マンスリーレビュー

2023年11月号トピックス1海外戦略・事業

湾岸諸国の脱炭素に日本は「仕組み」で貢献を

海外戦略・事業

POINT

  • UAEのCOP28開催で湾岸諸国は脱炭素のキープレーヤーに。
  • 投資などに積極的だが、実務に関しては欧米への依存度が高い。
  • 日本は排出クレジット活用や東南アジア連携で「仕組み」提供を。

脱炭素における湾岸諸国の潜在力

2021年3月からアラブ首長国連邦(UAE)のドバイに、初代支店長として駐在している。1年の半分は屋外で危険なほどの暑さを感じるが、室内では震えるほど冷房が行き渡る。主産品の石油や天然ガスが脱炭素化の進行で売れなくなれば、こうしたエネルギー多消費型の生活継続は難しい。

一方、世界の2050年ネットゼロ※1の達成には、再生可能エネルギーへの移行や省エネに加え、二酸化炭素(CO2)の分離・回収・貯留(CCS)や水素、アンモニアなどの次世代エネルギーの拡大が重要とされている※2。中東にはCCSに適した油田やガス田が多く、CO2を排出しない水素製造に必要な太陽光発電の適地も多い。

エネルギー移行に必要な設備投資※3についても、資産運用の実績に富むソブリンウェルスファンド(SWF)が担い手として期待される。

実務での支援は欧米が主体

2023年11~12月のCOP28開催国となるUAEは「現実的なエネルギー移行の道筋を提示する」ことを旗印に、気候変動外交をリードする構えだ。同国が2006年に設立した国営再エネ投資会社マスダールは世界30カ国以上で143億ドル(約2.1兆円)の再エネ投資実績がある。

ただ、湾岸諸国は政策・技術の両面の実務については、欧米主体の外国勢に依存してきた。例えばUAE政府は2023年7月に発表した水素戦略で、2050年には世界需要の3.5%にあたる1,500万トンの水素を生産すると宣言したが、この戦略はドイツの技術支援のもとで作成された。

日本は「仕組み」で伴走を

日本は伝統的に湾岸諸国との間で、原油などの安定確保を目的とする資源外交を続けてきたが、2023年7月の岸田総理の中東歴訪に合わせ、世界的なグリーンエネルギーのハブ(拠点)に移行するための支援を約束した。総理歴訪で示された政府間の「構想」と、民間企業が行う「プロジェクト」をつなぐ、具体的な「仕組み」の構築を急ぎたい。

例えば、パリ協定の6条2項で認められている「協力的アプローチ」では、海外で実現したCO2削減量を自国の削減目標達成に活用できる。日本が主導する2国間クレジット制度(JCM)は27カ国と締結されている、世界最大かつ最も実績のある協力的アプローチである。湾岸諸国では2015年にサウジアラビア、2023年にUAEが締結済みだ。

JCMは湾岸諸国だけでなく、東南アジア諸国連合(ASEAN)の国とも連動させて、有機的な展開を図ることも可能である。例えば、タイの石炭火力発電で、CO2排出削減に必要なアンモニア混焼の実現に向け、日本企業が技術を導入し、UAEなどのSWFが投資をしてはどうか。

JCM活用により、タイでのCO2削減量はクレジットとして日本とタイとの間で分配され、UAEは投資先や燃料アンモニア需要が開拓できる。

COP28を機に、当社としてもこうした「仕組み」の具体化を後押ししたい。

※1:温室効果ガスの正味(ネット)の排出量をゼロにすること。「カーボンニュートラル」と同義。

※2:国際エネルギー機関(IEA)によると2050年にネットゼロを達成するには同年までにクリーン水素生産能力を2022年の420倍、CCSは134倍にする必要がある。

※3:IEAは、新興国や開発途上国のクリーンエネルギー領域で、2030年初頭に年間800億~1,000億ドルの投資が必要としている。