マンスリーレビュー

2023年11月号特集3エネルギー・サステナビリティ・食農

国内農業生産・農地維持の課題とビジネスの可能性

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2023.11.1

English version: 1 Februay 2024

政策・経済センター平野 勝也

政策・経済センター武川 翼

エネルギー・サステナビリティ・食農

POINT

  • 2040年に現状比200万トン増の主食穀物の輸入が必要に。
  • 食料安全保障上維持すべき農地・人的リソースの目標の明示を。
  • 食料生産基盤づくりと余剰農地の活用に新たなビジネスチャンス。

2050年主食穀物生産力は現状の40%に

日本国内の農業経営体数は、2022年ついに100万を割り込んだ。近年、5年ごとに30万〜35万経営体が減少しており、当社推計では2050年には18万経営体まで減少、2020年8.9兆円の農業生産額も4.3兆円へと半減する可能性がある※1

さらに、コメ・小麦という主食穀物の国内需要と国内生産の見通しに焦点を当てて推計したところ、2020年の国内需要約1,400万トンは2050年に約30%減の1,000万トンとなる見通しである。生産量に至っては、それを上回るペースで減少し、2020年の875万トンが2050年には327万トンと約40%まで減少する。

2040年の需給ギャップは現状比200万トン増

当社見通しが現実になれば、主食穀物の需要と国内生産のギャップは2040年に最大となり、現状比で約200万トン増の723万トンになる(図)。
[図] 国内の主食穀物の需要と生産の見通し
[図] 国内の主食穀物の需要と生産の見通し
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出所:各種データから三菱総合研究所作成
現時点の国際的な穀物貿易の取引状況を見るかぎり、足元で急に日本が穀物を輸入できなくなるリスクは大きくない※2。しかし15年以上先とはいえ、200万トン規模で穀物の輸入を増やせるかというと、慎重にならざるを得ない。現状、世界の小麦輸出入量は年間で約2億トンだが、最大の小麦輸入国であるインドネシアでも約1,000万トン程度にすぎない。もしも、その対象が小麦より国際的な流通量が少ないコメになるとしたら、さらに困難な状況になりうるだろう。

2040年時点で113万haは維持すべき

国内の主食穀物の需給が、現状のトレンドのまま進むと仮定した場合、国内の生産量は増加するどころか、むしろ輸入を増やさなければ立ち行かない状況も見えてきた。気候変動のリスクなども視野に入れると、たとえ15年以上先だとしても、最低限、現状と同程度の輸入量にとどめることを現実的な目標に据えるべきだ。

農地に関しては、現状の全経営耕地の面積約320万ヘクタール(ha)のうち、コメ・小麦の生産に170万haが利用されている。当社の推計では2040年時点の輸入量を現状並みに抑えるには、113万haを耕作する必要があるが、77万haしか耕作されない見通しであり、最終的に36万haが不足するとみられる。

大規模農家に加え中規模農家の育成

第二次安倍政権で農業が成長産業と位置付けられ、畜産・酪農などを中心に、農業経営の大規模化が大きく進展した。水田などの土地利用型農業でも、「担い手※3」への集積が進展し100haを超える大規模農家が出現するようになってきた。

しかしながら各地の現場を見ると、集積にもそろそろ限界がきている。生産コストの増加・米価の下落などもあり、特に10〜30ha程度の水田農家の経営継続が厳しくなってきている。

現在、地域農業のあるべき姿を策定する「人・農地プラン」の延長で、「地域計画化」が法制化され、農地の集積を通じた地域の農業ビジョンづくりが集落ごとに求められている。これを見るかぎり、分散型である日本の農地の特性上、全ての農地を大規模農家に集積させることは困難である。企業経営が意識される売上高1億円以上の農業経営体になるには100haの集積が必要だが、このレベルの企業経営に求められる経営効率には対応できない農地が日本には非常に多い。

一方で20〜30haで売上高2,000万〜3,000万円程度の家族経営農家ならば、維持できる農地はそれなりに存在する。中規模の自律的農家の育成・支援が今後の農業・農地維持政策の中では重要なポイントの1つだろう※4

具体的な農地ビジョンの提示を

当社が示した「2040年113万ha維持」の目標ですら、50万ha規模の農地は耕作されない。これを維持するのか、しないのか。する場合は、コストをどう調達するのかを考えることが重要である。

50万haの農地の維持にかかるコストを概算すると、国内で生産される小麦の約100万トンは約23万haの農地で生産されている。しかし小麦生産には輸入小麦のマークアップ分による約1,000億円が補助金として支給される。1,000億円という国民負担で、23万haの農地が維持されることと等しいともいえる。同様に考えると、50万haの農地の維持には約2,200億円のコストがかかる。

今後はバイオ燃料やバイオプラスチックの生産、再生可能エネルギー活用といった、農地活用法も生まれよう。費用対効果を見据え、前例主義を排除した農地の活用から、新しいビジネスの創出に至る可能性もあるだろう。長期のスパンでの、目指すべき具体的な数字を伴う農地利用の姿、ビジョンを明示することが求められる。

※1:2022年12月号「2050年の国内農業生産を半減させないために」。

※2:米国であれば5,000万トンの小麦を生産し半数以上を輸出、カナダであれば3,500万トンを生産し、2,500万トンを輸出している。日本の輸入国は、オーストラリアを含め、これらの友好国が主となっている。当社コラム(2023年3月2日)「日本の食料国内生産と輸入量の実態」。

※3:効率的かつ安定的な農業経営およびそれを目指して経営改善に取り組む農業経営者。

※4:食料・農業・農村基本法の中で「多様な農業人材」が議論されているが、「中小零細農家の保護」という意味であれば慎重な検討が必要である。ここでの「中規模農家」とは「保護すべき零細農家」ではなく、将来にわたって地域農業を支え、自律的に経営を行っていける地域の農業リーダーにほかならない。

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