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大規模災害による高層階居住者の孤立化を防ぐには

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2017.8.30

科学・安全事業本部岡島優人

Safety Biz

POINT

  • 大規模災害でライフラインが途絶すると高層階に居住する人々は孤立する
  • 非常用電源設置や簡易トイレ備蓄だけでは、非常時の対応として不十分
  • 街区全体でライフラインの自立化を段階的に導入する必要がある
 

都市防災の新たな課題は高層階居住者の孤立

都市部は、人口集中や高層住宅の開発が進む一方で、防災上さまざまな問題を抱えている。具体的には「膨大な被災者の発生による避難所不足」「災害廃棄物(がれき等)の大量発生による仮置場不足」など多岐にわたる。中央防災会議は、首都直下地震が発生した場合、建物倒壊等による死者が最大1.1万人、揺れによる全壊家屋が約17.5万棟、避難者が最大で約720万人(発生2週間後)、災害廃棄物が最大約9,800万トン出ると想定している(※1)。そのため、長周期地震動などを対象とした高層住宅の耐震化等の対策が緩やかながら進められ、都市部の大規模災害対策が少しずつ講じられている。

一方で、防災を考える上では、建物だけではなく電力や上下水道などライフラインの被害も大きな問題となる。中央防災会議は、首都直下地震によりライフラインが広域にわたり途絶し、一部地域では1カ月もの長期にわたり電力供給が停止すると想定している(※2)。ライフラインが途絶すると「停電による冷暖房の停止」「上下水道の停止」「飲食料の不足」などにより、生活は大きな支障をきたす。特に、停電に伴いエレベーターが止まれば高層階居住者は、地上階への移動が困難となるため「飲食料や生活必需品」の確保が難しくなる。このようなライフライン途絶に伴う高層階居住者の孤立化は、非常に大きな問題といえる。

非常用電源では限界

孤立した高層階居住者の生活環境を確保する一つの方策として、非常用ライフラインがある。一部の高層住宅では、既に非常用電源を設置し、簡易トイレを備蓄している。実際に、東京都中央区、港区、渋谷区など一部では、ライフライン途絶に備え、高層住宅への備蓄倉庫設置を促進(※3)しており、一見、大規模災害時における高層階居住者の生活環境確保は着々と進められているように思われる。

しかし、非常用電源や簡易トイレ備蓄などの方策は、3日から1週間程度しか想定していないことが多い。これでは、首都直下地震発生時のような長期にわたるライフライン途絶には対応できず、孤立者の多くの生活環境が悪化する。過去の震災では、避難所などの生活環境悪化に伴う健康状態の悪化およびそれによる災害関連死が多数発生した。孤立者においても、同様に災害関連死の発生が懸念される。大規模災害時に孤立した高層階居住者の生活環境を確保するには、備蓄では限界があると考えられる。

このような問題を根本から解決するには、公的なインフラ施設・設備に依存しない、自立分散型のライフライン構築が不可欠である。都市部の高層住宅、あるいは街区全体で、平時からライフライン機能を都市部の高層住宅、あるいは街区全体に分散させ、大規模災害が発生した場合でも自立的に生活可能な環境を整備しておくことが重要である。もちろん、ライフライン機能を自立化させたとしても、ライフライン設備の物理的損壊の回避や設備の保守事業者の確保など様々な検討事項が残るが、ここでは検討の第一歩としてライフライン機能の分散に必要な技術について言及したい。

中長期的な視点による段階的な自立化の促進がカギ

電力に関しては、日照条件がよい高層住宅に、太陽光パネルや薄型太陽光電池を設置して発電し、余剰分は他の高層住宅へ融通することが考えられる。将来的には、災害時に非常用電源機能を担うことができる電気自動車や大規模ガスコージェネレーション(※4)などの導入にも期待したい。下水に関しては、自立的に処理できる合併浄化槽の導入も考えられる。最近では、有機性廃棄物や下水を投入源としたバイオマス発電も着目されている。

これらの自立分散型ライフライン機能は、導入時の採算性が課題視されるものの、高層住宅が密集する街区では需要規模が大きく、中長期的な事業採算性の確保も可能と考えられる。このような技術を高層住宅が密集する街区に導入すれば、電力・ガス供給と下水処理機能の自立化を同時に達成し、高層階居住者の孤立を防げると期待できる。

当然ながら、高層住宅街区の価値は災害時の自立性のみで決まるものではない。例えば生活利便性、健康快適性などの要素と併せて包括的な価値向上策を考えなければならない。ただ、災害はいつ起こるかわからない。災害時における現状での脆弱性を考えると、災害時の自立性が大きな価値基準となることは間違いない。ここまでに挙げた高層住宅街区の自立化には、短期的に導入可能なものと、街づくりや地域づくりの一環として長期的に進めるべき対策の両方がある。当社も、自治体への対策実装のコンサルティングを行いつつ、長期的な視点から、災害時に自立的生活が可能なまちづくりのための政策や制度について皆さんと一緒に考えていきたい。
図 現状(非常用ライフラインの設置)と理想(ライフライン機能の自立化)イメージ
図 現状(非常用ライフラインの設置)と理想(ライフライン機能の自立化)イメージ
出所:三菱総合研究所

※1)中央防災会議首都直下地震対策検討ワーキンググループ「首都直下地震の被害想定と対策について(最終報告)~ 人的・物的被害(定量的な被害) ~」(閲覧日:2017/8/8) http://www.bousai.go.jp/jishin/syuto/taisaku_wg/pdf/syuto_wg_siryo01.pdf

※2)中央防災会議首都直下地震対策検討ワーキンググループ「首都直下地震の被害想定と対策について(最終報告)~ 施設等の被害の様相 ~」(閲覧日:2017/8/8) http://www.bousai.go.jp/jishin/syuto/taisaku_wg/pdf/syuto_wg_siryo02.pdf

※3)防災情報機構NPO法人、防災情報新聞「<東京都>高層マンションに防災倉庫を”高層難民”対策で割増容積率を導入」(閲覧日:2017/8/21) http://www.bosaijoho.jp/topnews/item_5778.html

※4)ガスコージェネレーション:クリーンな都市ガスを燃料に用いて、必要な場所で電気をつくり、同時に発生する熱を冷房・暖房・給湯・蒸気などに有効利用するシステム

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