マンスリーレビュー

2018年7月号トピックス4経営コンサルティング

「課金型ビジネス」参入のポイント

同じ月のマンスリーレビュー

タグから探す

2018.7.1

コンサルティング部門 経営イノベーション本部高橋 淳一

経営コンサルティング

POINT

  • ものづくり企業も課金型ビジネス参入の必要に迫られている。
  • まずは課金型と売り切り型との関係性の明確化が肝要。
  • 最大のポイントは「顧客」の裾野を広げる発想。
消費者の関心がモノ消費からコト体験へと移りつつあるのに伴い、企業も活動の主軸を「売る」から「体験してもらう」へとシフトさせる必要に迫られている。こうした流れを象徴する事業モデルが、モノ自体に対してではなく、利用の頻度や量に応じてお金を払ってもらう「課金型ビジネス」(サブスクリプションモデル)である。「売り切り型ビジネス」の代表的存在とされてきたものづくり企業とて、この波からは逃れられそうにない。

ものづくり企業が課金型ビジネスに参入する場合、まずは既存の売り切り型ビジネスとの関係性を明確にすることが重要だ。例えば、Appleは写真や動画などの大容量データを通信網経由で預かり、その規模に応じて料金を徴収するiCloudや、膨大な楽曲が聴き放題となるApple Musicといった課金型ビジネスで稼いでいるイメージが強い。しかし、実際はiPhoneをはじめとするハードウエアの販売額が、同社の売り上げ全体の約6割を占めている。iOSのような自社のプラットフォームにこだわらず、無料あるいは課金型のアプリをオープンに提供することで利用者数を劇的に増やし、ハードを購入してくれる顧客基盤としても取り込んだのである。

課金型ビジネスの戦略としては、既存の売り切りビジネスをレンタルやシェアリングなどに置き換える「破壊型」や、新技術を生かした付加価値にお金を払ってもらう「オプション型」もある。Appleはこの両者とは一線を画し、課金型と売り切り型を巧妙に組み合わせた「顧客拡大型」のビジネスモデルを確立した(図)。

ものづくり企業には無意識のうちに、製品の購入者だけをターゲットにしてしまう癖がついてしまっている。このため、顧客基盤の新規開拓よりも、サービスの品ぞろえ強化や価格設定に関する検討を優先しすぎるケースも散見されている。最も重要なのは、自社に最適な新ビジネスを設計する過程で「顧客の捉え方」を徹底的に再考し、ターゲットを拡張する方策を探ることである。課金型ビジネスの本質を把握することこそが、事業成功の鍵になるといえよう。
[図]課金型ビジネス参入の形態