マンスリーレビュー

2019年3月号トピックス6経済・社会・研究開発

AI・ロボット時代の雇用問題

同じ月のマンスリーレビュー

タグから探す

2019.3.1

政策・経済研究センター酒井 博司

経済・社会・研究開発

POINT

  • 日本はAI・ロボット導入に対して稼働低下・賃下げで雇用を維持する公算大。
  • スキル向上を伴わない雇用維持は経済社会の活力低下をもたらす。
  • 専門家増強に加えAI・ロボットを活かす経営を設計できる管理職の育成を。 
AIやロボットが人間の雇用を奪うという懸念は根強い。例えばオックスフォード大学の研究によると、今後10~20年で47%もの労働人口がAIやロボットに置き換えられる可能性があるという。米国企業を対象としたある実証研究※1も、ロボットの普及が雇用者減につながったと結論づけた。

日本でも同様の影響がもたらされるだろうか。日本的な長期雇用の慣行から類推すると、AIやロボットの普及に伴い労働者が稼働低下と賃下げを受け入れて、雇用自体は維持される可能性が高い。

しかし、短期的に雇用が維持されたからと言って、経済社会全体として安心はできない。スキルの向上を伴わない雇用の継続は、中長期的には活力低下を招くリスクが大きいからだ。AIとロボットの普及が日本の雇用に及ぼす最大の懸念は、雇用維持の裏で人的資本の蓄積と職種転換が妨げられた結果、新たな事業や職種に対応できる人材が不足することであろう。

産業用ロボット導入先進国のドイツではリーマンショックやその後の欧州債務危機などで景気が悪化した際も失業率は上昇せず、「雇用の奇跡」と称された。背景には、労使が稼働低下と賃下げを甘受して単純労働を中心に雇用を維持した事実があった。その結果、日本と同様、リーマンショック時の労働生産性は悪化している(図)。ただしドイツでは、ロボットを使いこなす高スキル・高収入人材の育成も進め※2、欧州債務危機時に労働生産性は改善された。この点は大いに参考になるのではないか。

日本企業にとってまず必要なのは、現状の雇用維持にこだわらずFLAPサイクル※3形成を通じて流動化を促す一方で、AIやロボットを使いこなせる専門的人材を手厚くすることである。さらに一段進めて、どのような分野でAIやロボットを組み合わせれば新たな雇用を生む新事業を創造できるかを判断できる管理職も育てる必要があろう。こうした管理職がかじ取り役を務めれば、企業の経営戦略が着実に前進するだけでなく、経済社会の安定にも貢献できるのではないだろうか。

※1:Acemoglu, D., and Restrepo, P.,(2017), Robots and Jobs: Evidence from US Labor Markets, NBER Working Paper 23285.

※2:Dauth, W., Findeisen, S., Suedekum, J., and Woessner, N. (2018), Adjusting to Robots: Worker-Level Evidence, Institute Working Paper 13, Federal Reserve Bank of Minneapolis.

※3:自身の適性や職業の将来性などを知る「Find」、必要なスキルアップのために学ぶ「Learn」、目指す方向に行動する「Act」、転職先や異動先で活躍する「Perform」、というサイクル。
MRIトレンドレビュー「大ミスマッチ時代を乗り超える人材戦略 第5回」参照。

[図]リーマンショック前後の失業率、GDP、生産性の変化

バックナンバー

関連するナレッジ・コラム