リーマンショックを境に中国経済の台頭が顕著になるなか、自由市場・民主主義を共通の理念とする国際秩序は転換点にある。中国やその他の新興国経済の成長・拡大により世界の多極化が進むとともに、中国を代表格とする統制色の強い国家資本主義国※1が世界のGDPでのシェアを高めている。
先進国・新興国それぞれの国内に目を移してみると、欧米では、分配機能の低下や企業のサプライチェーンのグローバル化などを背景に、国内での経済格差拡大や社会的な分断が顕在化し、ポピュリズムや保護主義の傾向が強まっている。中国やその他の新興国では、経済・生活水準が上昇する一方で、環境問題などの社会課題が深刻度を増すとともに、高齢化も本格的に進行する。
世界の政治・経済の不透明感が強まるなかで、希望はイノベーションによる社会課題の解決となる。新しい技術の社会実装が進展することは、先進国・新興国がともに、よりゆたかな世界を実現するための原動力となるだろう。
これらを念頭に、2030年までの世界経済を方向づける五つのトレンドを挙げる。
先進国・新興国それぞれの国内に目を移してみると、欧米では、分配機能の低下や企業のサプライチェーンのグローバル化などを背景に、国内での経済格差拡大や社会的な分断が顕在化し、ポピュリズムや保護主義の傾向が強まっている。中国やその他の新興国では、経済・生活水準が上昇する一方で、環境問題などの社会課題が深刻度を増すとともに、高齢化も本格的に進行する。
世界の政治・経済の不透明感が強まるなかで、希望はイノベーションによる社会課題の解決となる。新しい技術の社会実装が進展することは、先進国・新興国がともに、よりゆたかな世界を実現するための原動力となるだろう。
これらを念頭に、2030年までの世界経済を方向づける五つのトレンドを挙げる。
(1) 多極化の進展と国家資本主義の広がり
世界経済は、米国と欧州を中心とした二極構造から、中国やその他の新興国が存在感を増す多極構造へと変貌しつつある。2030年にかけても、中国に続いてインド、ASEAN諸国などが世界GDPに占めるシェアを高め、多極化の流れは続くであろう。こうしたなか、国家資本主義国の世界GDPシェアは2030年には3割近くまで拡大、自由経済のなかでも米トランプ政権が独自の経済外交を進めるなど、多国間ルールに基づく自由貿易の枠組みが後退するリスクが懸念される。
(2) アジアへの経済重心のシフト
アジア経済の躍進は続く。世界GDPに占めるアジア全体のGDPシェアは2000年の2割強から2030年には4割近くに上昇する見込み。なかでも中国は、2030年までに米国のGDPを抜き、世界第1位の経済規模となる可能性が高い。他のアジア諸国も、経常赤字と財政赤字、民間債務増大などのリスクを抱えつつも、技術力向上など一人当たりGDPの成長余地は大きく、全体でみれば2030年にかけて世界平均を上回る成長率を維持できるだろう。
(3) 世界で拡大する国内の経済格差
先進国と新興国の経済格差が縮まり、政治・外交面でも多極化の様相が強まる一方、各国内の貧富・階層の格差は先進国、新興国双方で広がっている。その背景には、企業の高収益と賃金上昇のアンバランスに加え、教育格差の固定化や若年層の失業率上昇などがあり、これが先進国、新興国の双方で社会の分断を引き起こしつつある。AI・IoTなどデジタル関連事業の隆盛による利益の一極集中傾向とも相まって、国内の経済格差は今後さらに拡大すると予測する。
(4) シェアリングの加速による循環型社会の実現
グローバリゼーションの波とは対照的に、一つの経済圏の中で完結する循環型社会に向かう要素もある。例えば、①地産地消の進展、②シェアリングによるモノの必要量の減少、③資源リサイクルの拡大などが、2030年に向けての潮流となることが予想される。エネルギー資源や金属鉱物など地理的な偏在がある天然資源を除けば、地域経済圏の範囲内でリサイクルも含めたサプライチェーンが完結する方向性が強まろう。
(5) デジタル技術の浸透による現実社会とサイバー社会の融合
IoTの本格的な実装が進み、2030年には身の回りでインターネットにつながるデバイス数が世界で500億個に増加する見込み。今まで電子化されていなかったさまざまな情報が加速的にサイバー空間に格納され、物質的な社会との間で交換される情報量は格段に増加する。その結果、現実社会とサイバー社会の融合が加速、AIが人間を補助・代替することで、日々の仕事や暮らしがより便利な姿に変貌するとともに、ウェルネスやエネルギー分野などで多くの社会課題解決への道も開けるだろう。また、サイバー空間内で完結するビジネスの増加も期待される。こうしたなか、サイバー社会は単なる情報交換のコミュニティにとどまらず、国境を越え、現実社会と混然一体となってさまざまな活動が営まれる社会へと進化すると予想される。