コラム

福島第一原子力発電所事故後の原子力エネルギー

廃炉時代の地域産業

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2021.10.18

セーフティ&インダストリー本部小野寺将規

福島第一原子力発電所事故後の原子力
2020年7月に発表したコラム「今後到来する廃炉時代に向けた三つの視点」では、原子力発電所を取り巻く環境変化に対し、「(1)経済合理性の追求」「(2)電源立地地域の産業への影響」「(3)適切な安全規制制度の導入」の三つの視点を紹介した。本コラムは、そのうち、(2)電源立地地域の産業への影響に焦点を当てる。

原子力立地に伴う地域経済への影響

原子力発電所は、立地地域にとって重要な経済・財政的基盤を形成する構成要素である。原子力発電所を安全かつ安定的に運転することによって、発電所から地元企業への直接的な発注に加え、発電所で働く従業員やそこに出入りする関係者へのサービス提供といった二次的な経済波及効果が生み出される。さらに、原子力発電所の立地には電源三法交付金による地域への財政的な手当や、固定資産税・核燃料税などの各種税収があり、単に地域の経済だけでなく、財政をも支えている。

地域の経済・財政のこうした実態が長らく続いてきたことにより、結果として原子力発電所との意図しない依存関係が構築されてきた※1

しかし、福島第一原子力発電所の事故後、廃炉プラントが増加するなど原子力を取り巻く環境が変化しつつあり、地域との旧来的な依存関係が成立しえなくなっている。具体的には、発電所の運転が再開されなければ、定期検査などのメンテナンスや工事業務に関する地元企業への発注が減少する。加えて、各種税収の減少や電源三法交付金による手当の消失※2による、地方自治体の財政基盤への負の影響が発生する。

つまり、地域が原子力発電所の運転に対して経済・財政的に過度に依存することへの懸念が高まっている。

廃炉が新たな地域産業の萌芽に

立地地域として、経済・財政的な持続可能性を確保するために、原子力発電所の運転に過度に依存しない関係を構築することが必要である。この鍵は新たな地域産業の創出である。新たな地域産業にはさまざまな選択肢が存在し、原子力以外にも新たな地域産業の創出につながる可能性はあるだろう。しかし、とりわけ原子力産業が成長してきた立地地域においては、廃炉という環境変化も新たな地域産業創出の可能性とみなせるはずだ。地域の現状・メリットを踏まえた積極的な事業機会の契機と捉えたい。

プラントが廃炉になるといっても、すぐに地域産業が失われるわけではない。廃炉プラントでは、1基当たりのおおよその事業規模※3が運転プラントの定期検査業務と比べて小さくなる(表)が、この廃炉関連事業を可能な範囲で地元が引き受けることで、新たな地域産業の創出に積極的に活かしてはどうか。
表 原子力発電に係る概算事業費
表 原子力発電に係る概算事業費
出所:総合資源エネルギー調査会基本政策分科会発電コスト検証ワーキンググループ(第8回会合)資料3「各電源の諸元一覧」を基に三菱総合研究所作成

*:https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/mitoshi/cost_wg/2021/data/08_06.pdf(閲覧日:2021年10月12日)
例えば、廃炉プラントからは、原子力施設の解体などに伴う廃棄物※4やクリアランス物の処理・処分作業が大量に発生する(図)。地域と電気事業者が「自律」の精神を持ち、どちらかが一方向的に依存する関係ではなく、双方が成長できる取り組みへのシフトが重要である。こうした「共創」の考え方※1に倣えば、廃棄物などを取り扱う電気事業者の課題解決と地域における産業創出・振興が可能であり、これが地域産業の発想の起点ともなりうる。

特に、新たに地域産業を創出し育成する視点を持つことが重要である。旧来型の処理・処分事業ではなく、例えば、地域での産業や技術の拡大・発展も見据えたICT技術などを活用した先端的な廃棄物処理・処分産業の育成が有効である。処理・処分に加え、リサイクルにまで踏み込んだ高度な産業の構築も考えられる。さらには、その利用先までを視野に入れた、持続性・効率性を考慮したエコシステムを採り入れたまちづくり・産業への展開も期待できる。

実際、福井県では「原子力リサイクルビジネス実現可能性調査」を実施し、クリアランス対象物の再利用を核としたビジネスの検討を開始している。
図 廃炉に伴い発生する廃棄物の量と種類
図 廃炉に伴い発生する廃棄物の量と種類
出所:総合資源エネルギー調査会原子力安全・保安部会 廃棄物安全小委員会「原子力施設におけるクリアランス制度の整備について-【資料2】実用発電用原子炉施設の廃止措置に伴い発生する廃棄物等の発生量(推定)」を基に三菱総合研究所作成

*:https://www.fepc.or.jp/nuclear/haishisochi/clearance/pdf/shiryo_22.pdf(閲覧日:2021年10月12日)

「地域共生2.0」の実現を目指す

もちろん、こうした展開は地域だけでなしえるものではない。国や電気事業者もこれまでの原子力立地地域に対する支援とは異なる形での支援が必要だろう。地域と電気事業者が協力して、廃炉を契機とした新たな産業形成に取り組むことで、従来とは異なる地域づくり、「地域共生2.0」の実現が望めるのではないか。

三菱総合研究所では原子力立地に伴う地域経済への影響の分析等を通じて、廃炉時代における新たな地域共生の在り方を提言していく。地域と国・電気事業者の双方がこれからも成長していける「地域共生2.0」の実現を支援していきたい。

※1:コラム「原子力地域における共依存関係からの脱却:地域共生2.0に向けた提言」を参照。

※2:廃炉段階においても、地域の激変緩和施策として、「原子力発電施設等立地地域基盤整備支援事業交付金」による交付金は存在する。

※3:厳密には「廃止措置費用」であるが、廃止措置費用を元手として発生する各種工事発注等の事業費という意図で記載している。

※4:「放射性廃棄物でない廃棄物(NR)」を意図している。

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