マンスリーレビュー

2023年11月号トピックス2経済・社会・技術サステナビリティ

水問題を日本発イノベーションで解決する

2023.11.1

事業基盤部門岡澤 有実子

経済・社会・技術

POINT

  • 水にまつわる問題は世界的に深刻さを増している。
  • 課題解決の主体となりうるスタートアップが登場している。
  • 日本は高い問題意識や技術力を活かし他国に先駆けを。

世界的に深刻な水問題

爆発的な人口増加などから、水にまつわる問題は深刻さを増す。経済協力開発機構(OECD)は2000年からの50年間で世界の水需要が55%程度増えると予測※1。国連は、2025年には世界人口の3分の2※2が生活などに必要な最低量すら使えない「水ストレス状態」に陥るとしている。

使用後に目を向ければ、海洋や河川の汚染の問題も深刻だ。温暖化による海面上昇や異常気象による水害なども地球全体の脅威となっている。

ハードとソフトの対応が急務

日本は水に恵まれているイメージがある。しかし、1人が年間に利用可能な「水資源賦存量」は世界平均の半分以下だ※3。梅雨や台風の時期に降雨が集中しているほか、山がちな国土で水がすぐに海に流れてしまう点が響いている。

さらに近年では、ハードとソフトの両面で水問題に対応する必要性が高まっている。ハード面では水道インフラの老朽化対応が待ったなしだ。高度成長期に広く整備された水道管の3割近くが、耐用年数を超えている。

ソフト面では、気候変動への対応が必須だ。国は新たな防災対策として「流域治水」への転換を進める。ポイントは2つ。1点目は従来の集水域や河川区域に、氾濫域も含めた範囲を一つの「流域」として捉えること。2点目は民間企業や住民を含め、流域に関わる全ステークホルダーが持続可能な治水対策を目指して協働することだ。

主体となりうるスタートアップ

日本は大企業を中心に、水処理膜などの高い技術力で、世界を取り巻く水問題の解決に貢献してきた。そして近年、新たなテクノロジーを駆使して課題解決の主体となりうる注目のスタートアップが、日本人の手によって誕生している。

例えばWOTA(ウォータ)は2019年、AIやセンサー、フィルターを活用して排水の98%以上を循環再利用できる「WOTA BOX」を発売した。持ち運びが容易で狭いスペースにも設置可能だ。同製品によって誰もが安全安心な再生水を使えるようになれば、水不足解決が大きく進む。

また、日本人がシリコンバレーで設立したスタートアップFracta(フラクタ)は、独自収集した1,000種類以上の環境変数やAIを駆使することで土壌環境を分析し、地中にある水道管の劣化状況を判定できる技術を開発した。地面を掘り返して目視点検をせずとも、最適なタイミングで修繕できれば、技術者減に悩む管理者を支援できる。

日本には「戦える武器」がある

1995年に世界銀行のイスマイル・セラゲルディン副総裁(当時)は「20世紀が石油をめぐる戦争ならば、21世紀は水をめぐる戦争の時代になるだろう」と発言して、話題を呼んだ。

日本は世界に先行している「水問題先進国」ともいえる。世界と戦える水関連の技術力を持ち、その裾野も広い。高い問題意識と技術力を武器に、今こそ水問題の解決に先駆けたい。

※1:OECD(2012年6月)"OECD Environmental Outlook to 2050" p.24。

※2:国連経済社会局(2007年)"Water scarcity | International Decade for Action 'Water for Life' 2005-2015"。

※3:国土交通省「令和4年版 日本の水資源の現況」p.133、135。