まずバイオジェット燃料が現在は市場流通段階にない点があげられる。日本では新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が製造コスト120円/リットルを目標※7とする技術開発を行っているが、化石燃料であるジェット燃料油(ケロシン)が、現在税抜きで60円/リットル程度なのに対して高コストであり、市場で自然に需要が発生し流通することを期待するのは難しい。このため、政策的に誘導する必要があるが、他の温暖化対策との関係においてバイオジェット燃料利用をどう位置付けるか、その扱いが市場形成に影響すると考えられる。
次にICAOが導入したCORSIAで、航空会社がクレジット※8を削減対策として使用することを認めている点もあげられる。クレジットの流通価格が現在は数百円~数千円/tCO2程度の水準であるのに対して、バイオジェット燃料を導入した場合、削減コストが5万円/tCO2程度※9の水準であり、費用対効果の面でバイオジェット燃料は苦しい状況にある。このため、国際航空部門以外の削減対策への資金流出につながるクレジット利用に制限をかけなければ、バイオジェット燃料の利用が限定的になる恐れがある。
またバイオジェット燃料の利用が、現在使われている化石燃料(ケロシン)に対して燃焼時だけでなく燃料製造時などを含むライフサイクルの視点から温室効果ガス排出量を削減していなければならない点もあげられる。これは、燃料燃焼時だけをみればカーボンニュートラルで純排出量は0になるバイオジェット燃料も、原料となる植物を栽培し、原料(都市ゴミ、動植物油脂、廃食油や木材など)から燃料を生成・輸送する過程でさまざまな温室効果ガスを排出する。このため、実際に燃料を使用するに当たってはライフサイクルにおけるCO2の排出も含めて考える必要があり、バイオジェット燃料だから直ちに削減対策として優れているとはいえない。実際にICAOの評価をみると、化石燃料と比べた削減率※10は、原料と製造プロセスの種類によって26~94%とまちまちであり、削減効果の優れたバイオジェット燃料を選んでいく必要がある。
当社では、これまで政策調査を中心に、バイオジェット燃料関連の制度設計支援を行ってきたが、市場調査や技術調査など、今後のバイオジェット燃料市場を目指す事業者への支援も拡大している。世界の航空需要が伸びていく中、日本にとっても不可欠な取り組みに貢献していきたい。
※ 1:気象庁「世界の年平均気温」
https://www.data.jma.go.jp/
※ 2:「Flygskam(スウェーデン語)」のこと。スウェーデンを発祥とし、ヨーロッパを中心に温室効果ガス排出量の多い航空輸送の利用を恥じるという考え方が広がっている。実際にスウェーデンでは航空輸送の利用客数が減少し、鉄道輸送の利用客数が増加する傾向がみられる。
※ 3:国内旅客輸送の輸送量当たりの二酸化炭素排出量で比較した場合、航空は鉄道に比べ約5倍となる。
国土交通省「運輸部門における二酸化炭素排出量」
https://www.mlit.go.jp/
※ 4:International Civil Aviation Organization。国連の専門機関の一つ。
※ 5:Carbon Offsetting and Reduction Scheme for International Aviation。国際民間航空輸送を対象とした国際航空におけるカーボンオフセット制度。
※ 6:輸送量の多い国際空港で一般的に用いられる空港地下埋設管での燃料供給システム。
※ 7:NEDO「『バイオジェット燃料生産技術開発事業』基本計画による2030年目標」
https://www.nedo.go.jp/
※ 8:省エネや再エネの導入など、排出削減の取り組みを行った結果として削減効果の量を証明するもので、削減した量を取引することができる。排出削減義務がある場合に購入すれば、その目標達成に使うことができる。国際航空部門以外のさまざまな分野で発行されており、CORSIAで利用する場合には、国際航空部門外の削減対策を資金的に支援することにつながる。なお、CORSIAでは適格性基準が示されているものの、具体的にどの種類のクレジットが適格かはまだ公表されていない(2020年1月時点)。
※ 9:化石燃料との価格差を60円/リットル程度、ライフサイクルにおける温室効果ガス排出削減率を50%程度と仮定した場合。
※10:土地利用変化による排出を除く(出所:ICAO(2019)“LCA Methodology”)。