マンスリーレビュー

2019年3月号トピックス4経済・社会・技術

大企業がスタートアップとの連携を成功させるには

同じ月のマンスリーレビュー

タグから探す

2019.3.1

オープンイノベーションセンター須﨑 彩斗

経済・社会・技術

POINT

  • スタートアップの資金調達は好調だが、成長には大企業の力を借りたい。
  • 両者の連携を成功させる鍵は「時間」「ビジョン」「技術」の三つ。
  • 大企業はスタートアップが「イコールパートナー」だと認識を。 
スタートアップをとりまく資金環境が急速に改善している。ジャパンベンチャーリサーチ社(JVR)の調査によると、2018年のスタートアップによる資金調達額は3,848億円(1,368社)と、それまでの5年間で4.7倍に増えた※1

ただ、順調に成長していくためには、資金だけでは十分ではない。製品・サービスの開発や販売力の強化、規制への対応に関しては、大企業の力を借りるのも有力なオプションである。一方で大企業も、スタートアップを巻き込んだ機動的なイノベーションを通じて新事業を創りたいだろう。

当社は社会課題をオープンイノベーションで解決する組織「未来共創イノベーションネットワーク(INCF)」を運営している。INCFの会員に大企業とスタートアップの双方が名を連ねている現状から、大企業がスタートアップとの連携を成功させる鍵は、三つあると考えている。

まずは「時間」。人員も売り上げもまだ少ないスタートアップが新規案件にかけられる猶予は極めて限られている。信用や手続きを重視しがちな大企業が意思決定に時間をかけすぎるのに対してしびれを切らし、連携をとりやめた例はよく聞かれる。

第二は「ビジョン」である。「原則として付き合わない」はずだった大企業との事業提携に踏み込んだスタートアップに理由を聞いたところ、ビジョンを語れる熱意ある新規事業担当者が相手先にいたから、との答えが返ってきた。理想とする社会の具体像を語り合い、そうした社会づくりに向けて事業の実現が必要だと意気投合したという。

第三は「技術」であろう。スタートアップは「尖(とが)った」技術に依存している。大企業に一方的に有利な技術ライセンスを押し付けられると、成長機会を逃してしまう。

これら三つの条件を満たすのに不可欠なのは、大企業にとってスタートアップは決して「下請け」ではなく、事業を創る「イコールパートナー」なのだという認識であろう(図)。資金力をつけてきた彼らは、大企業を「選べる」状況にある。立ち位置は対等だと考えた方が良い。

※1:JVR運営のサービスentrepedia(アントレペディア)を基にした 2019年1月29日現在の速報値。

[図]連携を成功させるための条件