コラム

環境・エネルギートピックス環境・エネルギー

再生可能エネルギーと電力市場

1kWhあたり0.01円の電気とは?

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2020.3.27

環境・エネルギー事業本部齋藤憲作

環境・エネルギートピックス
0.01円と聞いてどのような印象をお持ちになるだろうか。近頃、日本の全販売電力量の30%を超える電力が取引されている※1日本卸電力取引所(JEPX)のスポット市場※2で、九州をはじめ、西日本の電力価格が0.01円/kWhで約定する頻度が増加している。一般家庭の電気料金単価がおよそ20~30円/kWhであることを考えれば破格にも思えるが、なぜこのような低価格で電力が取引されているのであろうか。
電力は大規模に貯蔵することが困難な財であるため、取引価格は需要と供給のバランスによって時々刻々と変化する。JEPXのスポット市場では1日を30分ごとに48の時間帯に分割し、それぞれの時間帯で主に発電事業者が売り入札、小売事業者が買い入札を行い、需給がバランスする点でその約定価格(円/kWh)と約定量(kWh/h)が決定される。端的に言えば、電力需要が供給に対して大きい時間帯では価格が上昇し、供給が需要に対して大きい時間帯では価格が低下する仕組みとなっている。このとき、発電事業者などにとっては市場価格と限界費用(実質的に次の1kWhを増加させるために必要な燃料費)の差が、それぞれの電源における設備建設費といった固定費の回収原資となる。
図 電力価格決定の仕組み(イメージ)
図 電力価格決定の仕組み(イメージ)
出所:経済産業省 資源エネルギー庁 第1回 総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 電力・ガス基本政策小委員会 制度検討作業部会(開催日:2017年3月6日)「資料5 今後の市場整備の方向性について」https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/denryoku_gas/seido_kento/pdf/001_05_00.pdf(閲覧日:2020年3月6日)p.28
および 一般社団法人日本卸電力取引所「平成28年4月からの制度変更に関する説明会説明資料」(2015年12月16日)http://www.jepx.org/news/pdf/jepx20151216.pdf(閲覧日:2020年3月23日)p.18
をもとに三菱総合研究所作成
ここで「0.01円/kWh」は現行のJEPXシステム上の最低入札価格※3であるが、電力価格が0.01円/kWhに決まるのは、大まかに言えば、限界費用ゼロの電源※4によって、その時間帯の電力需要が満たされることを意味する。ここ数年、固定価格買取制度(FIT制度)によって送配電事業者に買い取られる太陽光・風力発電などの再生可能エネルギー電源が著しく増加している。特に太陽光発電量の多い九州エリアでは、昼間の一部時間帯で需要に迫るほどのFIT再エネ電力が生み出され、電力「不足」ならぬ電力「余剰」が生じている。こうした余剰が、0.01円/kWhの価格が発生する主な要因となっている。
言い換えれば、0.01円/kWhの電力価格は、本来は従来方式の発電設備に比べて発電コストの高い再エネ電力が、FIT制度によって送配電事業者に固定価格で買い取られ大量に安価で市場に供給されたことで生じた市場の「歪み」とも言える。FIT制度はこれまで日本の再エネ普及に貢献してきたが、太陽光発電導入量の拡大した現在では有識者会議などにおいて次のような懸念が指摘されてきた。
中長期的な電力安定供給の阻害
電力は安定供給の観点から需要と供給を常に一致させる必要がある。そこで、旧一般電気事業者に代表される発電事業者などは、太陽光・風力発電の出力変動に対応するため、発電量を容易に調整可能な火力発電所を、燃料費や固定費を市場から回収することのできない低価格の時間帯であっても稼働させておく必要がある。したがって市場価格が下がるほど発電事業者などの収益は悪化し、既設発電所の保守・点検といった維持管理や老朽化した発電所のリプレースが滞る恐れがある。こうした事態が長期にわたれば、猛暑・厳冬や災害といった需給ひっ迫時に火力発電所を稼働できず、電力不足に陥る可能性もある。

国民負担の増大
送配電事業者がFIT再エネ電力の買い取りに要した費用は、小売電気事業者と需要家が負担する。このうち需要家が負担する費用は再生可能エネルギー発電促進賦課金(再エネ賦課金)として電気料金に転嫁されている。その単価はFIT再エネ電力の買取価格と電力市場価格(回避可能費用)の差※5をもとに決定されるため、市場価格が下がるほど需要家の負担額が増加する傾向にあり、国民の生活を圧迫する可能性がある。
このような背景から、中長期的な供給力および調整用火力電源の安定的な確保を主な目的とした容量市場※6が開設され、その初回入札が今年2020年7月に実施される予定となっている。
また、再エネ普及のための時限的な優遇措置であったFIT制度については、規定された抜本的な見直し期限である2021年3月が迫っており※7、先月2月25日には市場との統合を意識したFIP(Feed-in-Premium)制度※8の創設を踏まえた法改正案が閣議決定された※9。FIP制度の下では固定価格買取は行われず、再エネ発電事業者などが収益を確保するためには発電コストと収入プレミアムを考慮の上、一定以上の価格で再エネ電力を市場などに売却する必要が生じる。したがって0.01円/kWhといった低価格での取引は減少し、市場の「歪み」は解消していくものと考えられる。
今後、再エネが主力電源としての地位を確立していくためには、電力市場との親和性向上および継続的な投資インセンティブ確保、そして国民の理解と協力を欠くことはできない。これらを満足することができる新たな市場・制度の早急な整備が望まれるところである。
当社では、再エネ主力電源化を見据え、さまざまな形でお客様の電力ビジネスを支援しており、中でも卸電力取引向けのオンライン情報サービス「MPX(MRI Power Price Index)」※10では、電力フォワードカーブや1カ月先までのJEPXスポット市場価格予測といった卸電力市場に関する豊富なコンテンツを配信している。これからも本サービスを通して公正かつ有益な情報をタイムリーにお届けすることで、日本の再エネと電力市場の活性化を後押していきたい。

※ 1:https://www.emsc.meti.go.jp/activity/emsc_system/pdf/044_08_00.pdf (閲覧日:2020年3月6日)

※ 2:http://jepx.org/index.html(閲覧日:2020年3月6日)

※ 3:https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/denryoku_gas/pdf/015_05_00.pdf (閲覧日:2020年3月6日)

※ 4:事実上限界費用ゼロの電源は、下記①~③が該当する
①長期固定電源(一般水力・地熱・原子力発電)
②固定価格買取制度(FIT制度)によって送配電事業者に買い取られる太陽光・風力発電などの再生可能エネルギー電源
③周波数調整や需要・再エネの想定誤差などの調整に必要な最低限の火力電源

※ 5:https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/shoene_shinene/shin_energy/pdf/012_01_00.pdf (閲覧日:2020年3月19日)

※ 6:https://www.occto.or.jp/market-board/market/files/200205_mainauction_boshuyoukou_jitsujukyu2024.pdf(閲覧日:2020年3月6日)

※ 7:https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/saisei_kano/pdf/013_01_00.pdf (閲覧日:2020年3月10日)

※ 8:https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/saiene_shuryoku/001/pdf/001_008.pdf (閲覧日:2020年3月6日)

※ 9:https://www.meti.go.jp/press/2019/02/20200225001/20200225001.html (閲覧日:2020年3月6日)

※10:https://www.mpx-web.jp/ (閲覧日:2020年3月6日)