コラム

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災害時におけるメッセージングアプリ活用

熊本地震後のLINE活用事例に着目

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2018.11.20
Safety Biz

POINT

  • 熊本地震ではLINEなどのメッセージングアプリが自治体で有効活用された。
  • 災害時のメッセージングアプリ活用にはさまざまな運用上の課題がある。
  • 普段使い(定着性)は強力な利点であり、災害に賢く備えたい。
いま、あなたのいる場所で災害が起きたら、家族や友人、勤務先とどのような手段で連絡をとるだろうか。電話や電子メールのほか、LINEなどのメッセージングアプリ※1を挙げる方も多いだろう。

近年、個人に限らず自治体もメッセージングアプリを災害対応に活用し始めた。2016年4月の熊本地震では、電話網(固定/携帯)は輻輳して利用困難となったが、熊本市や西原村、益城町の消防団などでLINEを用いた安否確認や連絡が行われた。このような経緯を踏まえ、熊本市では2017年4月にLINE株式会社と連携協定を締結し、2018年4月に職員約1万人、市民約3千人が参加する「震災対処実動訓練」で、LINEを用いた避難所や各部局の安否確認の実効性を検証した。

メッセージングアプリには、安定性・定着性・即時性を兼ね備えるという特徴がある(図1)。災害時は時間や人員が不足するため、普段から活用されていて、訓練を受けなくてもすぐに使える「定着性」は特に重要だ。熊本地震では、被災自治体に災害時連絡の専用ソフト入りのタブレット端末が配布されたが、職員が使い慣れておらず有効活用できなかったケースも多い※2。この教訓からも、広く普及したメッセージングアプリの活用を検討する意義は大きい。

しかし課題もある。まずは情報セキュリティの確保である。個人保有の携帯用機器を職場で業務に使用する「BYOD※3」のセキュリティ強度は利用するアプリの種類や設定によってまちまちであり情報管理の面で不安が残る。自治体はBYOD上で個人情報を扱うことを原則禁止しているが、熊本地震の際には非常対応としてやむを得ず認めざるを得なかった。また、高齢者にはスマートフォンやアプリになじみがない人も多く、このような手段では連絡がつかない場合もある。加えて、アプリ上で一度に表示できる情報は限られるため(図2)、多くの関係者が情報を発信してしまうと、数時間前までさかのぼって確認することは難しくなる。

これらの課題を踏まえてもなお、災害時の有効な連絡手段が増えるメリットは大きい。これまでの被災経験を踏まえた以下の工夫により、メッセージングアプリを有効な手段の一つとして活用するための準備を行いたい。

(1) セキュリティを強化する設定

メッセージングアプリには、利便性のために他のユーザーが自動的に連絡先に登録されてしまうものもある。こうした、意図しない情報流出を防ぐためには、該当する機能を無効にしておく必要がある。また、通信の暗号化に対応したアプリを選択することが望ましい。
例えばLINEであれば、「友だち自動追加」や「友だちへの追加を許可」「IDによる友だち追加を許可」といった設定をOFFにする一方、メッセージを暗号化して保護するLetter Sealing機能をONにすることで、セキュリティを向上させることができる。

(2) 関係者による階層的なグループ作成

あらかじめメッセージングアプリで指揮命令系統に沿ったグループを作成しておき、瞬時に関係者に一斉連絡できる体制を構築する。アプリを利用していないメンバーへの連絡方法も同時に検討しておくと良い。

(3) メッセージングアプリ活用の前提としての情報管理体制構築

情報の氾濫を防ぐための連絡記録用の統一フォーマットや、情報取り扱いルール※4の制定、定期的な連絡訓練(例えば月1回)の実施が前提として必要である。
災害時の迅速なコミュニケーションは生死に関わるが、度重なる災害経験を経てもなお、課題は山積している。まずは身近なICTツールの活用から、災害時のコミュニケーションのあり方を再検討してみてはいかがだろうか。
図1 災害時の連絡手段の比較
図1 災害時の連絡手段の比較
出所:三菱総合研究所
図2 メッセージングアプリ上のやりとりのイメージ
図2 メッセージングアプリ上のやりとりのイメージ
出所:三菱総合研究所

※1SNSの中でも、特定メンバー間でのテキストや音声のやりとりに特化したもの。

※2土木学会「2016年熊本地震被害調査報告書」(2017)による。

※3Bring Your Own Deviceの略語。

※4情報取り扱いルールの例
・個人情報を共有する前に、文章や写真、位置情報などの個人情報を含まない情報で代用できないか確認する。
・重大かつ疑わしい情報は、他の情報源と突合して信憑性を確認する。
・PCやBYOD端末は常に身の回りに保持し、目の届かないところでは他人に使わせない。