マンスリーレビュー

2020年7月号トピックス6ヘルスケア経済・社会・技術

50周年記念研究 第6回:未来は自宅がクリニック化する

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2020.7.1

オープンイノベーションセンター鈴木 智之

POINT

  • 新型コロナウイルスの感染拡大を背景にオンライン診療の普及が加速。
  • 自分に合う医師を見つけ遠隔検査を活用すれば自宅がクリニックに。
  • 身体拡張技術が普及する未来では新たな能力のメンテナンスも。
2020年4月、新型コロナウイルス感染症の拡大を背景として電話やオンラインでの診療および服薬指導が解禁された※1。対応する医療機関や薬局を活用すれば、患者は自宅にいながら診察を受け、薬を自宅に配送してもらえるようになった。「ウィズコロナ」時代とも言われる中で、これまで限定的な導入にとどまっていたオンライン診療は加速度的かつ継続的に普及していくと考えられる。

現在のオンライン診療では、「やり取りが音声や映像に限られる」「五感をフルに活用できない」「採血やレントゲンの検査ができない」などの制約がある。しかしこうした課題は、技術の発展に伴い解決されていく。触診の柔らかさをデータ化し伝えるハプティクス(触覚伝送)技術、音に加え心電図まで同時にデータをとることで心疾患の診断支援ができる聴診器、分かりやすく簡単に扱える迅速検査キット、血液1滴からがんの検査を行うリキッドバイオプシーなど、オンライン診療で活用できる可能性のある検査技術が次々と開発され、サービス化されている。オンライン診療の普及と技術発展により、未来の患者と病院の関係は次のような変化を遂げていくと考えられる。

 ①通院の物理的制約がなくなり、患者は自分に合う適切な医師を全国から選べる
 ②ウエアラブル端末や検査キットが普及し、心身の健康データを自分で取得できる
 ③病気を治すだけでなくAIによる健康増進や病気の早期発見が一般的になる

オンライン診療が普及した段階が①であり、②では自宅がクリニック化する。さらに進んで③になると、AIシステムが日々の生活記録から体調悪化のサインを検出しアラートを発して、健康を増進したり、病気の芽を早期発見したりするための診察を支援できるようになる(図)。もはや、患者が体調悪化を自覚してから病院を探すことはなくなるだろう。

③の先にある、ロボット義肢やアバターロボット(分身)などの身体拡張技術が普及した未来には、「より良いレベルの健康」の概念が変わるだろう。例えば職場で使うアバターの調子が悪ければ、自分の健康と同様にメンテナンス対象になる。新技術が広げる健康の未来に思いをはせながら、オンライン診療の今後を想像してはどうだろうか。

※1:厚生労働省「新型コロナウイルス感染症の拡大に際しての電話や情報通信機器を用いた診療等の時限的・特例的な取扱いについて」(2020年4月10日)

[図]未来のオンライン診療と受診行動

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