マンスリーレビュー

2018年10月号特集次世代インフラ

持続可能な地域づくりを支える「Region-Tech」

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2018.10.1
次世代インフラ

POINT

  • 地域の課題は、住民とコミュニティーと行政の三者で解決。
  • 住民と行政のコミュニケーションが地域を豊かにする。
  • 先進ICT・AI技術を活用したRegion-Techがプラットフォームに。

1.求められる自助・共助・公助とそれを支える情報共有

普段利用している橋が渡れなくなる、ごみ収集の回数が減ってしまう、整備不良の道路が増える、水道の供給設備の維持費が高騰し水道料金が値上げされる。これまで当たり前のように享受していた生活水準が維持できなくなるような事態を想像できるだろうか。これは、決して非現実的な話ではない。

従来、健康、防災、教育、エネルギーなど、地域が抱える多様な課題に対して、積極的に関与しその解決に参加する住民は一部に限られていた。たいていの人は自治体に任せておけば対応してくれるものと信じており、それで特に大きな問題が発生することもなかった。しかし、人口減少により、税収も自治体職員数も減り、これまでのような行政の対応は困難になることが危惧されている。総務省の研究会も、「自治体は、経営資源の制約により、従来の方法や水準で公共サービスを維持することが困難になる」と指摘している※1

解決のためには二つの考え方を組み合わせることが重要である。一つは、これまで行政に頼ってきた課題解決を自助(自分でできることは自分で対応する)、共助(コミュニティーで支える)、公助(行政サービスで対応する)でバランスをとって対応することである。もう一つは、このバランスを支えるために住民のニーズやアイデア、自治体の所有する地域に関する多様な情報をお互いに共有することである。加えて、行政サービスの広域化・共同化も有効な手段の一つとなりうる。

これらを実現するためには、制度づくりや業務設計とデジタル化を両輪で推進することが必要となる。具体的には、地域に関わるさまざまな情報を住民と行政で共有するために業務を標準化するなど、デジタル化を前提に行政サービスの制度設計を行い、業務全体を抜本的に見直すことが肝要である。

2.住民とのコミュニケーションが行政サービスの源泉

現在自治体は部署単位で縦割りに、「子育て」「年金」「福祉」「介護」「税」などの住民サービスを提供している。すなわち、住民サービスは提供側の都合で設計されており、住民と行政のコミュニケーションは、住民が担当部署を探して問い合わせながら回答を探るのが一般的である。このため、住民に関する情報は担当部署単位で蓄積され、これらの断片的情報をつなぎ合わせて住民の意識や行動、ニーズを統合的に把握することはできていない。しかし、これからの行政サービス設計は自助・共助・公助や官民の情報共有を前提に業務を見直す必要があり、その基礎となるのは住民個人の総合的把握である。そのためには、住民と行政とのコミュニケーションは、サービスを享受する住民側に立ったものに全面的に変えていく必要がある。

出生、就学、成人、転出・転入などの個人のライフステージに合わせて対応するなど、断片的情報をつなげて個人がもつ複数のニーズを満足させることだけではない。曖昧な問い合わせの内容から真のニーズを引き出し適切な回答やサービス対応につなげること、過去に受けたり今受けているサービスから今後必要になるサービスを予測し、適切な時期に案内することによって、住民の満足度をさらに高めることができるだろう。

加えて、行政サービスを通じて得られる住民の声や行政の問い合わせに対する回答から、住民ニーズや実態、行政に対する要望などを吸い上げることができれば、より多くの住民の意見を行政サービスに反映できるようになる。さらに、自治体が抱える課題に対する民意を地域住民全員で共有することで、地域での政策立案や行政改革、合意形成へとつなげることができる。

このように住民とのコミュニケーションは行政サービスの源泉であり、これを住民の視点で見直すことで、行政サービスの改善や高度化を図ることができる。さらに、その行政サービスに対する住民意見をフィードバックすることによりPDCAサイクルの好循環も生まれるのである。

3.先進ICT・AIの活用による行政サービスのデジタル化

当社では、上記の考え方に基づいて、先進ICT・AIを活用した行政サービスのデジタル 化のコンセプト「Region-Tech※2」を提唱している。

AIを行政サービスに活用する取り組み事例は全国各地にあるが(表)、Region-Techの特徴は、「住民とのコミュニケーションのデジタル化」によって、将来「住民の声と施策の連携」が可能となる道筋をつけることにある。現状の問題解決にとどまらず、将来の課題やリスクに今から対応しておくことの重要性に着目した点が、ほかの取り組みとの違いである。

また、先端ICT・AI技術の活用においては、個別にカスタマイズされたシステムが横展開できず高コストになりやすい、登録情報の更新や高機能化できずに継続利用されなくなってしまうといった既存ICTの導入時によく見られる課題の発生が予見される。これらの課題を解決するために、個別開発ではなく標準化・汎用化を行うこと、スマートフォンやタブレットなどの既存の普及インフラを活用することを前提としている。そして初めから庁内の既存システムや外部の関連情報との連携を考慮することで、ユーザーが共通して安価に利用することを可能としている。当社では、Region-Techを活用したいくつかの取り組みを行っている。以下、3つの事例を紹介する。

(1) AIを活用した住民問い合わせサービス

本年10月より、住民の行政サービス利用満足度を高め、かつ自治体職員の負担を軽減することを狙った、AI住民問い合わせサービス「AIスタッフ総合案内サービス 」の提供を開始する。本サービスは、AIとの対話(チャット)により、住民が知りたい情報を提供するもので、機能や内容を標準化し、自治体間で共同利用する点が最大の特徴となっている。これにより住民がいつでも手軽にサービスを利用することを可能にしている。本サービスの詳細については、後段のトピックを参照されたい

(2) 対話型ご意見聞き取りサービス実証実験

本年3月、住民ニーズを掘り下げて本音を把握する試みとして、公共施設マネジメントをテーマに、対話型ご意見聞き取りサービスの実証実験を実施した。インタビューボットを利用すれば、PC、スマートフォン、タブレットなどから24時間いつでもアクセスできるため、若者や中年層、女性など従来の手法では参加が少ない層の意見を吸い上げることができる。また、AIが利用者の自由な回答からテーマやニーズを探り出し、その内容に応じた答えを返しながらさらに意見を伺うという手法により、多様な意見を従来のアンケート調査よりも深いレベルで把握することもできる。参加者からも、手間がかからずいつでも気軽に意見を言うことができるので利用しやすいという評価を得ており、合意形成のための効果的なツールとして、今後期待される。

(3) デジタル地域通貨

昨年9月、住民が地域活動に参加するモチベーションを高め、キャッシュレス化を推進するデジタル地域通貨の第1回社会実験を近鉄グループホールディングス株式会社と実施した。同社の会員から5,000人の実験参加者を募集し、「あべのハルカス」を中心とした約200店舗において通常の商品購入時に地域通貨「近鉄ハルカスコイン」が使われた。この実験では、システムの動作、決済速度などの技術検証によって実用可能性を実証し、本年10月から第2回社会実験を実施する。デジタル地域通貨は、住民、コミュニティー、行政の協業を円滑に進め、自助・共助・公助のバランスをうまく保つ潤滑剤の役割を果たす。また、協業によって得られた収益は地域経済圏に還元されるため、域内の経済活性化が期待される。
[表]自治体におけるAI活用事例

4.住民とのコミュニケーションが拓く将来の行政サービス

住民とのコミュニケーションのデジタル化が進む将来、サービス提供者が行政か民間かを意識することなく住民が公共サービスを利用できるようになる。さらに場所や時間に制約を受けずに、スマートフォンやタブレットなど広く普及したツールを使って手軽にサービスを受けられるようになるだろう(図)。

短期的には「子育て」「ごみ」といった個別の課題に対する案内をいつでもどこでも簡単に詳細に確認できるようになる。中期的には、地域情報や交通情報、気象情報などの外部情報を加味した行政サービスの案内や外国語での案内が充実してくる。長期的には、住民が平日の日中に役所の窓口で、必要な手続きを行うという行為はなくなるかもしれない。将来、保育園の申請、健診の案内など、本人にとって必要な情報が適切な時期にプッシュ型で届き、各種の手続きも窓口を訪れることなくスマートフォンで簡単に済ませることができる、という時代も来るだろう。

持続可能な地域社会の実現に向けてRegion-Techの推進が果たす役割は大きい。
[図]住民向け行政サービスの将来展望

※1:総務省自治体戦略2040構想研究会「自治体戦略2040構想研究会 第二次報告」2018年7月。

※2:商標登録出願中。

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