コラム

技術で拓く経営コンサルティング

ドローン協奏曲:新たな産業共創の形

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2015.10.30

経営コンサルティング本部 事業戦略グループ鈴木智之

1.スタンフォード大学をドローンが舞う

2015年10月15日、スタンフォード大学において「Drone Swarms: The Buzz of the Future」というイベントが開かれた。主催はVLAB。マサチューセッツ工科大学(MIT)の卒業生組織に端を発する起業家支援、ビジネス促進を行う非営利団体のSan Francisco Bay Area支部であり、スタンフォード大学もスポンサーとなっている。

一台のドローンがカメラや測定器、ちょっとした荷物などを搭載し空を飛ぶ。世間ではそんなイメージがまだ主流ななか、同イベントでテーマとされたのは、数十台単位のドローンが編隊を組み、空を、海を、陸を駆け巡る、将来の世界観だ。

無人機システムに関する世界最大の非営利団体AUVSI(The Association for Unmanned Vehicle Systems International)の試算によれば、米国のドローン産業は関連産業の裾野まで含めて2025年までの10年間で10万人の新たな雇用を創出し、820億USDの経済効果を生むとされる1)。こうした背景のもと、同イベントではドローンの定義を広く無人機と捉え、未来についてのパネルディスカッションが行われた。

なお、イベントは屋外でのネットワーキングから始まった。マルチコプターではなかったが、ここでは複数台の陸上ドローンが配備され、監視するデモがあった。他にも、空、海のドローンに関する実物や模型の展示が行われていた。
図 1 会場を監視する陸上ドローン (筆者撮影)
図 1 会場を監視する陸上ドローン (筆者撮影)

2.空・海・陸のドローン編隊

パネルディスカッションでは、まず空のドローンとしてNaval Postgraduate Schoolが今年9月に50機の固定翼ドローンを同時に飛ばし、さらにそれを一人の操縦士で制御した世界記録の事例が紹介された2)。海のドローンには、太陽光と潮力を利用して海上の観測を行うLiquid Robotics社のドローン、陸のドローンとしては、会場の監視を行っていたKnight Scope社のドローンが紹介された。また、米国航空宇宙局(NASA)からはGoogleやAmazonと共同研究を進めるUTM(Unmanned Aerial System Traffic Management; 無人飛行システムの交通制御)のプロジェクトが紹介された。同プロジェクトでは米国連邦航空局(FAA)と連携し、2019年までに低高度飛行の開発実証を終える予定である。50機のドローンが実際に空を舞うビデオや、映画「Back To The Future Part Ⅱ」の世界のように空に交通ルートが敷かれているシミュレーション映像などは、具体的なイメージを提示するものとして会場の雰囲気を盛り上げていた。

続く討論では、同分野におけるチャレンジとして、複数台制御、GPSの信頼性向上、ドローンとのコミュニケーションなどの技術的な課題のほか、子どもや老人が怖がらないようなデザインの問題、将来のコスト効果や価値創造に対する理解を求め開発資金を集めることの難しさなどが語られた。ドローンを対象としたファンドを運営するAirware Commercial Drone Fundからは投資家サイドの意見として、ドローンでの宅配サービスはまず人口の少ない町への医薬品輸送など、人命救助に関わる分野から導入されていくだろうとコメントされた。さらに要素技術は早期に別分野で導入される可能性があるとして、高速道路を自動走行するサービスを開発するStartUpの事例などが取り上げられた。

イベントの最後には各パネリストからドローンでの起業を目指す参加者へのエールが送られ、イベントは盛況のうちに終了した。

3.ドローンをめぐる国内外の動き

弊社MRIマンスリーレビュー「幅広い活用と事業創出が期待される商用ドローン」(2015年10月)にもあるように、国内ではドローンの規制を定めた改正航空法が成立、今後のドローンの商用利用拡大に向けた法整備が進められている3)。実用面ではICTの先進的な活用で知られる佐賀県武雄市でドローンを利用した災害救助訓練が行われた。教育面ではデジタルハリウッドがドローンを専門的に扱うコースを設置し11月より開講するなど、活発な動きが見られる。複数台のドローン活用については、ブルーイノベーション株式会社が株式会社国際電気通信基礎技術研究所と連携し、複数のドローンを遠隔で制御する技術を開発するとの発表も行われた。

米国では今年、45の州で166のドローン関連法案が提出され、うち20の州で26の法案が可決された4)。例えばカリフォルニア州では、許可なしに個人の私有地へドローンを飛ばし、プライバシーに関わる対象を撮影することが禁止された。フロリダ州では個人や企業のプライバシーを侵害する可能性のある撮影を、本人の許可無く行うことが禁止されることになった。また10月19日には、米国政府よりドローン購入者に登録を義務付ける方針が打ち出され、話題となっている5)

規制だけでなく、さらなる活用に向けた動きも盛んだ。今年の7月にはカリフォルニア州サクラメントで、米国初のドローンレースとなる2015 FATSHARK US NATIONAL DRONE RACING CHAMPIONSHIPSが行われ、総額25,000USDの賞金をかけて120人以上のパイロットが腕を競った。11月には同じくカリフォルニア州のサンノゼでDrone World Expoが開催される予定で、シリコンバレーの注目を集めている。

ドローンに向ける視線は中東でも熱い。アラブ首長国連邦(UAE)は2015年2月にドローン技術のワールドカップともいえるThe UAE Drones For Good Awardを開催した。UAEはドローンの利用に関するルールを最初に導入する国を目指そうと意気込む。57カ国から800のエントリーを集め、ドローンの性能やサービスが競われた。結果は、球状の殻で衝突から身を守りながら災害現場などでの情報収集が行えるSwissのFlyabilityが国際部門で優勝し賞金100万USDを受賞。通信サービスの提供範囲を拡大するEtisalat Network Drone、および国立公園の生態系情報収集を支援するWadi Dronesが、国内部門で優勝し賞金100万AEDを受賞した。2016年も継続開催予定であり、さらなる新しいドローンが技術とサービスを競い合うことが期待される。
図 2 優勝したFlyability社のドローン「Gimball」6)
図 2 優勝したFlyability社のドローン「Gimball」6)

4.セクター間のコラボレーションによる産業共創

ドローンをめぐる動きは、例えばインターネットが生まれた頃に似ているのかもしれない。新しい技術が生まれ、さまざまなアプリケーションが提案され、規制が追随する。しかし当時と大きく違うのは、既にインターネットが存在する点だ。今や、世界のどこでどんなサービスが生まれたか、どんな規制が行われているか、誰もが瞬時に情報を得ることができる。情報共有だけでなく、クラウドや3Dプリンターによるプロトタイピングなど周辺技術の進歩も目覚ましい。このスピード感の中で国際競争に対抗していくためには、行政、大手企業、スタートアップ、大学やNPOなど、異なるセクターに属する関係者が意見を出しあい、一緒になって新しい産業を作っていくことが求められる。

異なるセクター間でのコラボレーションに関係するコンセプトとして、2013年にHarvard Business Review(HBR)にて、トライ・セクター・リーダーシップ(Tri-Sector Leadership)という考え方が提唱された7)。トライ・セクターとは企業(Business)、政府(Government)、市民社会(Civil Society)の3つ。論文で定義されている市民社会とは主にNPOやNGOのことを指すが、ポイントは、新しい産業の創造に際してセクター間の垣根が非常に低くなってきたということだ。ドローンにおいても、新たな時代のリーダーだけではなく、さまざまなプレーヤーが産業を育てるという共通の目的を根底に共有しながら、セクターを超えたコラボレーションを進める動きが見られている。

トライ・セクターという枠組みはCSV(Creating Shared Value)とも親和性が高く、トライ・セクター・イノベーションやトライ・セクター・コラボレーションという言葉も聞かれるようになった。こうした、異なるセクターのプレーヤーを意図的に連携させる動きは、これからの産業共創の新しい枠組みを形作っていくものと期待される。
図 3 トライ・セクターの連携による産業共創
図 3 トライ・セクターの連携による産業共創

5.擦り合わせのイノベーション

コラボレーションによる産業共創には、細部に至るまでのデザインの共有が欠かせない。シリコンバレーの企業では、機能や意匠、プロトタイピングだけではなく、顧客体験、ビジネスモデル、さらには法律への対処も含めた幅広い分野がデザインの対象とされる例もある。コラボレーションの中心に立つリーダーには、インセンティブや文化の異なる各セクターの間で、目標とモチベーションを共有しながらバランスを取ったかじ取りが求められるだろう。

おもてなしの文化と言われるように、相手の立場に立ち、細部まで気を配ることは日本人の得意分野に思われる。顧客の体験と自らの機能を調整していくプロセスは、過去日本が得意としてきた擦りあわせに通じるプロセスではないだろうか。

最後に少し、ドローン・アプリケーションの未来について想像してみたい。今年の3月、GoogleやQualcommなど多額の出資を行うMagic Leap社の公開した動画が話題になった。同社は拡張現実(AR)の技術・サービス開発を行う企業だ。動画の内容は、自分の部屋を舞台にシューティングゲームが行えるといったもの。ゲームをプレイすると、自室の壁や天井を破って敵が登場し、プレーヤーは自身の手に投影された銃を操作して敵を倒していく。(技術的には異なるが、)プロジェクション・マッピングをゲームと連携させ、自室に敵と銃を投影させ操作するようなイメージ、といえば伝わるだろうか。こうしたAR技術と組み合わせると、ドローンはリアル・スターウォーズのような世界を作り出すことも可能になる。自分でカスタマイズしたドローンを飛ばし、ARで具現化された武器で敵のドローンを撃墜する。実被害はないが、被弾すると操作に影響が出たり、飛行不能になったりするような動きをソフトウェアで再現する。大会が開かれ、ソフトはオープンソースで開発しどんどん発展する。この例だと少々物騒だが、将来はARの世界がいつでも現実に置き換われるようなレベルになっていくだろう。あるいは、現実の世界が拡張現実と重なりあうことが当たり前の世の中になるかもしれない。拡張現実は現在メガネ型のデバイスやヘッドマウント・ディスプレーを利用しているが、部屋を飛んでいるドローンが自分の目にむけてリアルタイムに仮想の世界を投影することだって、できるかもしれないのだ。

新たな兆しの見られる産業はドローンだけではない。周辺産業も含めて、ドローンの世界はどんどん大きく膨らんでいく可能性を秘めている。異なるセクターの擦りあわせによるイノベーションが、従来のものづくりの延長線上ではない、日本の強みとなる新しい産業共創の枠組みに育つことを願っている。

6. 参考文献

1)AUVSI, “The Economic Impact of Unmanned Aircraft Systems Integration in the United States”, 2013年

2)Popular Mechanics, “Record-Breaking Drone Swarm Sees 50 UAVs Controlled by a Single Person”, 2015年

3)大木 孝, “幅広い活用と事業創出が期待される商用ドローン”, MRIマンスリーレビュー10月号, 2015年

4)National Conference of State Legislatures, “CURRENT UNMANNED AIRCRAFT STATE LAW LANDSCAPE”, 2015年

5)U.S. Department of Transportation, “U.S. Transportation Secretary Anthony Foxx Announces Unmanned Aircraft Registration Requirement”, 2015年

6)http://www.flyability.com/(2015年10月19日アクセス)

7)Nick Lovegrove and Matthew Thomas, “Why the World Needs Tri-Sector Leaders ”, Harvard Business Review, 2013年