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2018年7月号トピックス6経済・社会・技術

米国の保護主義化と世界経済への影響

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2018.7.1

政策・経済研究センター田中 康就

経済・社会・技術

POINT

  • 2018年に入り、トランプ政権の保護主義が顕在化している。
  • 米国の追加関税は金融市場への波及などを通じて各国経済に悪影響。
  • 日本にとって米国の自動車関税引き上げは大きな懸念材料となる。
2018年に入って、トランプ政権がますます保護主義を顕在化させている。国家の安全保障維持を理由に鉄鋼・アルミの関税を引き上げた(通商法232条)ほか、知財侵害を理由に500億ドル規模の中国製品に制裁関税を課すと発表した(通商法301条)。自動車への追加関税や、関税の対象とする中国製品の規模を1,500億ドルまで拡大することも検討している。この動きに他国は反発している。鉄鋼・アルミの関税引き上げを受け、中国や欧州連合(EU)は米国を世界貿易機関(WTO)に提訴し、報復関税を発動した。また、中国は、米国が中国製品に対して追加関税を課せば、直ちに同規模の報復関税を行う意向を示している。

米国の保護主義を発端とする関税の応酬は、世界経済にどのような影響を与えるのか。経済連携効果の分析に広く用いられるGTAPモデル※1で試算すると、これまで打ち出された通商面での応酬が実施されても(現状)、鉄鋼・アルミが貿易に占める割合は小さいため、貿易を通じた各国GDPへの影響は大きくはない。ただし、米中が互いに500億ドル規模の追加関税を実施した場合(シナリオ①)、GDPは米国が0.1%、中国で0.3%程度押し下げられる(表)。米中が関税対象を各1,500億ドル規模まで積み増す(シナリオ②)と、GDPの減少率は米国で0.2%、中国は0.8%程度まで拡大する。

貿易だけではなく、金融市場への波及や不確実性などを通じた影響も加味すると、各国GDPの減少率はさらに大きくなる可能性が高い。追加関税による輸入物価上昇が企業収益を圧迫して株価が下落すれば、負の資産効果により消費が抑制される。また、通商政策の不確実性が強まれば、企業の投資姿勢が慎重化しかねない。

日本にとっては、保護主義の高まりが円高の進行や米中経済の失速につながった場合や、米国が自動車の追加関税を実施した場合に、経済が大きく減速する懸念がある。特に、対米輸出への依存度が高く、産業の裾野も広い自動車の関税が引き上げられれば、日本のGDPに響くのは不可避とみられる。米国の保護主義化の影響を想定しつつ、動向を注視していく必要があろう 。

※1:中長期的な経済の均衡状態を求める応用一般均衡モデル。関税率の変化によって生じる経済構造調整(資本や労働の再配分など)を終えた状態と、それ以前の状態を比較して、関税率変化の効果を算出する。

[表]米国の関税引き上げと他国の対抗借置が各国GDPに与える影響

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