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日本の洋上風力の発展に向けて:洋上風力産業ビジョンと官民が持つべき視点

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2021.7.2

サステナビリティ本部寺澤千尋

環境・エネルギートピックス
国際社会において気候変動対策は急務であり、日本においても2030年までの温室効果ガス排出量46%削減や、2050年までのカーボンニュートラル達成など、脱炭素化に向けた目標が発表されている。当社は、2050年カーボンニュートラルの達成に向けて、①需要側の行動変容、②電力部門の早期ゼロエミッション化、③戦略的イノベーションの推進、が重要と考えている。海に囲まれた日本において、洋上風力は②の電力ゼロエミ化に大きく貢献する重要電源である。

本コラムでは、2020年12月に発表された「洋上風力産業ビジョン(第1次)」※1における3つの目標を概説するとともに、本目標の達成と洋上風力の導入加速化に向けて官民が持つべき視点を提言する。

官民の約束:「洋上風力産業ビジョン(第1次)」の発表と3つの目標

2020年12月、「洋上風力の産業競争力強化に向けた官民協議会」※2(以下、官民協議会)において、洋上風力の導入拡大と関連産業の競争力強化に向けて官民が一体となって取り組むべき施策を取りまとめた「洋上風力産業ビジョン(第1次)」が発表された。

本ビジョンの最も重要なポイントは、3つの目標が設定されたことである(図1)。官民双方の「約束」として、国においては「導入目標」を達成すること、産業界においては「国内調達比率目標」および「発電コスト目標」を達成することが明記された。特に洋上風力の具体的な導入目標(2030年までに10GW、2040年までに30~45GW)が示されたことは非常に大きな前進であり、本発表を受けて、日本市場への国内外企業の投資が活発化している。
図1 洋上風力産業ビジョン(第1次)で掲げられた3つの目標
図1 洋上風力産業ビジョン(第1次)で掲げられた3つの目標
出所:「洋上風力産業ビジョン(第1次)」を基に三菱総合研究所作成
各目標を正しく理解するためのポイントと論点を解説したい。

導入目標について、「導入」という言葉が使われているが、本目標の正確な定義は国の認定を受けた「案件形成」目標であり、2030年までに10GW、2040年までに30G~45GWの洋上風力が運転開始に至っていることを想定した目標ではない。この点は、多くの関係者が誤認している可能性が高い。2030年までの温室効果ガス46%削減目標に寄与するためには、本目標の達成のみでは不十分であり、形成された案件の早期運転開始を実現するための追加的施策が必要であることを念頭に置く必要がある。

次に国内調達比率について、風車部品の60%の国産化を目指すと解説している報道が存在するが、これは誤認である。本目標は製造分野に限るものではなく、調査・製造・建設・運用・メンテナンス・撤去までの、ライフサイクル全体における国内調達比率を60%に引き上げるという内容である。洋上風力に限らず、ものづくりはグローバルサプライチェーンの中でコストが最適化されている。製造分野単体で高い国内調達比率を目指すという認識は、既存の最適なサプライチェーン形成をゆがめる可能性がある点に十分な注意が必要である。

最後に発電コストについて、実はその明確な定義が示されていない。これまでの政府における議論の経緯を踏まえれば、本発電コストは「発電原価」を指しており、事業者における適正な利潤を考慮した入札価格(=発電原価+適正利潤)とは同義ではない点に注意が必要である。

今後、各目標の達成状況や成果を評価する際には、上記の点を念頭に置いた、正しい理解や定義に基づく議論を進めることが極めて重要である。

目標達成と洋上風力導入加速化に向けて官民が持つべき視点

3つの目標の確実な達成と洋上風力導入加速化に向けて、官民が持つべき視点として下記の点を提言したい(図2)。

導入目標およびコスト目標については、可能な限り多くの案件を2030年までに運転開始させること、さらに着床式に加えて浮体式※3の導入加速化を念頭に置いた取り組みを進めることが重要である。また、国内産業育成のためには、短期的なコスト増加を許容する政策支援が必要であり、コスト低減と国内産業育成のバランスを考慮した入札制度の運用が重要である。国内調達比率については、達成状況をモニタリングしながら、国内産業・人材を育成していくための施策を適時に講じていくことが重要である。
図2 洋上風力導入加速化に向けて官民が持つべき視点
図2 洋上風力導入加速化に向けて官民が持つべき視点
*1:広域連系系統のマスタープラン及び系統利用ルールの在り方等に関する検討委員会「マスタープラン検討に係る中間整理」
https://www.occto.or.jp/iinkai/masutapuran/2021/files/masuta_chukan.pdf(閲覧日:2021年6月15日)
*2:英国では、2040年までに国内調達比率(UK Content)を60%まで高める目標を設定し、国内調達比率の報告制度を運用している。

出所:三菱総合研究所

洋上風力の安定的成長に向けて

「洋上風力産業ビジョン(第1次)」と3つの目標の発表により、日本の洋上風力は本格的な導入に向けてスタートを切った。洋上風力の安定的成長に向けては、上記に提示した事項に着実に取り組むとともに、カーボンニュートラルを見据えた2050年導入目標の具体化など、中長期的な取り組みも同時に進めることが重要である。

また、洋上風力の主力電源化に向けては、電力安定供給の視点も忘れてはならない。欧州の先行事例を参考としながら、洋上風力発電の運用パフォーマンス改善、信頼性向上などを目的とした運用データを共有するプラットフォームの創設※4など、電力安定供給を支える仕組みの構築も重要である。

これらの取り組みを適時に講じていくためには、官民協議会における継続的な対話を通じた、スピード感を持った制度改善、施策の具体化・実行が極めて重要である。当社では、関連プロジェクトを通じて、官民協議会における検討の支援を行っている。また、洋上風力分野で豊富な実績を持つ英国BVG Associatesとの連携を強化し、サービスの拡充を図っている※5。今後も官公庁および事業者の皆さまと議論を重ねながら、官民双方をつなぐ存在として、洋上風力発電市場の育成・発展に貢献していきたい。

※1:洋上風力の産業競争力強化に向けた官民協議会「洋上風力産業ビジョン(第1次)」
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/yojo_furyoku/pdf/002_02_02_01.pdf(閲覧日:2021年6月14日)

※2:経済産業省 洋上風力の産業競争力強化に向けた官民協議会
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/yojo_furyoku/index.html(閲覧日:2021年6月14日)

※3:洋上風力は着床式と浮体式に分類される。着床式は海底に基礎を固定し、基礎の上に風車を設置する発電設備で、現在欧州で商用運転されている洋上風力のほぼ全てが着床式である。浮体式は、浮体構造物を係留索・アンカーで海底に固定し、浮体構造物の上に風車を設置する発電設備である。

※4:英国では、洋上風力発電の運用パフォーマンス改善、コスト削減、信頼性向上などを目的に、発電事業者と国が連携したデータ共有プラットフォーム(SPARTA)を設立・運用し、事業者間のデータ共有を推進している。
SPARTA
https://www.sparta-offshore.com/SpartaHome(閲覧日:2021年6月15日)

※5:当社ニュースリリース「三菱総合研究所、英国BVG Associatesと覚書を締結」(2021年5月11日)

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