コラム

技術で拓く経営コンサルティング

拡大するレーザー市場

通信・ものづくりから医療まで

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2014.5.20

経営コンサルティング本部 事業戦略グループ七森泰之

1. はじめに

光を増幅して放射することで指向性や収束性に優れるレーザー光は、1917年にアインシュタインにより基礎理論が確立、1953年にベル研究所のタウンズらにより世界初のマイクロ波増幅器が開発されて以来、今日に至るまでさまざまな産業の分野で基盤技術として利用されている。

本レポートでは、ますますその活用領域を広げつつあるレーザー技術に着目し、その市場動向や新しい用途の見通しを分析した。特に、以前から利用されている情報通信分野、製造現場での最新の利用状況に加え、医療・美容分野での新たな利用シーンにも言及する。

2. 市場規模と予測

米国のフォトニクスデバイス関連調査会社であるStrategies Unlimitedおよびレーザー関連情報サイト“Laser Focus World” によると、世界におけるレーザーの市場規模は2013年時点でおよそ88億ドル(約9,000億円)であり、うちおよそ半分が半導体レーザー、残りがそれ以外のレーザー(固体レーザー、気体レーザーなど)という内訳である1)。レーザー装置市場規模の推移を図2-1に示す。
図2-1 世界におけるレーザー市場規模推移
図2-1 世界におけるレーザー市場規模推移
出所:Laser Focus World 記事をもとに三菱総合研究所作成 (引用元の許可を得て掲載)
今後数年は、通信業界において情報量の増加によるバックボーンの高速化がさらに進むこと、また材料加工に用いるファイバーレーザーの性能向上に伴いさらなる導入が進むことなどから、2017年には市場規模は110億ドル(約1.1兆円)に達すると予想されている。2013年における用途別内訳を図2-2に示す。
図2-2 レーザー市場 用途別内訳
図2-2 レーザー市場 用途別内訳
出所:Laser Focus World 記事をもとに三菱総合研究所作成 (引用元の許可を得て掲載)

3. 分野別動向

レーザーに関連する用途のうち、特に市場として大きい情報通信、材料加工、医療・美容の各分野における動向を述べる。

3.1 情報通信分野での利用

計算機能力の向上、ビッグデータ化・クラウド化の流れから情報量が飛躍的に増加し、機器間を接続するインターコネクションの高速化が進んでいる。これまでデータセンターでは、同軸ケーブルを用いた安価な電気インターコネクションが利用されてきたが、10GbE(ギガビット・イーサネット)を超える40GbE/100GbEに対する需要が高まり、電気インターコネクションの伝送能力限界が見え始めたため、光インターコネクション(アクティブ・オプティカル・ケーブル:AOC)へと急速に置き換わっている。

光インターコネクションはケーブルの低消費電力・小型軽量化が実現できることから、通信の高速化だけでなく省エネ・発熱抑制にも寄与できるため、今後はデータセンター内通信用途の置き換え需要が堅調に推移すると予想される。また近年、AOCは光・電気変換部と光ファイバケーブルを一体化することでユーザーの利便性が向上しており、低コスト化と合わせてさらに普及が進むであろう。

AOCには米国のFinisar社などが市場立ち上がり時から参入しており、現在でも高いシェアを有している。また富士通は、2014年1月に世界初の100Gbps対応AOCのサンプル供給を開始したと発表した2)

3.2 材料加工分野での利用

製造現場で利用されるレーザー加工は、近年、鉄鋼厚板の溶接、リモート高速溶接、電池ケース薄板の溶接、異材接合、太陽電池の分割パターニング、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)の切断などの用途開発が活発である3)

例えば薄膜シリコン太陽電池のスクライビング(溝加工)は、品質および量産性を左右するレーザーパターニング技術がキーとなる。発電効率を損なうようなマイクロクラックや熱損傷などを抑えて切断品質を確保し、かつ高速な加工スループットを実現するためにレーザーが重要な役割を果たしている。今後は、より大面積なパネルを均質かつ高速に加工できるような性能がますます要求されるだろう。

CFRPの切断は、通常、砥石(といし)やウオータージェットによって行われているが、工具の摩耗によりコストがかかる点、吸水により強度低下が生じる点などの課題がある。そのため、ナノ秒(10-9秒)単位の超短パルスレーザーを用いて非接触に切断・穴あけを行うことで、樹脂の損傷や炭素繊維の炭化など熱の影響を抑え、高精度かつ高速な加工を達成することが可能となる3) 4)。今後も切断面における熱影響領域をさらに小さくし、高品質な切断を行うための性能向上が求められる。

レーザー加工の技術開発はこれまでドイツで盛んに行われており、代表的な加工機メーカーとしてトルンプ社が挙げられる。国内ではアマダが高速加工・省エネルギー性能の向上を特徴としたファイバーレーザー加工機を展開している。

また近年ものづくりの分野では、試作品や実際の部品を製造する付加製造(Additive Manufacturing)技術、いわゆる「3Dプリンター」が注目されている。3Dプリンターには樹脂をノズルから押し出して堆積させるタイプなど、複数の方式が存在するが、「レーザー焼結法(Laser Sintering)」と呼ばれる方式ではレーザーが重要なコンポーネントの一つになる。

レーザー焼結法の中でも代表的な選択的レーザー焼結法では、製品を造形するコンテナに樹脂粉末や金属粉末を均一に敷き、3Dデータにもとづきガルバノメーターミラーを通してレーザーを照射、照射部分のみを固化させる走査を繰り返して造形を行う。これらの3Dプリンターでは高密度・高精度化を狙い、スポット径の小さいファイバーレーザーが利用されている5)。金型そのものを迅速かつ低コストで製作したり、人工骨などの生体材料のテーラーメイド製品をその場で製作したりすることが可能になる。また設計自由度が向上し、以前からの切削法をはじめとする他の加工法では不可能な形状を実現できる点も特徴である。

レーザー焼結法による3Dプリンターを展開する代表的なメーカーはドイツのEOS社、米国の3Dシステムズ社などである。国内ではアスペクトが粉末焼結積層造形装置「RaFaEl」シリーズを展開している。

3Dプリンターが製造現場により導入されていくためには、造形速度向上や精度向上を目指したレーザーの高出力化に加え、装置価格のうち多くの割合を占めるとされるレーザー部分の低価格化を図ることも重要な課題であろう。

3.3 医療・美容分野

医療・美容の分野では、レーザーは永久脱毛やシミ・そばかすの除去などの美容用途、近視矯正のためのレーシック手術や鼻アレルギー治療など幅広い領域で利用されている6)。ここでは、近年注目されているフェムト秒レーザーを利用した白内障治療およびがんの非侵襲治療(光線力学的療法)を解説する。

白内障治療において、3.2節で紹介したナノ秒(10-9秒)パルスレーザーよりもさらに短いフェムト秒(10-15秒)単位のパルス幅を利用するフェムト秒レーザーの活用が注目されている。フェムト秒レーザーを利用することで、患部周辺組織への熱拡散の影響を極めて少なく抑えて治療を行うことができるため、白内障手術の標準的な手法と比較し、創口作製、前嚢切開、水晶体核破砕が短時間かつ正確に実施できる点が特徴である7)。フェムト秒レーザーによる白内障手術機器は2009年にLenSx Lasers社(現Alcon社)が米国食品衛生局(FDA)の認可を受け、その後も他社が追従している。日本国内で当該機器を導入している施設はまだ少ないのが現状であるが、今後安全性評価が進むとともに普及が見込まれるであろう。

次に、光線力学的療法はPDT(Photo-Dynamic Therapy)とも呼ばれ、早期がんに対してレーザー光に反応するポルフィマーナトリウム(光線力学的療法用剤)をがん細胞に集積させた後にレーザー光線を当て、がん細胞を内部から破壊する治療法である。PDTは早期肺がん、早期食道がん、早期胃がん、早期子宮頸がんに対して保険適用されており、安全性が極めて高く、また他の治療法との組み合わせも容易で応用範囲が広いため、現在期待されている治療法である。ただし、1)適応が早期がんに限られている 2)皮膚光過敏症の問題 3)レーザー装置が大型で高価 であるなどの点から、現状では普及は限定的である。このうちレーザーの課題は、大きく高価であったレーザー装置(エキシマダイレーザー)も近年、コンパクトでより低価格なダイオードレーザーの出現により改善されてきている8)。今後も、PDTを始めとする医療・美容分野の機器においては、小型で出力密度の高いレーザー光源へのニーズが高まっていくだろう。

4. まとめ

以上、レーザー技術を利用した製品の展望を述べた。多くの製品分野のうち、情報通信分野ではデータセンターにおけるケーブルやインターコネクションの光化、材料加工分野では精密レーザー加工や3Dプリンターによる実部品製造が今後もトレンドとなるだろう。また、医療・美容分野では以前からの用途に加え、最新事例としてフェムト秒レーザーを利用した白内障手術機器、光線力学的療法(PDT)によるがん治療など、新たな用途が広がりつつある。

こうした注目用途は、各国・地域が取り組む競争領域でもある。そこで競争力を発揮するためには、レーザー単体だけでなく素材や信号処理、制御といった関連技術との高度な融合や医工連携といった分野を超えた取り組み、ユーザーとの用途開発が鍵である。日本も、技術開発に加え用途開発にも一層目を向け、レーザー利用のフロンティア領域を切り拓くことが期待される。

5. 参考文献

1)Laser Focus World,” Laser Marketplace 2014: Lasers forge 21st century innovations” ,2014年1月16日

2)富士通コンポーネント株式会社プレスリリース,” 世界初 100Gbps対応マルチモードQSFP28アクティブ・オプティカル・ケーブルを開発”,2014年1月22日,http://www.fcl.fujitsu.com/release/2014/20140122.html

3)日刊工業新聞,”多くの分野に応用展開されるレーザー加工機と加工技術”,2014年1月12日,http://www.nikkan.co.jp/adv/gyoukai/2011/110112c.html

4)愛知県,”未来を拓く、中小企業の応援読本「ナノ秒単位のレーザーパルスで難加工材を切断、加工処理する」”,2011年12月28日

5)京極秀樹,”最近のレーザー積層造形技術の開発状況”,日本機械学会誌,Vol.111,No.1081,2008,p.52

6)NPO法人日本臨床医療レーザー協会

7)松島博之,後藤憲仁,”フェムトセカンドレーザー白内障手術”,眼科手術,vol. 25,no. 2,2012

8)奥仲哲弥,”PDT 光線力学的療法“