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Beyond 5G時代の分散型成長を実現する方策を提言—デジタル経済圏の健全な発展に向けて—

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2022.9.30

株式会社三菱総合研究所

情報通信
株式会社三菱総合研究所(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:籔田健二、以下 MRI)は、次世代の無線通信技術(Beyond 5G)等が普及する2030年代における情報爆発の姿を予測しました。その結果を踏まえ、Beyond 5G時代の健全なデータ利活用とデジタル経済圏の発展に向けた分散型成長の必要性と、それを実現するためのICT基盤の構築に向けた方策を提言します。

データ利活用による価値創出はまだはじまったばかり

情報通信技術(ICT)の進展がもたらしたブロードバンドやモバイルなど通信インフラの普及と、それらを活用した便利な端末やネットワークサービスの登場は、人々の生活を一変させた。

個人の生活だけではない。ICTの進展は金融や小売り、広告など多くの業界の産業構造を変えた。その活用の成否は企業や国家の競争力を左右する。データは流通することで価値が生まれる。データ流通を媒介するデジタルプラットフォームは新たな基盤となり、国境を越えて展開するGAFAM(Google、Apple、Facebook、Amazon、Microsoft)等のメガプラットフォーマー(以下、メガPFer)が付加価値創造のけん引役となった。

ICTとデータ利活用の発展は緒についたばかりである。リモート会議などネット上の体験価値はリアル活動に遠く及ばない。今後Beyond 5G技術の進展でネットに流通する情報量は飛躍的に増大し(情報爆発)、デジタルツインやメタバースの発展でデジタルとリアルの体験価値は接近する。人工知能(以下、AI)やロボットは人間能力を拡張し生産性を向上させる。ICTとデータ利活用はあらゆる社会活動や産業に欠かせぬものとなり、デジタル経済圏はリアルを巻き込んで大きく発展するだろう。

健全なデータ利活用のため、分散型成長へのゲームチェンジを

これまでデジタル経済では規模の経済性・勝者総取りなどの特性からメガPFer等への集中・寡占が進行してきた。コスト低減や利便性をもたらしたが、副作用も顕在化している。日本の国際競争力は低下し地域は空洞化しつつある。寡占が囲い込みを伴って長期に固定化すれば、多様性や競争の便益は後退する。基幹インフラの集中は、事故や障害に対する社会のレジリエンス低下につながる。価値の源泉たるデータの所有権やルールはメガPFerの掌中にある。

データ利活用の健全な発展のためには、これらの懸念を解消し、経済合理的であることに加えて、誰もが主体的に安心してデジタルの果実を享受する社会を実現する必要がある。「誰もが」「主体的に」「安心して」という公平に資する価値を優先することは、大きなゲームチェンジとなる。

このゲームチェンジを実現するのが、当社の提言する「分散型成長」である。一極集中型のシステムへの対抗軸として、オープンかつレジリエントで多様性や主体性を発揮しやすい分散・協調型のシステムを育成し、両者のベストミックスでウェルビーイングの向上を図る考え方である。

分散型成長を支える分散型のICT基盤

分散型成長を推進するため、まずは過度な一極集中に伴う弊害の抑止を図る必要がある。欧州連合(EU)におけるメガPFerに対する累次の法規制強化はその先行事例である。同時に、対抗軸となる分散型システムの形成も進める必要がある。日本のデジタル田園都市国家構想※1は、ICTインフラ構築を通じた地域の分散型成長を支援する。昨今注目を集めるWeb3※2では、多数の参加者がオンラインコミュニティに集い主体的・協調的に活動する分散型システムの形成を志向する。

こうした分散型システムを育成し社会に定着させるためには、それを支えるICT基盤が必要となる。
ネットワークレイヤーでは、地域分散型ICTインフラの整備が求められる。当社は情報爆発モデルの構築を通じて、メタバースや自動運転など次世代サービスの普及とICTインフラの関係を定量的に分析した。その結果、現状の300倍を超える大量データを低遅延で処理する需要が生まれ、最大で7割程度の処理が地域圏へ分散する予測となった(2040年時点)。地域性の強い再生可能エネルギー活用や、医療や交通など人命に係る産業でのレジリエンス強化のニーズも、データの地産地消化を後押しする。

プラットフォームレイヤーでは、データ流通の基盤となるID管理や信頼確保をメガPFerに依存していることが課題である。特定企業に依存しないオープンなデータ基盤の形成を目指すべきである。分散型のトラスト基盤とガバナンスを樹立し、基幹産業に広げていく必要がある※3。Web3や日本のTrusted Web構想※4はその萌芽(ほうが)であり、規制と支援の両面から健全な発展を後押しする必要がある。

サービスレイヤーでは、データ利活用による各産業の構造変化が加速する。構造変化を地域活性化の契機とするため、自治体や企業・住民が課題起点でデータ利活用のエコシステムを創出していく必要がある。地域でのテストベッド整備等を通じたイノベーションの支援はその一助となる※5

新たなデジタル経済圏を育むために

メガPFerを中心にグローバルなデジタル経済圏の構築が進み、社会に大きな便益をもたらす一方で、過度な集中や不透明性への警戒が強まっている。今後社会が安心して一層のデジタル化を進めるため、レジリエンスや安心安全、参加者主権に価値を置く新たな対抗軸を形成していく必要がある。

分散・協調型の新たなデジタル経済圏では、オープンなICT基盤の上に多数のプレイヤーが参画・貢献し、責任や果実を応分にシェアする。レジリエンスや安心安全の確保により、住民や都市の重要データがはじめて本格的に流通し幅広い産業で活用される。地域やコミュニティ、企業や消費者にとっては、メガPFerのインフラやサービスに依存するユーザーから、データによる価値創造のエコシステムを自ら設計・選択・管理するプレイヤーへと変化する好機となる。各プレイヤーが身の回りのデジタル経済圏の構築に主体的に参画することで、拡大する分散型成長の果実を手にすることができる。

※1:2021年に岸田内閣が公表したデジタル社会の構想で、デジタル実装を通じて地方の課題解決を図るとともに住民生活の向上を目指す。

※2:ブロックチェーン技術等を基礎とした次世代のインターネットを指す概念。

※3:ジョージタウン大学松尾真一郎研究教授との共同研究を実施。詳細は「デジタル社会における新たなトラストの在り方に関する共同研究の成果を公表」(三菱総合研究所ニュースリリース;2022年9月30日)を参照。

※4:インターネットに新たな信頼の仕組みを実装するために政府が推進する構想で、内閣官房デジタル市場競争本部に「Trusted Web推進協議会」が設置されている。

※5:東京大学中尾彰宏研究室との共同研究を実施。詳細は「Beyond 5G時代のイノベーション高速化を支えるテストベッドの在り方に関する共同研究結果を公表」(三菱総合研究所ニュースリリース;2022年9月30日)を参照。

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