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2017年9月号トピックス4デジタルトランスフォーメーション

地銀は住宅ローンで「まちづくり」支援を

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2017.9.1

金融イノベーション事業本部山藤 昌志

デジタルトランスフォーメーション

POINT

  • 地銀はメガバンクやネット銀行に比べ、低金利や人口減で厳しい状況。
  • 住宅ローンを「まちづくり」ツールとして地域の活性化に使うべきだ。
  • 地域全体の価値向上を通じて、まち・住民・銀行の「三方一両得」を。
メガバンクが顧客規模、インターネット銀行がICTをそれぞれ活用してコスト低減を進めている一方、地方銀行は低金利の長期化や人口減に押され続けている感がある。しかし、各地できめ細かい支店網をもち、地域経済を長年担い続けてきた地銀に対する地元の人々や自治体の期待感は、依然として根強い。

そこで、地銀が地域密着ぶりを楯に逆風を跳ね返すための中長期的な策として、住宅ローンを「まちづくり」のツールとするよう提案したい。

少子高齢化が進む地方の活性化施策としては、中心部の市街地にインフラや世帯を集中させ、運営を効率化させるコンパクトシティー化が有力。その際には、住宅の新築だけではなく、空き家をはじめとする既存住宅ストックの活用も不可欠となる。こうした実情を踏まえ、地銀が取り得る手は、まちづくりに寄与する案件に対する住宅ローンの金利を、通常商品よりも優遇することだろう。適用対象は、①市街化地域への子育て世帯や高齢世帯の移住、②同地域内の空き家や集合住宅、店舗併用住宅のリノベーション、③景観や利便性向上に資するリフォームや不動産活用などが考えられる。

案件の組成や獲得では地の利をフル活用して、自治体やPFI※1事業主体、地場企業と連携する。また、過去に蓄積してきた膨大な取引データを人工知能(AI)で分析すれば、自行の優良顧客のニーズを掘り起こして機動的に融資先を開拓できるはずだ。

金利優遇は地銀の短期的な収益にはマイナスかもしれない。しかし、中長期的にはプラスになる。人口減を抑制する観点から、信用力の割に低利なローンを若年層に提供しても良いのではないか。地域全体の価値に連動して担保評価額が増えれば、高齢者の老後資金ニーズに応える「リバースモーゲージ」や、集合住宅の大家に改築資金を提供するリフォームローンが、地方で浸透する公算も大きくなる(図)。

こうした息の長い手を打てるのも、地域と一蓮托生である地銀ならではのことだ。まちづくりを通じて住民に新たな価値を提供でき、しかも中長期的な収益改善を見込める。地方創生の担い手として、取り組む価値のある方策ではなかろうか。

※1:Private Finance Initiative
従来は国や自治体が行ってきた社会資本の整備・運営を民間主体に移管すること。

[図]「まちづくり支援住宅ローン」がもたらす価値