コラム

Safety Biz~安全・安心を創る新しいビジネス~防災・リスクマネジメント

IoTが変える産業安全の未来

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2017.8.2

科学・安全事業本部柴田高広

Safety Biz

POINT

  • 設備老朽化および人材不足等の社会的課題を背景として、IoTなどの先進技術を産業設備の保安に活用する動きがある。
  • 先進技術の活用によって、これまで現場保安力を担ってきた人間の役割も変わる可能性があるため、産業安全の概念自体の再整理が必要。
  • スマートな産業安全の実現に向け、産業界全体が協調・連携して“産業安全バリューチェーン”構築を。
わが国の発電所、化学プラント、工場等の事業環境では、設備の老朽化やベテラン現場作業者の退職などにより、難しい課題を抱えている。例えば、過去の度重なる大規模事故の経験を踏まえて蓄積してきた産業安全のノウハウが失われる中、事故対応経験の乏しい人材が大規模事故を予防せねばならないことなどである。このため、産業安全の分野でもIoTなど先進技術の活用が注目されており、データ分析に基づいた保全計画や予兆検知等を目的とした技術の開発と検証が進められている。

IoTの導入は、各種産業における現場でのリスク低減に効果を発揮すると考えられるが、同時に、現場での安全管理の考え方、そこで人間が担ってきた役割そのものを変えることにもなる。結果として、産業安全に求められる人物像や人材育成のあり方も変容させる。そのため、IoTを現場に導入する際には、産業安全の概念自体を再整理したうえで、設備だけではなくそれを運用する人間も含めたシステム全体の安全性と機能性を再評価しなければならない。

これまでわが国では、安全管理はいわゆる「現場の活動」として位置づけられ、5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)やKYT(危険予知トレーニング)などの「現場力」向上策が成果を挙げてきた。しかしながら、生産システム自体が大規模化・複雑化している近年、軽微なトラブルや事故が経営を揺るがす大規模事故につながるケースも珍しくない。企業は、このようなノックアウトファクターの存在を認識し、そのリスクへの対処を重要な経営課題として位置づけ、リソースを優先的に投入しなければならない。

一方で、このような産業安全の取り組みを企業単体で行うことは非効率な部分もある。産業安全を社会全体の課題として捉え、一社単独ではなく産業界を構成するさまざまなプレイヤーが機能分担する社会全体の価値の流れ(バリューチェーン)の中で産業安全を具現化する。そうすれば、企業単体では取り組みが進まなかった安全管理へのリソース配分と自主保安活動が進むと期待される。

このような仕組みは、特定分野の産業振興や規制改革など縦割りの政策からのみ創出されるものではない。製造事業者、メンテナンス事業者、システムインテグレーター、テクノロジープロバイダー、データ分析サービス事業者、リスクマネジメント技術者、認証機関、保険会社などさまざまなステークホルダーが問題意識を共有し、それぞれが主体性を持って活動し、連携していくことが必要だ。そして、そのような協調・連携の「場」が求められる。こうした産業安全バリューチェーンの創出のために当社も、潜在的なステークホルダーに新しい社会・ビジネスの姿を提言するなどシンクタンクとしての役割を果たし、未来社会の実現に貢献していきたい。
図 産業安全バリューチェーンの役割
産業安全バリューチェーンの役割
出所:三菱総合研究所