マンスリーレビュー

2018年10月号トピックス4経済・社会・技術

「乗り換える」車から「着せ替える」車に

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2018.10.1

政策・経済研究センター清水 紹寛

経済・社会・技術

POINT

  • 電気自動車やシェアリングの普及などの大変革で自動車販売は伸び悩む。
  • 所有する意義は用途などに応じた車体のカスタマイズが主流になる。
  • 最寄りの修理工場が車体の「着せ替え」利用を可能にする。
自動車産業に100年に一度の大変革が起きている。当社の予測によると、自動走行、電気自動車(EV)、シェアリングなどの普及は、業界構造を変えるだけでなく将来の需要にも大きく影響し、2050年の世界自動車保有台数は現状から2割増の12億台にとどまる。従来のエンジン車かつ所有中心で普及する場合は31億台と予測されているのに比べて、約3分の1にすぎない。

こうした時代にあえて自動車を所有する意義があるとすれば、用途、趣味、身体特性、さらにはライフスタイルに合わせたカスタマイズとなろう。

流れを先取りするかのように、トヨタは2018年4月にカスタマイズ専門会社「トヨタカスタマイジング&ディベロップメント」を設立して、モータースポーツ向けから福祉用まで幅広い車種を取り扱っている。また、ホンダが開発した通常2人乗りの超小型EV「MC-β」は独自のフレーム構造を採用し動力系の機能を車台(シャシー)部分に集約させることで、親子3人乗りや運搬向けなどの多様な形態に、車体を変更可能にした。

こうした変幻自在のカスタマイズを可能とするような潮流は、材料・製造技術革新、工場のIoT化によりどんどん強まっている。例えば米国企業ローカルモーターズは各地に分散している小規模工場で3Dプリンターを使い、1日1台のペースで車体の製造・組み立てを可能にしているという。

日本で考えられる未来像はどのようなものだろうか。全国に約2,800カ所存在する自動車修理の優良認定工場が、ローカルモーターズと同じ1日1台のペースで製造・組み立てを行うとすれば、年間で約100万台を生産可能な計算になる。これは日産やスズキの現在の国内生産に匹敵する。

最寄りの修理工場に複数の車体を保管して、「今日は高齢の両親を観光地に」「明日は愛犬と海辺へ」といった日々の用途に合わせて服のように「着せ替える」利用シーンが実現するかもしれない。そうなれば全国各地の修理工場が「カロッツェリア」※1へと変貌して、地域経済を潤すことにもなるだろう。

※1:イタリア語で自動車の車体をデザイン・製造する業者。初期の自動車メーカーはシャシーやエンジンを製造し、カロッツェリアがその上に車体を組み立てた。職人のセンス次第では、同じ車種でも1台ごとにデザインが異なる場合があった。

[図]「着せ替え」による自動車所有の将来イメージ