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2019年3月号トピックス2ヘルスケア・ウェルネス

薬剤耐性微生物バンクで新しい「薬」の開発を

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2019.3.1

ヘルスケア・ウェルネス事業本部滝澤 真理

ヘルスケア・ウェルネス

POINT

  • 薬剤耐性微生物対策として抗微生物剤の開発は重要である。
  • 収益性が低いため近年多くの製薬企業が抗微生物剤の開発から撤退。
  • 日本における薬剤耐性微生物バンクの整備に期待する。 
院内感染でたびたび話題となるMRSA※1は、かつて効いていた薬が効かなくなった感染症である。このように薬剤が効きにくくなった、または効かなくなった細菌やウイルス、寄生虫などは、薬剤耐性微生物と呼ばれていて、その増加は日本だけでなく世界でも大きな問題となっている※2

一方で、近年多くの製薬企業が、薬剤耐性微生物に対抗できる新たな抗微生物剤の開発から撤退してしまった。抗微生物剤の開発や製造設備などには、多大なコストがかかるにもかかわらず、出荷量は限定的だからだ。抗微生物剤は、生活習慣病など慢性疾患の治療薬と比べて投与期間が短いうえに、薬剤耐性微生物を増やさないために適正な使用をするよう医療現場で推奨されていることも背景にある。

抗微生物剤の開発においては、薬剤耐性微生物の「株」※3そのものが欠かせない(図)。開発過程で必要な株には、海外の株や希少な株も存在し、製薬会社にとって入手は容易ではなくコストもかかってしまう。さらに、高次評価や市販後調査の段階では、特定の性質を備える「標準株」に加えて、全国の病院で最近採取された病原体(新鮮臨床分離株)も収集しなければならない。新薬が直近でヒトに感染している病原体への効果を示す必要があるからだ。しかし、日本でこれらの株を提供してくれる「バンク」の仕組みは、いまだ十分に整備されていないのが現状だ。

薬剤耐性微生物バンクは、米国や欧州などではすでに構築・運用されていて、製薬会社などが株を入手しやすい体制が敷かれている。日本でも国の「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン(2016-2020)」において、バンクの整備の推進が掲げられた。今後、国立感染症研究所の薬剤耐性研究センター内に耐性菌バンクが設置され、全国から収集された薬剤耐性菌が保存される予定だ。

研究に用いる株の円滑な供給は企業における抗微生物剤の開発はもちろん、大学や研究機関等における研究にとっても大きな支援となる。日本においても薬剤耐性微生物バンクが整備されることで、薬剤耐性微生物対策が促進されることを期待したい

※1:メチシリン耐性黄色ブドウ球菌。黄色ブドウ球菌がメチシリンなどの抗微生物剤に対して耐性を獲得したもの。

※2:当社コラム・レポート「バイオセンシング技術で感染症の流入を防ぐ

※3:自然界に存在する多くの微生物のなかから、一つの系統を純粋に培養したもの。

[図]抗微生物剤開発のステップと株の利用

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