
出所:三菱総合研究所
事業部門で活躍する選定メンバーは日々の業務において、視点と視野は鍛えられるが、視座が必要となる場面に遭遇することは少ない。そのため、視座が伴わない検討の初期段階においては、全社の方向性に関する議論が空中戦に陥ってしまい、議論の質が高まってこないケースが散見される。上記問題を解決する手法として、まずは事業単位での戦略から検討をスタートするプロセスをとっている。
図4 ボトムアップ型のビジョン設計
図4 ボトムアップ型のビジョン設計
出所:三菱総合研究所
日頃携わっている事業については、将来の変化や現状の事業課題はイメージしやすく、メンバーは視座を培いながら、将来の方向性を想起することができる。現在のビジネスモデルは通用するのか、将来発生しうる機会を捉えるためにどう変革していくのか……。事業レベルで検討した内容から共通項を見いだしながら、全社の方向性について議論することで、経営視点をもった検討を進めることができる。

3. ビジョンを言葉に落とし込む

検討を進め、ある程度意見がまとまってきた段階で、ビジョンを言葉に落とし込む作業に移る。自社が将来にわたって目指す姿を表現するものなので、従業員のみならず、ステークホルダーに対しても、分かりやすく、将来の姿がイメージできる言葉であることが求められる。
これまで議論してきた内容を論理立てて整理していくことに加え、心に響く言葉に変換していく右脳的な発想も必要だ。これは最後までメンバー内で意見がまとまらないこともある、非常に骨の折れるプロセスである。
一言で対象に意図を想起させるという点では、コピーライティングに似ているが、単に心地よく韻を踏むような言葉づくりを志向するのは本末転倒である。短文でキャッチーであることは望ましいが、多少長くとも、チームで検討してきた自社の将来像を想起できるような言葉を選んでいくことが非常に重要となる。
社風として「堅い」企業ほど、このプロセスで議論が煮詰まってしまうことがある。その場合、まずは従業員に対して何を伝えていくか、という点に絞って検討を進めることで、おのずと言葉はまとまっていくことが多い。また、これまでメンバーで検討時に用いていた言葉がそのまま採用されるケースも多い。
繰り返しになるが、自社が思い描く将来の姿を共有するために、ビジョンを言葉にするのであり、「自社らしい」言葉を選択することが最も有効であると考えている。
上記のプロセスを経て、自社の目指す姿をイメージとして形にする段階に到達することになる。冒頭に述べた、登山に例えるならば「登る山」と「なぜ登るのか」を関係者に伝えることができる状態になったといえる。
第5回では、従業員、ならびにステークホルダーに対し、一緒に山に登ってもらうために必要な戦略目標と基本方針の立て方、そして、変革に向けたロードマップへの落とし込み方について紹介したい。

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