経済安全保障政策の重要性が高まっている背景として2つを挙げたい。
1つは、経済活動のグローバル化による相互依存の深化と武器化だ。「相互依存の武器化」とは、例えば、A国が、ある重要な物資についてB国からの供給に強く依存している場合に、B国がその依存関係を利用して、安全保障上の対立についてA国に妥協を迫るような状況を指している。このような状況下では、当事者国は、相互依存をリスクとしてとらえ、互いの依存度をコントロールする戦略(ヘッジ戦略、デカップリング戦略などと呼ばれる)を取ろうとする。
近年、米国と中国の間でこれに当てはまる状況が生じつつあり、このような国際情勢のもとで日本自身の経済活動も相互依存のリスクにさらされる可能性が高い。そのヘッジ戦略として、経済安全保障が重要となっている。
2番目の背景として、先端技術の国際的な開発競争の激化とデュアルユース化がある。最近は、先進国だけでなく新興国の一部でも軍事力の近代化の取り組みが強化され、装備品に先端技術を積極的に取り入れようとしている。これにより、軍事技術と民生技術の境界が不明瞭となり、通信やセンシング、自律システム制御など、多くの先端技術分野でデュアルユース化が進んでいる。
産業と安全保障の両面で重要な技術に対し、諸外国が優位性を獲得しようとして産業支援策を充実させつつあり、日本も、安全保障だけでなく産業競争力の維持の観点からも同様の政策を講じる必要がある。また、先端技術はベンチャー企業を含む民間企業や大学なども研究開発を進めているが、軍民の境界が不明瞭になるにつれて、外国による軍事転用を防止するための技術管理が一層難しくなる。最先端技術の将来的な優位性の維持に向けて、国内産業の技術の保護と育成を同時に実現するべく、経済安全保障政策の重要性がクローズアップされている。