マンスリーレビュー

2019年3月号特集エネルギースマートシティ・モビリティ

福島復興の今─いよいよ浜通りの再生・創生へ

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2019.3.1
エネルギー

POINT

  • 福島復興が総じて進展するなか、浜通り地域の再生は緒に就いたばかり。
  • 福島イノベーション・コースト構想が浜通り地域再生・創生のエンジン。
  • バイラテラル起点と民主導で広域連携の促進を地域創生のモデルケースに。  

1.着実に進む復興と残された課題

福島復興への取り組みは、「環境再生」と「地域再生」の二つに大きく分けられる。環境再生は、東日本大震災とそれに伴う原子力発電所事故で拡散・降下した放射性物質による環境汚染の緩和、地域再生は、大規模かつ長期化した避難により毀損(きそん)した地域社会や産業基盤の復活が眼目となる。

環境再生では、長期的に帰還が困難と想定される地域(帰還困難区域)を除き、国・地方自治体により計画された除染が2018年3月末までに完了している。これにより、国が住民に避難を指示し、立ち入りなどが制限される地域(避難指示区域)は県内11市町村から、7市町村(南相馬市、飯舘村、浪江町、葛尾村、双葉町、大熊町、富岡町)まで減少し、県全域に占める避難指示区域の面積割合は8.3%から2.7%まで低下した。福島市・郡山市・いわき市といった主要都市では、除染の効果と放射性物質自体の自然減により、大気中の放射線量が東京や大阪とほとんど変わらないレベルにまで低下している。県内の人口推移をみると、中通り地域・会津地域ではほぼ震災前の水準に戻しているが、避難が長期化した浜通り地域では回復が遅れている。

一方、地域再生については、製造業製造品出荷額や観光客数が震災前の95%程度まで回復し、工場立地件数は震災前の1.8倍になるなど、産業面での復興が進んでいる。復興特需を否定することはできないが、民間投資や求人も旺盛である。交通インフラも、震災時工事中であった常磐自動車道(高速道)が2015年に全線開通し、福島の復興を支えている。また、避難指示区域を縦横断する主要幹線道路は、2014年以降、自動車に限り順次自由通行可能となっている。JR常磐線は避難指示区域内の約21kmで運転を休止しているが、2020年3月末には全線で運転再開の予定である。

このように、県全体としてみれば人口・産業・交通インフラ等地域再生は進んでいる。しかし、避難指示区域を含む県沿岸部の浜通り地域の再生は緒に就いたばかりであり、この地域の再生が福島復興の残された課題となっている。

[図1]避難指示区域の現状

2.浜通り地域と福島イノベーション・コースト構想

浜通り地域は、震災・原発事故による避難指示により、多くの自治体が全域避難を余儀なくされた。その後の避難指示解除の進展により、住民帰還や地元での事業再開が進みつつあるが、避難長期化による若年層の地域離れ、帰還者の多くを占める高齢者への対応など難しい課題を抱えている。

地域を震災・原発事故前の姿に戻すことが必ずしも「再生」ではない。そこに新しいまちを創っていくことも「再生」であり、それを目指すのが、2014年からスタートした「福島イノベーション・コースト構想」(以下、「福島イノベ構想」)である。この構想だけで浜通り地域の課題をすべて解決することはできないが、地域再生に向けた突破口を切り開き、再生・創生への推進エンジンになることが期待されている。

福島イノベ構想は法律に基づいて国が責任を持って進めるプロジェクトであり、浜通り地域に新たな産業基盤を構築し、当地域を新たな「国際研究産業都市(イノベーション・コースト)」としてよみがえらせようとするものである。国は復興・創生期間が終了する2020年以降も見据えつつ、この構想を基軸に浜通り地域を「最先端のイノベーションが次々と生まれる地域」とするために、国内外からの先端企業や研究機関・ベンチャーの呼び込みや地元企業・人材の技術力の向上を通じて産業集積を加速し、「あらゆるチャレンジが可能な地域」にすることを目指している。

同構想は「廃炉」「ロボット」「エネルギー」「農林水産」の4分野を中心に構成され、各分野で研究・産業集積を図るための拠点整備や実証事業が浜通り地域で進められている。例えば、廃炉分野では、復興に不可欠な福島第一原子力発電所の廃炉を加速するための国際的な廃炉研究開発拠点の整備や、モックアップ試験施設を活用した機器・装置の開発・実証試験が始まった。ロボット分野では、南相馬市に「ロボットテストフィールド」と呼ばれる総合的なロボット開発・実証拠点が整備中であり、既に一部運用を開始している。エネルギー分野では、再生可能エネルギーをはじめとする新たなエネルギー関連産業の創出に加え、再生可能エネルギーや水素エネルギーを地域で効率的に活用するスマートコミュニティーの構築といった取り組みがいくつかの市町村で始まっている。

3.福島イノベーション・コースト構想の課題 ~ 広域連携の必要性

福島イノベ構想の開始により、福島にチャンスを見いだし、新しい価値を創造しようとする意欲的な県内外の企業や大学などがここ数年で浜通りをはじめ福島県全域に進出・集積し始めたことは一定の成果である。しかし、福島イノベ構想を確固たる浜通り地域全体の再生エンジンとするためには、「広域連携」の課題を避けて通ることはできない。

急速な少子高齢化・人口減少社会に直面し、住民サービスの低下や地域経済の衰退が懸念される日本の地域創生の流れの中で新たな広域連携の必要性が認識されつつある。連携中枢都市圏構想を核とする圏内市町村間での連携協約締結の動きが日本各地で進展している。浜通り地域においても、福島イノベ構想を活かした地域連携により当地域全体を一つの大きな地域経済圏とすることが望ましい。

しかし、福島イノベ構想の各拠点は、ロボットテストフィールドは南相馬市に、廃炉国際共同センターは富岡町にといったように、広く分散・点在している。拠点の分散は各市町村を偏りなく復興させる狙いによるものだが、結果、地方自治体と企業・大学との産学官連携の範囲は各市町村内に閉じるケースが多く、地域全体としての産業・誘客の集積効果は得にくい状態となっている。福島イノベ構想を各市町村単位の個別最適構想で終わらせることなく、拠点群の経済効果を地域全体で最大化できるよう、「点」群での出発を「線」群へ、さらには「面」へとネットワーク化していくことが大きな課題である。

(1) バイラテラル起点の広域連携

もちろん、市町村間の広域連携は「言うは易く行うは難し」である。浜通り地域には、歴史的経緯から地域内に異なる文化圏があることに加え、電源三法交付金による恩恵や原発事故被害に応じた賠償水準の地域格差など、広域連携を阻害する複雑な事情を内包している。中長期的には各市町村がその利害得失を超えて協調する環境と機運を醸成し、福島イノベ構想で得られる効果を最大限に拡大する必要がある。

打開策がないわけではない。福島イノベ構想がまいた種、あるいは今後まいていく種は、市町村間の相乗効果、Win-Win関係を可能とする要素の宝庫ともいえる。そこで、まずは拠点間連携によって効果を得やすいテーマを選び、二市町村のバイラテラル連携から出発したい。その成功事例の蓄積が多重連携を誘発し浜通り地域大連携に繋がっていくであろう。

例えば、双葉町のアーカイブ拠点施設と浪江町を中心とする復興祈念公園を繋ぐことによる交流誘客や交通基盤整備の促進、あるいは、浪江町の大規模水素製造施設といわき市の水素ステーションを繋ぎFCV運用による地域内水素消費と組み合わせる水素社会実証事業の形成など、福島イノベ構想の拠点群を俯瞰するとシナジーを生み出すべき多種多様なWin-Win関係がみえてくる。

(2) 民主導による広域連携促進

こうした地域連携のアイデアは、自地域への対応で余力のない市町村や、国からは生まれにくい。地域連携の発案、媒介・調整、新たな実証・実事業の企画は、浜通り地域内の復興事業に横断的に関与してきたことで各市町村の実情や強み・弱みをよく知る地元内外の企業やNPOなどによる民主導で進める方が効果的である。また、事業の対象フィールドが広域的であればあるほど民の新規事業構想や投資インセンティブは膨らみやすい。既に地元内外の企業・大学など127団体(2019年2月現在)で構成される福島イノベーション・コースト構想推進企業協議会が市町村群と連携した新規事業創生に向けて取り組んでいる。民主導による官民協働や広域連携の面的展開は、浜通り地域を「最先端のイノベーションが次々と生まれ」「あらゆるチャレンジが可能な」地域にするビジョンの実現を強力に推し進める原動力となりうる。それが、県外からみた福島の魅力を一層向上させることにも結びつく。

国・県には、こうした民主導の広域連携を後押しし、加速させる役割を期待したい。地元主体・民主導での広域連携の発案・企画を受け止め、国・県・地元市町村の代表が一堂に会する法定の「復興再生協議会」などの場でその促進策を総合的に議論し、広域的な社会実証・実装事業などの制度設計に活かしてほしい。国起点でスタートした地域再生策(福島イノベ構想)を、地元主体・民主導で具体化し、それを国が受け止めて加速する「官to民to官」の好循環を実現できれば、浜通り地域は全国の地域創生のモデルケースになりえる。

震災・原発事故後8年が経過し、福島に対する国民の関心が徐々に薄れつつあることは否定できない。しかし、浜通り地域は、急速な少子高齢化・人口減少と過疎化が進む日本各地の将来の縮図でもある。上述の浜通り地域での広域連携の取り組みは、福島のみならず、日本各地の地域創生にも役立つものになるであろう。平成後の新時代を迎えようとしている今、あらためて、福島の課題を日本の課題と捉えたい。
[図2]浜通り地域での広域連携を地域創生のモデルケースに