コラム

技術で拓く経営コンサルティング

超電導技術の将来展望

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2018.8.7

経営イノベーション本部阪本幸俊

1.はじめに

研究開発から半世紀以上、いつになったら走るのかと思っていたリニア中央新幹線(リニアモーターカー)は、2027年の開業まで残り10年を切った。リニア中央新幹線は、超電導磁気浮上式鉄道と呼ばれ、極低温まで冷却された超電導磁石が生み出す強力な磁力で、車体全体を浮かせて走行する。

超電導とは、特定の金属や化合物が一定温度以下で電気抵抗がゼロになる現象である。未来の技術のように思われる方も多いだろうが、実は原理が発見されてから100年以上経過している。超伝導の原理を応用した製品も医療機器を中心に既に数多く実用化されている。

ただし、実用化されている超電導機器の多くに液体ヘリウム温度(-269℃)で超電導状態(ここでは電気抵抗がゼロ)になる物質が使用されていることから、冷却コストが高いという欠点があった。しかし1986年以降「高温超電導」と呼ばれる、より高い温度(-196℃)で超電導状態になる物質が次々と発見された。これにより冷却コストが小さくなり、電流の損失を大きく抑えられる特徴を生かし、省エネを目的とした電力インフラ機器での利用が拡がりはじめている。

中でも市場規模が大きい超電導ケーブルを使った超電導送電の実現に注目が集まっている。本稿では、近年、注目を集める高温超電導、特に超電導送電の展望について考察する。

2.高温超電導

超電導の長所として、特定の金属や化合物が一定温度以下で電気抵抗がゼロになることで、極めて少ない電力損失で通電でき、さらに電力を消費せずに強い磁場を発生できることがある。

最初に超電導が発見されたのは1911年で、液体ヘリウム温度(-269℃)まで冷却した水銀の電気抵抗がゼロになることが確認された。その後も、ニオブなどの金属系を中心とした超電導現象が発見されたが、液体ヘリウム(-269℃)での冷却が必要なこと、また液体ヘリウムが高価で、取り扱いが難しいことなどが理由で、産業利用はかなり限定的であった。

しかし、1986年になって技術的なブレイクスルーが起きる。-243℃(30K)付近で超電導状態になるLaBaCuO系酸化物がIBM研究所によって発表され、東京大学のグループがこの現象を実験で確認する。これをきっかけに世界中で銅酸化物超電導の研究が始まり、-180℃(93K)のYBaCuO系、続いて-163℃(110K)のBiSrCaCuO系が次々と発見された。これにより、超電導状態を作り出す冷却媒体として安価な液体窒素(-196℃(77K))が使用可能となり、さまざまな産業機器で実用化に向けた研究開発が始まった。

なお、一般的には液体ヘリウム(-269℃)で冷やす必要がある超電導を「低温超電導」、液体窒素(-196℃)でも超電導状態になるものを「高温超電導」と呼んでいる。(以上図1)
図1 超電導材料の変遷
図1 超電導材料の変遷
出所:三菱総合研究所

3.高温超電導が注目される理由

このように、超電導には「低温超電導」と「高温超電導」があるわけだが、近年は「高温超電導」に注目が集まっている。

現在、超電導技術が最も利用されているのは、「低温超電導」を使う磁気共鳴断層撮影装置(MRI)と呼ばれる医療機器である。MRIは液体ヘリウム(-269℃)で冷却したニオブチタン合金製の超電導磁石を使用しており、超電導による強力な磁場により、人体の内部を精密に画像化することでさまざまな病気の診断に用いられている。国内では既に5,000以上の医療機関にMRIが設置されており、われわれが生活する上で、身近な超電導製品といえる。それ以外の用途では、高い磁場の発生を要する研究開発用の設備などが中心となっている。このように、現在超電導が使用される分野は、高い磁場が必要など、たとえコストがかかっても、超電導でしかその性能を実現できないもの、すなわち図2の「超電導でなければできないもの」に限定されていた。

しかし、前述したように安価な液体窒素(-196℃)を使った「高温超電導」が発見されたことで、冷却コストが小さくなって実用化がさらに進展した。図2の「超電導にすることで経済的になるもの」にも応用範囲が広がりを見せ、特に電力インフラ機器を中心に高温超電導の展開が進んでおり、モーター、変圧器、SMES※1(Superconducting Magnetic Energy Storage)、限流器などは実用化に向けた研究開発が急速に進んでいる。中でも最も研究開発が進んでおり、コスト削減による経済的なメリットが大きい「超電導ケーブルによる送電(超電導送電)」に世界から注目が集まっており、国内外の企業で主導権を握るための技術開発と実用化に向けた取り組みが行われている。
図2 低温超電導または高温超電導を利用した超電導製品・技術
図2 低温超電導または高温超電導を利用した超電導製品・技術
出所:古河電気工業株式会社ホームページ “超電導とは”(閲覧日:2018.7.5)

https://www.furukawa.co.jp/rd/superconduct/what.html

4.超電導関連市場

現状、超電導技術が使われている産業製品に占める比率は、医療機器、とりわけMRI装置が大半を占めている。NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の報告書1)によると、2030年のMRI装置の市場規模は国内で約1,000億円、世界で約1兆円に達すると予測している。

2030年には超電導を使った電力ケーブルも国内で約100億円、世界では400億円になると予測されている。今後も医療機器を中心に超電導市場の拡大が予想されるが、超電導ケーブルの早期実現により電力インフラなどへの適用分野の拡大が期待されており、さらなる市場の拡大も考えられる。

5.超電導送電の技術

発電所で発電した電気は、すべて使用する場所まで届くわけではない。通常の銅線ケーブルを使って送電すると、電気抵抗により電力が熱へと変換され損失が生じる。これは遠くに送電すればするほどロスが大きくなることを意味している。東京電力ホールディングスの試算2)によれば、送電時における電力ロスは約5%と言われている。

この送電ロスを減らす方法として考えられたのが、高温超電導材料でケーブルを製造し、液体窒素で冷却しながら送電を行う「超電導送電」である。超電導ケーブルを使うことで、損失がほぼゼロで大電流を送電でき、さらに既存ケーブルに比べて小径化することも可能である。理論上は損失がゼロの送電システムであるが、実際は液体窒素の冷却にコストがかかるため、完全に損失ゼロとは言えない。しかしながら、既存の送電に比べれば送電ロスを減らすことが可能となっている。

現在、コストの安い液体窒素(-196℃)の冷却で超電導状態を起こし、さらに既にケーブルとして実用化レベルに達している高温超電導としては、「ビスマス系」と「イットリウム系」の2つの物質がある。それぞれ長所と短所があり一概にどちらが優れているとは言えないが、ビスマス系は既存の圧延プロセスと同様の技術を利用できるため製造が容易とされている。一方、イットリウム系は蒸着などの複雑なプロセスを利用して製造するため、手間はかかるものの、電流密度が大きく大電流を流せる特徴がある。近年では、製造法の改良が進んだイットリウム系が主流になりつつある。

6.超電導送電の課題

省エネ技術として有望であり、市場の拡大が期待されている超電導送電であるが、なぜ早期に導入が進まなかったのだろうか。要因としては技術的な課題、経済的な課題が考えられる。

まず技術的な課題であるが、高温超電導を使ったケーブルは国内の公的研究機関や電線メーカーによる30年にわたる研究成果があり、多くの実証実験を経て実用化には十分なレベルに達していると言える。また冷却に必要な冷凍機についても近年、性能が飛躍的に向上しており、超電導送電で使われる個々のハードウエアについては、まったく問題ないと言えそうである。

しかし、個々のハードを送電線インフラ設備としてシステム化した際の課題は残る。例えば、運用中にケーブルの損傷があった場合、これまでは電気を止め、ケーブル部分を交換すればすぐに復旧できた。だが、超電導送電では単に交換するだけではなく、冷却機の停止や再開なども考慮する必要があり、安全対策や早期復旧対策において、これまでの送電技術にない問題が多く存在する。これらをシステムとして実現することに時間を要している模様である。

もちろん、これらの解決への取り組みは行われている。NEDOの高温超電導実用化促進技術開発プロジェクトの一つとして、「電力送用高温超電導ケーブルシステムの実用化開発」が進んでいる。このなかで、公的研究機関、電力会社、電力ケーブルメーカー、冷却機メーカーが連携して、安全性や早期復旧などの研究開発を行っている。しかし、海外の研究機関やメーカーも既に高温超電導を使った送電に関する実証実験を行っており、日本はこれまで長年蓄積されたハード技術で超電導送電をリードしてきたにもかかわらず、最後のシステム化で手間取っているようにも感じる。

次に経済的な課題であるが、前述したように既存の送電ケーブルを超電導送電に切り替えることで、電力ロスを削減できる。ただし、冷却機の設置や工事費などの初期コストがかかることで、すぐに導入に踏み切れないという課題がある。

さらに国内に限ったことではあるが、東日本大震災後に電力需要が減少したことも設備投資に影響している。このように技術を開発する側と、利用する需要側のマッチングがうまくいかず導入が進んでいないと考えられる。

7.考えられる課題解決策とは

今後、超電導による送電の技術が開拓され、ひいては日本が超電導分野でリードするためには、前述した技術的な課題と経済的な課題の両方を解決する必要がある。

技術的な課題として、最後のシステム化に時間がかかっていると述べた。言い尽くされたことではあるが、日本はハード技術に偏り、ソフトウエアやシステム化で主導できないことが多い。事業戦略を考える上で、ハードを売るだけで収益を上げ続けることは困難で、ソフトを使ったサービス提供が重要になってきていることは、周知の事実である。超電導送電では、ケーブルや冷凍機がハード、これらをパッケージ化してシステム全体の性能や品質を保証した上でインフラ構築する部分がソフトとなる。技術開発では、開発当初からインフラとして適用するための要求を明確にした上で、必要な性能と品質およびサービス全体を最適化し、それに向けて適切なタイミングで研究開発を行う、そんな戦略を続けることが必要ではないだろうか。

また経済的な課題についても同時に解決する必要がある。経済的な課題は、国内需要の減少と初期コストが課題であると述べた。だが国内には老朽化した送電ケーブルが多く存在しており、数年前の老朽化した電力ケーブルからの火災事故も記憶に新しい。東京電力管内だけでも設置から35年以上経過したケーブルが1,000キロ以上あるとされており、リプレイス需要は大きい。これらのリプレイスに際して、超電導送電を導入することにより実用化を目指すことも意義はあるだろう。

次に初期コストの問題については、新たな需要の開拓先として、海外展開、特に新興国への展開を進めることで解決できる可能性がある。海外の新興国は電力需要の伸びが著しく、今後、都市部を中心に細くて大容量送電が可能な超電導ケーブルは重宝されるに違いない。このような大きな需要に対しては初期コストを回収する見通しを立てることは比較的容易であると推測される。しかし、例えばこれまで送電線もなかったような場所にいきなり超電導ケーブルを引くことがあるのかという問題はある。

これには似たような事例がある。これまでアジアのなかでも発展途上国と言われていた諸国の携帯電話の普及率は、現時点で軒並み100%を超えており、日本の普及率を超す国も多い。携帯電話が導入される前は、これらの国の多くは固定電話の普及率が数%であった。しかし急速な携帯電話技術の進歩によって、設備投資に必要な基地局や端末の価格が低下したことで、回線敷設に多額の投資が必要な固定回線の整備ではなく、低コストで済む無線通信が積極的に導入された。

これは途中の段階的な発展を経ず、最先端の技術が一気に拡がる、いわゆるリープ・フロッグ(カエル飛び)の典型例である。これと同じことが超電導送電でも起きるのではないだろうか。新興国では日本のように、再度、地中を掘り返してケーブルを埋設する必要がないため、既存のケーブルと同等程度の価格であれば十分に勝負が可能と推測される。また海外での導入が進めば、高温超電導のコストダウンが起こり、モーターや変圧器といった高温超電導化が見込まれる機器への普及にもさらに弾みがつき、超電導市場全体の拡大にもつながるはずである。

8.超電導の未来

超電導は夢ではなく既に実現された技術であり、今後、超電導ケーブルの導入により、本格的な普及期を迎える準備も整った。新たな高温超電導材料の研究開発も行われており、線材への加工性に優れたMgB2(二ホウ化マグネシウム)やFe(鉄)系など新しい化合物による研究が盛んである。さらに、超電導を応用した機器では、MDDS※3(Magnetic Drug Delivery System:磁気誘導型薬剤輸送システム)、資源探査用超高精度センサー※4など、電力インフラ以外の新たな用途への展開なども検討されている。

冒頭でリニア中央新幹線の話題を出したが、著者が子供の頃に図鑑で見た「浮上しながら走行する未来の乗り物」は2027年にいよいよ日本でも現実になる。子供向けのアニメの中で「透明なチューブの中を自動車が走る未来」が描かれることがあるが、超電導ケーブルを縦横無尽に張り巡らせ、自動車にも超電導磁石が搭載されるようになれば、夢に見た未来の到来は近いのかもしれない。

9.参考文献

1) 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「平成26年度 超電導機器の市場形成に資する技術戦略策定に向けた調査報告書」

2) 東京電力ホールディングス株式会社「送配電ロス率」(閲覧日:2018.7.5)
http://www.tepco.co.jp/corporateinfo/illustrated/electricity-supply/transmission-distribution-loss-j.html

 

※1SMES:超電導を用いた電力貯蔵装置。

※2限流器:雷などによる事故電流を抑制する装置。

※3MDDS:薬剤と強磁性粒子を結合し、患者に投与した後、体外からの磁力によって薬剤の動態(吸収、分布、代謝、排泄)をコントロールするシステム。

※4資源探査用超高精度センサー:地下の金属鉱床などに誘導電流を誘起させ、それらから発生される磁界を測定し、地下構造を調査するセンサー。