コラム

Safety Biz~安全・安心を創る新しいビジネス~防災・リスクマネジメント

自治体の災害対応を全国的に高度化させる仕組みを

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2017.6.21

科学・安全事業本部東穗いづみ

Safety Biz

POINT

  • 災害発生時、被災自治体は膨大な災害対応業務に忙殺され体力を消耗する。
  • 被災自治体が対応業務を絞り込むとともに、遠隔自治体においては、それを分業で支援する仕組みの構築が必要である。
  • 他地域の災害対応の経験を蓄えることで、全国の自治体の災害対応能力を同時に向上させることが可能である。
東日本大震災や熊本地震をはじめ、近年の災害では民間団体を中心とする「適材適所」の支援が根付きつつある。「官民データ活用推進基本法」も施行され、防災分野においても、クラウド上での災害時のデータ利活用が加速して進む中、更なる民間セクターの自助・共助の伸びも期待できる。今後この傾向は益々顕著となり、それが望ましい姿として、より一層踏み込んだ官民一体の災害対応の絵姿も描けるようになるだろう。
一方で、被災者や被災企業が平常を取り戻すには行政の機能が不可欠である。にもかかわらず、被災自治体の災害対応業務の過多とこれに対応すべき職員の人数・経験不足は依然として課題のままである。個々の自治体がその自治体内で災害対応を処理するという従来の考え方では、南海トラフ地震のような広域巨大災害には太刀打ちできない。では、どのような解決策が考えられるだろう。

注目すべきは、社会における自助・共助の素地と、既に内閣府や防災科学技術研究所で進められているような情報プラットフォーム等の効果的・積極的活用である。つまり、災害時における被災自治体の災害対応業務の一部を「適材適所」の受け皿として民間セクターへ開放することで被災自治体の災害対応業務をスリム化し、公的機関でなければ実施不可能な業務を、複数の自治体に分散させる。
まず、被災自治体の担当業務を、外部からの受援を前提とし、①対策本部で行う災害対応・復興の意思決定、②被災者のケアや生活再建・企業の事業再開支援等の住民対応、③受援の進捗管理・リソース調整等、真に被災自治体が実施すべきものに絞り込む。
公的機関でなければ実施不可能な業務への支援は、官民で収集・整備されたクラウド上の災害対応データ等を活用し、情報プラットフォーム上で複数の遠隔自治体が分業して行うことを基本とする。例えば、物資充足状況の管理や罹災証明発行のための作業などといった、従来、被災を免れた国や自治体等の職員が被災現地に赴く形で行われてきたものが主な対象である。業務の割振りや調整は都道府県等がコーディネートし、適宜被災市町村と連携する。これにより、長期にわたる復旧・復興の期間においても、被災自治体の体力消耗を回避することが可能となる。
図 自治体による「受援前提」での全国的な災害対応の仕組み
図 自治体による「受援前提」での全国的な災害対応の仕組み
出所:三菱総合研究所
このような仕組みを取り入れることによって、遠隔から支援・協力を行う自治体側のメリットも大きくなる。直接現地に入る従来の支援と同等の経験取得やノウハウ継承は、遠隔地においても可能だ。各々の自治体の平常業務を停滞させず、且つ、平時の職員自身の生活を維持しつつ支援を行うことができる。結果的に、被災地へのさらなる全庁的・継続的支援も期待できよう。また、同種の災害発生が予測される自治体においては、まさに「わが事」として、将来の被災時に本仕組みで得られた災害対応に係る知見・経験を十分に活用していくことが可能となる。
災害対応に直接参加しない自治体においては、情報プラットフォーム上に展開される対応状況をリアルタイムで「共有」することによって、職員の防災意識の向上に大いに寄与するとともに、平時における実際の災害対応の検証や、各々の自治体の災害対応業務の検証・改善・研鑽に活用できる。その結果、災害対応担当職員の能力向上に、従来の訓練では得られなかった高い効果が期待できる。

以上の、情報プラットフォームを用いた全国的分業の仕組みを整備し、それを標準化することによって、わが国の如何なる場所で災害が発生しても、都度、全国の自治体が直接的・間接的に災害対応経験を「受援・支援・共有」して蓄積することが可能となる。そしてその経験を活かし、将来的に発生が予想される災害では、あらゆる自治体がその時点で一定レベルの災害対応を「経験どおりに」実施できる。
当社は、シンクタンクとして、本仕組みのルール作りや災害時における自治体の対応項目、及び支援の標準的仕様検討について、主体的に取り組んでいく。