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外交・安全保障 第3回:デュアルユース技術の拡散 ウクライナの戦場での無人航空機(UAV)

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2022.8.8

フロンティア・テクノロジー本部鈴木拓海

外交・安全保障

デュアルユース技術とは

民生技術と軍事技術の狭間には、軍民両用(デュアルユース)技術と呼ばれる領域が存在する。

デュアルユースとは「民間および軍事用途の双方に使用できる貨物、ソフトウェアおよび技術※1」のことを指す。よく知られた例としては、弾道ミサイル技術の宇宙ロケットへの応用、軍事目的に開発された全地球測位システム(GPS)、インターネットの先駆けとされるARPANETなどが挙げられる。

20世紀は軍事技術が民生分野に応用される「スピンオフ」の事例が多く見られていた。しかし現在は、民生分野の研究開発および技術革新が著しく、民生技術を軍事技術に応用する「スピンオン」や、民生品を軍事目的に直接転用する事例も増え、民生技術と軍事技術の区分けは困難になりつつある。民生分野の技術的発展は、日本の防衛力を効果的に向上しうる可能性を秘めていると同時に、デュアルユース・ジレンマとも呼ばれる、民生技術が意図しない形で軍事利用される可能性があるという問題を惹起することとなっている。

日本を含む一部の国では、ワッセナー・アレンジメント※2など安全保障貿易管理※3の枠組みでデュアルユース技術の管理が厳正に行われている。しかしながら、現実として、ウクライナの戦場では、無人航空機(Unmanned Aerial Vehicle:UAV)※4などに民生技術が利用されていることが確認されている。以下では、デュアルユース事例として取り上げる。

ウクライナの戦場で利用される軍事用UAV

世界的には、UAVは軍事分野で古くから活用されている。一般的な軍事用UAVは1970年代から1990年代にかけて戦場に投入されるようになった※5。2000年代以降は武装化も進み、米国によるアフガニスタンでの対テロ戦争で本格的に利用されてきた。

ウクライナの戦場でも、ウクライナ軍とロシア軍の双方によってUAVが多用されていることはよく知られている。
表 ウクライナの戦場で利用されるUAVの例
表 ウクライナの戦場で利用されるUAVの例
出所:公開情報を参考に三菱総合研究所作成
なお、商用UAVに関しては民間UAV研究者であるFaine Greenwood氏の収集したウクライナにおけるドローン事案データベースを参照。
(参照)Faine Greenwood "UkraineWarDroneIncidents2022"
https://docs.google.com/spreadsheets/d/1NtgseODXGSAomx6G5Efwz4XY6AuYF9ZjGSGiCxvNHXE/edit#gid=0(閲覧日:2022年6月8日)
両軍はBayraktar TB2やOrion-Eのような中高度・長時間滞空型(MALE)の大型UAVから手投げ式の小型UAV、カミカゼドローンと通称される徘徊型UAVなど、多様なUAVを用いている。ウクライナ軍の利用するトルコ製UAVに係る報道が多数されているほか、ポーランド製UAVや、ウクライナ国産UAVも戦場に投入されている。
図1 さまざまな大きさや種類のUAVが利用されている
図1 さまざまな大きさや種類のUAVが利用されている
(画像左)Kronstadtが開発したOrion-E多目的無人機。武装可能で、ウクライナ軍を攻撃する映像も公開されている。
(画像右)Athlon Aviaの開発したA1-CM Furia偵察無人機。

出所:
(画像左)ロシア国防省(2021), "Первое применение беспилотника «Орион» по воздушной цели"(YouTube)
https://youtu.be/BBi-mgPa9YU(閲覧日:2022年6月7日)
(画像右)Athlon Avia, "GALLERY"
https://athlonavia.com/en/gallery/(閲覧日:2022年8月4日)

軍事用UAVに利用される民生技術

ウクライナ戦場で利用されるUAVの中には、民生技術を基盤とするものや、民生品をそのまま活用しているもの、民生部品を流用しているものが含まれており、軍用UAVの拡散に民生技術が寄与していると推察できる。

例えば、Leleka-100やPD(People's Drone)-1・2を開発したUkrspecsystemsは、ロシアによるクリミア併合および東部ウクライナへの介入が起こった2014年に設立され、娯楽用ドローンや商用のクアッドコプターといった民生技術を応用し、ウクライナ軍と協力しながら軍用UAVを開発してきた※6

特に2016年にウクライナ軍に正式納入されたPD-1は、ウクライナ防衛省の要請を受けて設置されたクラウドファンディング組織「People's Project」の支援を受けて開発されたものであり、まさに民間主導で開発された軍事用UAVであるといえる※7
図2  UkrspecsystemsとPeople's Projectの開発したPD-1
図2  UkrspecsystemsとPeople’s Projectの開発したPD-1
出所:People's Project, "First People's UAV Complex"
https://www.peoplesproject.com/en/first-peoples-uav-complex/(閲覧日:2022年6月7日)
PD-1には日本製の模型航空機用エンジンが流用されていることが報じられている※8ほか、Ukrspecsystemsの公式サイトには日本製のカメラを利用していることが記載されている※9
図3 PD-1に搭載されているカメラ(日本製技術を利用)
図3 PD-1に搭載されているカメラ(日本製技術を利用)
左および中央のジンバルには日本製の30倍望遠のカメラが搭載されるとの記載がなされており、右の画像は外観より日本製のデジタルカメラと推察される。

出所:Ukrspecsystems, "PD-1 VTOL fixed-wing drone"
https://ukrspecsystems.com/pd-1-vtol(閲覧日:2022年7月22日)
民生品が軍用に転用されるケースもある。ウクライナ軍・ロシア軍双方が、商用のマルチコプター型UAVを利用していることが確認されている※10

2014年にウクライナのITエンジニアやUAV愛好家の有志によって結成され、現在、航空偵察部隊として活動しているAerorozvidkaは、商用UAVに加えてR18 octocopterという商用品に似たマルチコプター型UAVを独自に開発し、利用している※11。R18はロシア軍車両の偵察・攻撃や砲兵部隊の支援に利用されており、通信インフラとしてSpaceXのStarlinkを活用しているとされる※12
図4 爆弾を投下するR18 octocopter
図4 爆弾を投下するR18 octocopter
出所:Aerorozvidka(2021), "Застосування дрона R18 та ІП ЗСУ ‘Дельта’ "(YouTube)
https://youtu.be/cHE74Q8zni0(閲覧日:2022年6月7日)
以上のように、民生技術を用いたUAVはウクライナ軍の活用が主流である一方でロシア軍の軍事用UAVに民間部品が流用されている事例が確認されている。ウクライナ軍によって鹵獲(ろかく:敵対者が装備する兵器などを奪うこと)されたOrlan-10を分解する動画では、日本製のカメラやエンジンが搭載されていることも確認されている※13。このほか、イギリスの研究機関であるConflict Armament Research(CAR)のレポートは、Eleron-3にも日本製カメラが流用されていると報告している。同レポートでは、スイス製GPSモジュールや米国製GPSアンテナ、韓国製通信機器などが不正に流用されていることも報じられており※14、民生用途の部品でも軍用UAVに転用されうるというリスクを明らかにしている。

デュアルユース技術をどのように管理していくか

ウクライナの戦場では、さまざまな民生技術や民生由来の技術がUAVの利用を支えている。民生技術の発達は、ウクライナ軍の急速なUAV能力獲得に寄与し、軍事大国に対抗する力を与えたともいえる。国産の軍用UAV能力の乏しい日本にとっても、優れた民生技術を活用することで防衛力を効果的に向上させることができるかもしれない。

ただし、テロリストや犯罪組織に民生技術が悪用されるなど、国際秩序および国家安全保障上のリスクにもつながりうるという負の側面がある点も失念してはならない。民生技術の悪用を防ぐためにも、デュアルユース技術の適正管理を含めた安全保障貿易管理が重要となる。

日本では過去にも、無人ヘリ、産業用モーター、精密測定機器、炭素繊維、パワー半導体、工作機械などが、直接・間接(第三国経由)的な「技術・製品獲得のターゲット」にされてきた経緯がある。言うまでもなく、現在も安全保障貿易管理は厳正に行われている。特に機微性の高い技術は「リスト規制」の対象として経済産業大臣の許可が必要になっている。それら以外の技術に関しても、利用用途やエンドユーザーという観点で軍事転用の危険性がある場合、基本的には「キャッチオール規制」の対象として事前申請を行う必要がある。

しかし、ウクライナの戦場で軍事利用されている民生技術は、ダミーの企業や第三国を経由するなど、巧妙な手口により規制の目をくぐり抜けた可能性がある。日本政府としては、エンドユーザー管理の視点を中心に現行の枠組みにさらなる工夫を凝らす場合を想定し、民生品の軍事転用経路を調査し、明らかにすることが重要と考える。

さらに、経済安全保障が叫ばれる昨今、企業側に技術流出を防ぐさらなる努力が求められることも想定しうる。国内企業としても、自社製品が意図せず軍事利用されぬよう、サプライチェーン上のリスク、利用用途やエンドユーザーの実態を十分に把握することが肝要となる。日本には優れた技術を保有する中小企業が多い。そのうえで、技術流出防止への対処が企業活動に過度な影響を与えてもならない。多くの国内企業が難しいかじ取りを迫られる中、政府として適切な支援を行うことも必要となるだろう。

※1:European Commission, "Exporting dual-use goods"
https://policy.trade.ec.europa.eu/help-exporters-and-importers/exporting-dual-use-goods_en(閲覧日:2022年7月22日)

※2:通常兵器および関連汎用品・技術の輸出管理に関する国際的な枠組みであり、UAVやその関連部品も規制されている。
外務省「通常兵器及び関連汎用品・技術の輸出管理に関するワッセナー・アレンジメント」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/arms/wa/index.html(閲覧日:2022年4月26日)

※3:「武器や軍事転用可能な貨物・技術が、我が国及び国際社会の安全性を脅かす国家やテロリスト等、懸念活動を行うおそれのある者に渡ることを防ぐ」ための取り組みであり、国際的な枠組み(国際輸出管理レジーム)の下で各国により管理が行われている。
経済産業省「安全保障貿易管理」
https://www.meti.go.jp/policy/anpo/gaiyou.html(閲覧日:2022年4月26日)

※4:日本では、「無人航空機(UAV:Unmanned Aerial Vehicles)」とは、「航空の用に供することができる飛行機、回転翼航空機、滑空機、飛行船その他政令で定める機器であって、構造上人が乗ることができないもののうち、遠隔操作又は自動操縦により飛行させることができるもの」で、「重量200g以上のもの」(航空法第2条第22項・航空法施行規則第5条の2)と規定されている。無人航空機は「ドローン」と通称されることもあるが、「ドローン」の定義は確定しておらず、プロペラを有するUAVの一部、あるいはUAV=ドローンと理解されている。本コラムでは、「UAV」で統一した。

※5:ただし、初期の軍用無人航空機は1935年に初飛行に成功した英国製の無人標的機、Queen Beeまで遡ることができる。また、本格的な運用が行われる1970年代以前も、第二次世界大戦後以降は標的機、敵のレーダー等を作動させるための囮(おとり)、米国による戦略的な偵察任務等に無人航空機が利用されてきた。

※6:Ukrspecsystems, "About"
https://ukrspecsystems.com/about(閲覧日:2022年6月7日)

※7:その他、2014年当時は娯楽用UAVをベースとした機体のみを扱っていたAthlon Aviaも、現在はウクライナ軍にA1-CM Furiaという軍用無人機を供給している。

※8:テレ朝news「【独自】ウクライナ軍ドローンに日本製エンジン 模型飛行機用を転用」(2022年7月13日)
https://news.tv-asahi.co.jp/news_society/articles/000261413.html(閲覧日:2022年7月22日)

※9:Ukrspecsystems, "PD-1 VTOL fixed-wing drone"
https://ukrspecsystems.com/pd-1-vtol(閲覧日:2022年7月22日)

※10:例えば、ロシア軍はDJI製のMavic ProやPhamtom 4を利用していることが確認されている。
DroneXL, Haye Kesteloo, "RUSSIAN MILITARY USES DJI DRONES AS WELL NEW VIDEOS SHOW"(2022年4月15日)
https://dronexl.co/2022/04/15/russian-military-dji-drones/(閲覧日:2022年6月7日)
また、ウクライナ軍はDJI製UAVのほか、Volatus Aerospace、Parrotといった企業のUAVを用いていることが確認されている。
Linkedin, Volatus Aerospace
https://www.linkedin.com/company/volatus-aerospace/?trk=organization-update_share-update_actor-image&originalSubdomain=jp(閲覧日:2022年6月7日)
Drone DJ, Bruce Crumley, "Polish company reportedly stiffs Ukraine on $1.6 million Parrot drone order"(2022年5月25日)
https://dronedj.com/2022/05/25/polish-company-reportedly-stiffs-ukraine-on-1-6-million-parrot-drone-order/(閲覧日:2022年6月7日)

※11:THE Guardian, Julian Borger, "The drone operators who halted Russian convoy headed for Kyiv"(2022年3月28日)
https://www.theguardian.com/world/2022/mar/28/the-drone-operators-who-halted-the-russian-armoured-vehicles-heading-for-kyiv(閲覧日:2022年6月7日)

※12:THE TIMES, Charlie Parker, "Specialist Ukrainian drone unit picks off invading Russian forces as they sleep"(2022年3月18日)
https://www.thetimes.co.uk/article/specialist-drone-unit-picks-off-invading-forces-as-they-sleep-zlx3dj7bb(閲覧日:2022年6月7日)

※13:Operator Starsky(2022), ""Unboxing" of Russian "Orlan""(YouTube)
https://youtu.be/1sPKSMeonxg(閲覧日:2022年6月7日)

※14:Conflict Armament Research, "WEAPONS OF THE WAR IN UKRAINE"
https://www.conflictarm.com/reports/weapons-of-the-war-in-ukraine/(閲覧日:2022年6月7日)