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2018年10月号トピックス5スマートシティ・モビリティ経済・社会・技術

政府統計の価値を高めるには

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2018.10.1

地域創生事業本部勝本 卓

スマートシティ・モビリティ

POINT

  • 統計改革では実態把握の強化に加え「官民のコスト」削減も課題。
  • 費用対効果の観点から存在意義を分析する必要がある。
  • 有用な統計はビッグデータ時代の羅針盤であり、企業も調査に協力を。
2016年に経済財政諮問会議が示した基本方針を受け、統計改革が進められている。「証拠に基づく政策立案(EBPM)」の推進を旗印に、経済実態を把握する精度の向上や公表の迅速化を実現すべく、2030年までの工程が組まれている。政府の統計作成・実施予算に、回答する企業や国民が費やす時間を合わせた「官民のコスト」についても、3年間で2割削減するとの目標が掲げられた。

しかし、単なる縮小均衡では問題は解決しない。海外では費用対効果の観点から統計の存在意義を検証する作業が行われている。中でも、ニュージーランドでは国勢調査の費用対効果が5倍に及ぶとの結果が示された※1。人口動態や世帯構成をある程度正確に記した国勢調査結果を活用すれば、地方への交付金を誤って配分することを未然に防げる。これにより誤配に対する補償を迫られる事態を回避し行政コストを抑制できる点などが、その根拠とされている。日本ではこうした費用対効果の分析はまだなされていないが、個別の統計の要・不要を判断する材料にすべきだろう。

当社が2018年3月、267の政府統計に関して行った研究※2によると、調査コストと、利活用状況(新聞・雑誌・論文での引用件数や統計サイトからのダウンロード件数など)との間には、一定の相関関係がある。

日本では厳しい財政事情が続く中、政府が統計予算を増額する余地は乏しい。だが、政府としても今回の改革で、回答にかかる手間や労力を省けるようにすることで、民のコスト負担を軽減するとのことでもある。

アメリカは、対GDP比の統計予算、人口比の政府統計サイトへのアクセス数の両方が、日本よりも格段に多い。フランス政府もGDP比で日本を上回る予算を投じて、利活用度を高めている(図)。費用対効果が実証できる統計であれば、それに見合った資金を投じるべきだろう。ビッグデータ時代を迎えている中、経済実態を示す羅針盤として使える統計の存在意義は高まっている。有用な統計を選別し、その作成に企業が積極的に協力することこそが、統計改革に求められる姿であろう。

※1:Bakker, C (2014) “Valuing the census”

※2:三菱総合研究所「政府統計の利活用状況及び民間における統計の作成状況に関する調査研究報告書」2018年3月。
http://www.soumu.go.jp/main_content/000567905.pdf

[図]政府統計予算と利活用度の国際比較

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