コラム

食と農のミライ食品・農業サステナビリティ

日本の食料国内生産と輸入量の実態

食料自給率と安全保障 第2回

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2023.3.2

全社連携事業推進本部稲垣公雄

食と農のミライ

国内の穀物需要約3,300万トンに対し輸入は約2,400万トン

「日本の食料自給率が38%と低下している」という報道を頻繁に目にするようになった。しかし、何をどれぐらいの量、国内生産できており、輸入しているのか、全体像について、正しくとらえる機会は意外と少ないかもしれない。

第1回コラムで、食料自給率の図表を使って、消費者1人当たり、何をどれぐらい食べているか、そのうち、国内生産できているものと輸入に頼っているもののバランスはどうかを確認した。今回はその結果も踏まえつつ、日本国内の消費・生産・輸入の総量がどうなっているのかを確認しよう。

よく知られているように、コメは消費量のほぼ全てが国内生産で賄われている。その量は年間約700万トン。一方で、小麦635万トン、大豆335万トン、トウモロコシ1,600万トンの合計2,570万トンの需要量のうち、そのほとんどの約2,430万トンが輸入である(ちなみに、トウモロコシの3分の2以上は飼料用)。

野菜の消費量は生鮮・冷凍をあわせて約1,500万トンあるが、うち20%程度が輸入となっている。鶏肉220万トンの年間消費量のうち76%は国内生産されており、鶏肉調製品50万トンとあわせて約100万トン程度が輸入である。牛肉は37%、豚肉は50%が国内生産である。

繰り返しになるが、大豆を含む穀物系の輸入は2,430万トン、野菜の輸入は300万トン、肉の輸入は250万トンであり、物量的にいえば、圧倒的に穀物系の輸入が多く、課題であることがわかる(金額的には、穀物系6,730億円、野菜5,340億円、肉類1兆1,870億円)。

すでに、コメの年間消費量のほぼすべてにあたる700万トンは国内自給していることを紹介したが、現在、国内で生産できている穀物は、小麦などを合わせて800万トンから950万トン程度である。過去、歴史を振り返ってみても、実は国内で穀物を最も生産できていた昭和30年代後半から40年代頃でも、国内の生産量は合計で1,600万トン程度だったといわれている。当時、農地は600万haと、今の1.5倍以上あった。つまり、現状の穀物需要の3,300万トンの大半を国内生産しようとしても、どだい無理な話なのである。足元で議論されている小麦やトウモロコシの多少の増産などは、全体ボリュームの対比でみれば、焼け石に水でしかない※1
図1 日本の食料の需要量と輸入の関係(全体像)
日本の食料の需要量と輸入の関係(全体像)
出所:「令和2年度農林水産省輸出入概況」を基に三菱総合研究所作成
https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/kokusai/index.html 

日本の穀物輸入はほぼ米国・カナダ・豪州・ブラジルの4カ国に限られる

では、「穀物需要の半分も国内自給できない」というのは、とんでもなく絶望的な状況なのだろうか。決してそんなことはない。穀物系について輸入先をみると、小麦は米国・カナダ・豪州の3カ国でほぼ100%、大豆は米国とカナダで85%以上(残りのうち10%以上がブラジル)、トウモロコシは全体の3分の2が米国、残り3分の1がほぼブラジルからの輸入である。すなわち、大豆を含む日本の穀物の輸入先は、米国・カナダ・豪州・ブラジルの友好国4カ国からの輸入でほぼ100%である。ちなみに、肉類については、牛肉は米国と豪州でほぼ全て、豚肉は、米国とカナダで50%を超える。鶏肉については、ブラジルとタイが大半を占めている。また、食料全般でみると、金額的には中国からの輸入は米国に次ぐ2位になるが、冷凍野菜の50万トン弱、加工鶏肉の20万トン弱が農産物のトップ2であり、比較的海外依存度が低い品目である。

足元、日本ですぐに極端な食料不足になるリスクは高くない

穀物を中心とした食料価格の高騰をうけて、一部で「食料争奪戦がはじまった」「日本が世界で食料を買えなくなる日が遠くない」というような報道も、度々見かけるようになった。現状の穀物大生産国である米国やカナダから、日本が穀物を買えなくなるリスクはどれぐらい高いのだろうか。

例えば、小麦の状況を見てみよう。図2にあるとおり、世界の小麦生産量は7.6億トン、中国が世界最大の生産国で、インド、ロシア、米国、カナダと続く(2020年実績)。報道でよく見かける通り、ウクライナは生産量で世界の8位、輸出量で5位にランキングしている。

ただし、注意する必要があるのは、7.6億トンの世界生産量に対して、国家間で取引される量は2億トン程度で、「ウクライナが世界輸出第5位」といっても、総生産量に対して、その比率は2%程度でしかない、ということである。今回のウクライナ危機において、一部の国が輸出禁止措置をとったのは事実だが、大生産国で輸出禁止措置をとったのはインドだけである(インドの穀物生産量は大きいが、基本的に輸出国ではない)。一方で米国、カナダ、フランスなどの先進国かつ農業生産国は、生産量の過半以上を輸出に回している。国際機関や米国農務省の中期予測において、需要量に対して著しく生産量が不足する事態は予想されていない※2。その前提に立てば、米国などの大輸出国が(国際的な大騒乱や大規模な気候変動などにより生産量が半減するようなことがない限り)、輸出を止めるような事態が発生することは、ほぼ考えられない。
図2 世界の小麦の生産量・輸出量・輸入量
世界の小麦の生産量・輸出量・輸入量
出所:FAOSTATデータを基に三菱総合研究所作成
もちろん、だからといって、「国内の食料供給は万全で、全く問題がない」ということではない。生産量に対して国際貿易に回っているボリュームが限られている、「薄い市場」であるからこそ、少しの需給バランスの変化で大きな価格変動が起こるのも事実である。

しかし、「価格が高騰する」という話と、「他国に買い負ける」という話は全く別の話だ。「中国に買い負ける」という事態が発生しているのは、高級マグロのような希少性の高い高付加価値な食料の世界においてである。国際的に1トン当たり数万円で何億トンもの取引がなされている穀物を対象に、買い負けが起こっているわけではない※3※4

以上を踏まえると、状況が劇的に変わらない限り、極端な食料不足になるリスクはあまり高くないと考えていいだろう。

その前提に立ったとして、今後の食料安全保障を考える上で、注視すべき視点は2つである。第1に、足元すぐは大丈夫だとしても、将来、極端な食料不足に陥るようなリスクはないのか——。あるとしたら、それはどのようなものなのか、ということである。

さらには、そういったリスクが想定されるのだとしたら、今からそれにどのように備えるのか。現状の政策はそのリスクに対応できているのか。その対応にはどの程度の時間やコストをかけるべきなのか(かけられるのか)——ということであろう。

※1:2022年12月27日、政府は「食料安定供給・農林水産業基盤強化本部」の会合を開催し、2030年の国内生産面積を小麦は21年比で9%、大豆は16%、飼料作物は32%それぞれ拡大させる目標を盛り込んだ。
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/nousui/index.html(閲覧日:2023年2月9日)
https://www.yomiuri.co.jp/economy/20221227-OYT1T50174/(閲覧日:2023年2月9日)

※2:OECD-FAO(国連食糧農業機関)による世界食料需給見通し
https://www.agri-outlook.org/(閲覧日:2023年2月9日)
小泉達治「国際機関が予測する10年後の食料-OECD-FAOの世界食料需給見通しより-」(公益財団法人農学会・日本農学アカデミー共同主催公開シンポジウム、2022年3月12日)
http://www.nougaku.jp/pdf/sympo2022.3.12/4-koizumi.pdf(閲覧日:2023年2月9日)

※3:近年、中国が大豆やトウモロコシ、小麦の輸入を増やしていることに懸念を持つ識者もいる。確かに、中国はいったん、コメ、小麦の自給を達成したが、飼料用穀物の不足や備蓄拡大のために、2010年代に穀物の輸入を増やしたのは事実だ。しかし、米中間の貿易摩擦が発生したことなども踏まえて、近年は国内自給に政策的にシフトしていると伝えられている。そもそも、過去30年のような人口増加・急激な肉食の増加は、今後は抑えられると推測されている。
参考:阮 蔚『世界食糧危機』(2022年9月、日経BP 日本経済新聞出版)

※4:そもそも、小麦やトウモロコシの価格が何倍になったといっても、1トン当たり、300ドルが700ドルになった、という水準の話であり、日本国民の消費支出に占める穀物消費の比率はせいぜい1~2%程度である。10倍になったとしても、日本が買えなくなる、ということは考えにくい。世界で穀物価格高騰により国民が困窮し、飢餓が発生するのは、イエメンやシリアのような、食料支出が消費支出に占める割合が非常に高い国であり、そういった国に、穀物輸入において日本が買い負けるような事態は考えられない。