マンスリーレビュー

2020年7月号特集スマートシティ・モビリティ経済・社会・技術

ポストコロナがもたらす新しい地方創生

「自律分散協調社会」に向けてなすべきこと

同じ月のマンスリーレビュー

タグから探す

2020.7.1
スマートシティ・モビリティ

POINT

  • 新型コロナを機に20世紀型の工業化社会、大都市集中のリスクが顕在化。
  • 自治体の独自の着眼・施策や地方分散を可能にするビジネスに自律の萌芽。
  • ポストコロナの新しい「自律分散協調社会」像は地方創生の大きなチャンス。

1.コロナで顕在化した日本の弱点

新型コロナウイルス感染症の急激な拡大とそれへの対応は、「新しい生活様式」の誘因となり、日本の生活・社会・経済を変える機会ともなりえる。こうした感染症は将来も決して根絶できるものではなく、人類は覚悟をもって感染症と共存していくことが求められ、「ポストコロナ」の時代にどのように経済社会を営んでいくかが問われている。

コロナ禍では、東京や大阪など大都市圏への人口集中、インバウンド観光頼みの地方再生などに潜むリスクが顕在化した。産業・経済面では、医療用マスクなど必要物資の供給不足に加え、大都市のオフィス勤務を前提とした働き方の弱点も浮き彫りになった。非常時に繰り返される「買いだめ」など、個人の非合理的な行動も見られた。

従来の政策・手法では対処しきれない社会・地域課題に対して、政治や行政の弾力性・機動性不足も表面化した。工業化社会において効率性を追求したことが、結果的に非常時の脆弱性を増長した面もある。日本の科学・デジタル技術は最先端を走っているが、社会や人々の生活様式は、いまだ工業化社会の習慣から脱却できていない。

1億総活躍社会、人生100年時代といった掛け声はあっても、目に見えた社会変革には至っていない。今回のコロナ禍は、物質的な豊かさを目指した工業化社会モデルから、21世紀型の社会モデルに転換する契機となる可能性がある。パンデミック対応はもとより、豊かで持続可能な社会モデルの実現を目指すべきである。

2.コロナ対応で見られた変革の萌芽

新型コロナへの対応では、官公庁も民間も前例のない中で模索を繰り返しながら、国一律とは別にわが道を選んで柔軟な対応をした自治体や、先端技術・ICTを活用して既存システムの弱点に対する解決策を示したベンチャー企業の取り組みもあった。

(1) 和歌山県・大阪府:検査拡充・接触者追跡徹底と独自モデルで拡大封じ込め

わが道を選んだのは和歌山県。当初、国ではPCR検査の対象を狭く限定し検査数を抑制し過ぎていたのに対し、仁坂吉伸県知事のリーダーシップのもと、地域の外国人接触や府県間移動などの実情に応じ、対象を拡大して積極的にPCR検査を実施した。国の一律基準だけに頼らず、科学的知見に基づき、積極的な検査と接触者の追跡による感染者隔離という原則を徹底したのである。

和歌山県が成功した重要な要因は、地域の実情に即した適切な判断と行動を自主的に行ったことである。地域の医療資源や府県をまたぐ通勤通学状況など実情の把握、PCR検査拡大での府県間協力に加え、県庁内の早期役割分担の明確化、首長から住民・事業所への丁寧な説明があって達成できたものと考えられる。

大阪府は、2020年3月中旬にいち早く府県間の往来自粛を呼び掛けたり、府の独自基準に基づく自粛要請・解除の「大阪モデル」を5月初旬の段階で作成した。これに京都・兵庫・滋賀・奈良・和歌山の近隣各府県も協調し、各地域に合わせた新たな行動基準が作られる動きとなった。このほか、市民へ届きやすいアラートの出し方も含め、自律した動きを見せる自治体が多く見られた。

(2) T-ICU、エクサウィザーズ:遠隔集中治療・動画活用AIで地域資源の課題解決

コロナ禍対策では、医療崩壊を防ぐことが最重要課題の一つとなった。その鍵を握るのが、集中治療病床や人工呼吸器などの確保と並んで、集中治療専門医の確保である。日本の集中治療専門医は約1,400人、病院勤務医14.6万人の約1%と平時から不足しており、パンデミック時にはボトルネックとなることが危惧されていた※1

兵庫県芦屋市に本拠をもつベンチャー企業のT-ICU※2は、全国の病院の集中治療室の医師や看護師から提供された情報に基づき、遠隔地から集中治療専門医がアドバイスを実施する「遠隔集中治療(遠隔ICU)※3」サービスを提供している。

今回の新型コロナ流行に対し、T-ICUは「COVID-19プロジェクト」(図)を4月15日にスタートさせ、重篤な患者に対する遠隔ICUを24時間提供できる体制を構築するため、新たに集中治療専門医を増員した。遠隔ICUは、地域・施設・時間といった制約をICT技術で乗り越え、質の高い集中治療を提供できる環境づくりに大きく貢献する。これを高く評価する自治体も多く、神戸市の「スタートアップ補助制度」の対象に認定され、ポートアイランド内に新事業所を設置、日本最大級の医療クラスターへ参画することとなった。

一方、AI画像解析に強みをもつエクサウィザーズ※4は、福岡市と協働して、在宅介護者向けの電話相談窓口の設置や、在宅介護・リハビリ動画を活用したAI相談アプリの提供を開始した。介護サービスが利用できない中、自宅で体力・認知機能を維持することを手助けするもので、外出自粛により孤立する在宅介護者への支援事業として、敏捷なスタートアップ企業と自治体が協調した好事例である。
[図] T-ICUと地域医療機関・医療従事者との連携スキーム

3.新しい地方創生の姿:「自律分散協調社会」

新型コロナの蔓延(まんえん)という危機的な状況下で、自治体や企業が自主的にさまざまなチャレンジを試みたところに、社会変革への萌芽が見られる。和歌山県、大阪府のほか、北海道や東京都などでも、地域の特性を踏まえ意志をもって自律的に動いたことが共通の特徴である。神戸市では、ポストコロナを見据えいち早く新産業共創や共生まちづくりを展開しようとしている。こうした事例から想起されるポストコロナの新しい地方創生の姿は、「自律×分散×協調」の社会といえるのではないか。

「自律」とは、今回明らかとなった日本型の中央統制ガバナンスの弱点を克服し、国の統一基準に頼らず、地方のことは地方自身が考え、実情にマッチした決定をすることである。必然的に、財源移譲も含めた地方財政や産業育成も自律の対象となる。

「分散」とは、国内外から地方へ居住者を積極的に受け入れるとともに、都市と地方どちらか一方にだけ定住するのではなく、多拠点で役割を果たす人財循環を実現していくことである。住民の多様化に加えて、産業面でも、インバウンド観光だけでなく、地域ごとに特色ある強みを再確認し、確立していくことが重要となる。

「協調」とは、多様な形で地域・社会課題の解決を目指す「分散」した社会が、地域政策を担う自治体だけでなく、突破力とユニークな技術をもつスタートアップを含む民間企業、高い感度とリテラシーをもち自ら行動変容できる市民と協調することで、地方都市間のネットワークを形成することである。

以上の結果、東京一極を頂点とする従来の階層構造から、AI・IoTなどの先端技術を活用して地域社会の課題を解決する高度な分散協調型ネットワークへの変革の機運が生まれるだろう。ただし、真の「協調」が成り立つためには、「自律」「分散」した「強い」地方が前提となる。強い地方が連携・協力することで、伝染病や災害対策などの危機対応に加え、新たな産業や元気のあるスタートアップ企業、ユニークなコミュニティー活動など、多種多様な地方創生が活性化することが期待される。

4.「自律分散協調社会」型の地方創生に向けてなすべきこと

歴史的な転換期、過去の経験が役に立たない難局への対応について、今回のコロナ禍は有益な示唆を与えた。それは、中央集権型のヒエラルキー社会よりも自律分散協調社会の方が、より柔軟に、より早く、より実効性のある解決策を考え実行できるということである。当然、自律分散協調社会への転換は、中央(国)から与えられるものではなく、社会の構成員それぞれが、そうした社会に向け意図して行動することが求められる(表)。

第一は、国と地方の役割分担を見直すこと。国はトータルな科学知見の整理や取りまとめを行うべきだが、領域によっては地方への権限と財源の移譲を積極的に進め、地方の自律を促すことが必要だ。デジタル化や先端科学技術の進化は、地域課題解決に要するコストを低下させ、地域で小回りの利く実装策とその普及を容易なものとした。

第二に、地方自治体は、地元住民か都市部に住む関係人口であるかにかかわらず、地域にとって必要な人財・主体を見極めながら、政策に巻き込んでいくことが必要となる※5。それが「自律」的な意思決定と政策執行につながる。巻き込むべき主体には、ベンチャー企業や研究の社会還元を目指す大学・研究機関なども含まれる。

第三に、企業はポストコロナを機に、従来の集中オフィスや定時出社の働き方、単一サプライチェーンなど工業化社会に最適化された組織運営、拠点配置などを改めるべきだろう。非常時の事業継続力だけでなく、平時の効率性も一変させるはずだ。

第四に、住民は、地域の特徴と将来を深く考え、自律して判断、行動できる首長や地方議員を選ぶことである。大きな転換期にいる以上、これまでの選択では通用しない。今回、都道府県知事の姿勢と行動の違いが大きく出た。住民自身も地域課題に対する感度とリテラシーを高め、自主的な行動変容を恐れないことである。

ポストコロナの自律分散協調社会は、地方にとって大きなチャンスであり、今こそ産官学民が創生、共創に向けて立ち上がるべき時である。三菱総合研究所も、事務局として運営するプラチナ社会研究会、未来共創イノベーションネットワーク(INCF)を活用し、複数政策の地域最適パッケージ化、地域実証の推進、産官学民連携の拡充など、自律分散協調社会の実現を能動的にプロデュースしていく所存である。
[表] 新型コロナのビフォア/アフターにおける各種変化

※1:集中治療専門医数は、日本集中治療医学会データ、病院勤務医数は、厚生労働省「医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」(2018年度)。

※2:ICTサービスを介して、専門医による遠隔集中治療ソリューションの普及、遠隔での集中治療室運営支援、医師・看護師への支援を行っている。

※3:米国では1990年代後半から「遠隔ICU」の導入が始まり、現在ではICUの2割の病床が導入済み、重症患者のICU死亡率が11.7%低下、患者のICU滞在平均日数が0.63日減少という研究データもある。      
“Journal of Intensive Care Medicine”(2017)。

※4:エクサウィザーズは、画像・動画解析などAIモデルを活用したサービスで、製品・人物検知・動き予測など社会課題解決と産業革新を目指すベンチャー企業。

※5:例えば、プラチナ社会研究会と三菱総合研究所が2017年から提言してきた都市と地方の間で働き方・住まい方を変える「逆参勤交代」構想は、「自律分散協調社会」に向け、多くのリスクを解決する有力な方策の一つである。

関連するナレッジ・コラム