マンスリーレビュー

2020年2月号特集テクノロジー

空の産業革命

ドローンが活躍する社会への工程表

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2020.2.1

POINT

  • 本格導入に向け実証実験で課題を確認、技術と制度両面の対策を急ぐべき。
  • 都市部での展開に向け、安心・安全に留意したビジネスプランを設計。
  • 必要な共通機能・基盤は、運航管理・ドローンポート・データ共有の三つ。

1.ドローン活用への期待と課題

ドローンは、空に産業革命をもたらすと期待され、2020年代半ばには全世界の市場規模が4兆円を超えるといわれている。物流・医療・農業・防衛・警備などさまざまな分野で技術・サービスの開発が進められている。海外の先行事例として、米国でAmazonやUPSがドローン物流のための飛行許可を連邦航空局に申請しているほか、スイスでは米Matternetが商用ベースで家屋上空を飛行する医薬品輸送を実用化している。

日本でも、産官学の多くの機関がドローンの技術開発に取り組んでいるが、現状で活用が実現している領域は「散布」「空撮」「測量」である。今後は「点検」「輸送」におけるサービス実現が期待されており、商用展開に向けて積極的に技術開発が進められている。これらの領域では、既存のサービスをドローンに置き換えるだけでなく、これまでにはなかった新たな付加価値を提供することが注目される。以下に紹介する二つの代表的な事例は、すでに実証実験の段階に入っている。

【事例1】物流:中山間地域の宅配サービス

長野県伊那市では中山間地域における買い物弱者を支援するためにドローンが配送を行う官民協働の物流プロジェクトが開始されている。ゼンリン・KDDIが参画し、河川上空を幹線航路とする新たな空中物流システム構築とサプライチェーン形成の実現を図るプロジェクトである。地域課題解決のリファレンスモデルの構築を目指している。

【事例2】点検:インフラ点検に関する実証実験

国土交通省は、公共工事において民間で開発された新技術を積極的に活用する狙いで、新技術情報提供システム(NETIS)のテーマ設定型技術公募を実施している。道路・橋梁など必要不可欠なインフラの維持・点検にドローン技術を活用するテーマが多く応募され、研究が始められている。これまで、人間の目に依存する近接目視点検を写真撮影・画像診断で代替する技術は多く研究されてきたが、手と耳を使う打音点検※1を代替する技術開発も進められている。人の手が届きにくい場所における点検作業への活用を目指し、現場の作業負荷の軽減を図ると同時に、将来見込まれる技術者不足に向けてAI技術などとの併用も検討されている。

このように、ドローンを活用した物流・インフラ点検サービスの本格導入に向けて各方面で実証実験が進められているが、その結果、実用化に向けてクリアしなければならない技術・制度両面の課題が明らかになってきた(表)。

技術面の課題として、インフラ点検などに活用していくために位置精度を高める必要がある。橋梁やトンネル点検では、GPS(衛星利用測位システム)電波が受信できない場所でインフラに衝突せずに飛行することが求められる。そのためにはカメラ・LIDAR※2(光波によるセンサー)などのセンサーを搭載した上で自己位置を推定するSLAM※3(同時に地図作製を行う)などの高度技術の活用が必要になる。

物流用に向けては、ドローンは飛行可能距離や搭載可能重量が不足している。現在主流となっている電動マルチローター機では、例えば10kgの荷物を積んだ状態で20km飛び続けられる機体は少ない。機体の軽量化やバッテリー容量の改良などが課題である。また、機体自体の落下を防ぐ安全性向上の対策も必要だ。

制度面では、ドローンを直接視認できない範囲でも運航ができるよう目視外飛行のルール策定が、特に都市部での実施に向けて急務であり、検討が進められている。道路インフラの定期点検では、従来は国土交通省の定める点検要領により近接目視点検が必須とされ、ドローン活用は不可能という課題があった。2019年の点検要領改定で、ドローンなどの点検支援技術の活用が明記されたのは大きな改善といえよう。
[表]ドローンサービスの要素の実現状況

2.安心・安全、ドローン実用化への不安解消に向けて

ドローン・ビジネスを有効に展開していくためには、需要が多く、多様なサービスも提供できる都市部での飛行を前提とした手当てが必須である。人口過密な日本の都市部では、他国にもまして精緻に計画を設計することが求められる。

しかし、技術的・制度的な課題のほかにも克服すべき高い壁が存在する。都市部上空をドローンが飛び交う状況に対する住民・企業の不安心理、拒否反応を和らげることである。「自らに危害が及ぶ可能性はほとんどない」という安心感を醸成し、社会に受け入れてもらうこと(パブリック・アクセプタンス)が欠かせない。新しい技術がもたらす便益が多大だとしても、安全に対する懸念が幾分でも残る限り社会実装は容易でない。特に、利害が異なるさまざまな用途・施設が混在し、人口が過度に集中するわが国の都市部では避けて通ることのできないテーマである。

こうしたことから、都市部でのサービス提供は、まず「住民・企業に危害が及ぶ可能性が低い空間を多く有する区域から先行的に開始」し、その後「安全運航の実績を重ね、徐々に提供区域を拡大」する漸進的なアプローチが現実的である。例えば、住民や企業の立地が少ない臨海部や河川などを多数有する都市は、上空空間でのサービスを先行して開始する適地といえる。実際に千葉市のドローン特区の実証実験では、東京湾臨海部の物流倉庫から海上・河川を経由して臨海部の集合住宅に荷物を配送している。

また、人口減少などの社会環境変化に伴い、別の用途に転用が可能なインフラが増えていることも、ドローン導入への追い風となる。例えば、「中心市街地に立地する廃校」「幹線道路沿線に点在するガソリンスタンド」などは、ドローンポート(後述)に活用・転用できる有効な候補地となる。このような地上施設や都市上空の飛行可能な空間を発掘し、ドローンを飛ばすことができる飛行ルートを計画的に開拓・整備していくことが、ドローン・ビジネスの長期的成長、「空の産業革命」実現の鍵といえよう。

3.ハードとソフトの社会インフラ整備、共有

都市部でのドローン・ビジネスを成長軌道に乗せるためには、運航事業者が安全性を証明すると同時に、住民や企業が利用しやすい料金でサービスを提供することが求められる。運航事業者の経営努力は当然としても、それをサポートする環境、社会インフラを整備していくことも重要だ。

安全で効率的な運航を実現し、ドローン・ビジネスの便益をスムーズに社会に浸透させていくため、運航事業者の誰もが利用できる共通・共益のインフラとして、ハードとソフトの両面から次の三つが優先的に整備されることが望ましい。

①運航管理システム

異なる事業者が運航する機体の衝突を防止するために、各機体の運航を管理・調整するシステムが必要になる。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)による「ロボット・ドローンが活躍する省エネルギー社会の実現プロジェクト」では、運航管理統合サブシステム(事業者間の調整を行う)、運航管理サブシステム(事業者内で複数機体を管理する)、ドローンオペレーターという3層のアーキテクチャーの実現性を実証する実験が行われている。これらを活用して各機体の運航を事業者が管理し、事業者間で調整するシステムないしは仕組みが必要となる。

②ドローンに電源供給するポート

ドローンが自律運航を行っていく場合には、電源を供給するためのポートを一定間隔で設置することが必要となる。新規参入や運航範囲拡大に伴う投資を抑えるために、各運航事業者が相乗りで利用できる公共ドローンポートを設置する。都市部に多数存在するビルの屋上や電柱・鉄塔などを活用することも可能である。

③データ共有の仕組み

運航事業者間の調整を行う交通管理主体が、ドローン運航全体を制御し、衝突回避などの安全対策を講じることができるように、ドローンの飛行データを共有可能とする(図)。ドローンとヘリコプターの衝突を懸念する声もあるが、ドローン運航管理システム(UTM)と有人航空機の位置情報の共有が進めば、衝突防止の精度は格段に高まる。

また、ドローンが飛行した位置情報や取得した画像・測量データの利用や情報共有を進めることは、新規サービスの創出にもつながる。例えば、有人航空機のデータには米FlightAwareが提供するサービスがあり、ADS-B※4という航空機が発する位置情報信号や各国の航空局から提供された位置情報を収集し、その位置情報により航空機の遅延状況をリアルタイムで提供できるようになっている。無人航空機でも同様に位置情報を活用して配送状況の確認や取得した測量データを活用することで、新サービスを創出することは考えられる。

このほかに、ドローンの操縦・技術だけでなく、ビジネス・制度・空間形成(都市計画)など、エコシステムを支える高度専門人材を体系的に育成する仕組みも必要になるであろう。アジア諸国と同様に人口の密集度が高い都市が多く、安全性への意識が欧米並みに高い日本でドローンを安全に運航できるモデルを構築できれば、世界各都市にドローン・ビジネスを展開していくことも可能となる。

課題は多いが、夢も大きく広がる「空の産業革命」の早期実現を期待したい。
[図]データ共有の仕組み(イメージ)

※1:ハンマーで道路橋のコンクリート面を叩き、音の変化を人の耳で聴き分けて劣化箇所を特定する方法。

※2:Light Detection and Ranging。レーザー光を照射し、対象物までの距離測定などを行う。

※3:Simultaneous Localization and Mapping。飛行しながら地図を作製し、自己位置の推定を行う技術。

※4:Automatic Dependent Surveillance-Broadcast。航空機が自身の識別情報、現在位置や高度などの情報を常時放送することに基づく監視技術。信号は、地上もしくは航空機上で受信可能であり、状況認識力の向上や他機との間隔の設定のために使用される。