コラム

Safety Biz~安全・安心を創る新しいビジネス~防災・リスクマネジメント

スマートフォンを活用した災害情報サービスの普及に向けて

タグから探す

2018.11.27

科学・安全事業本部山口健太郎

Safety Biz

POINT

  • スマートフォンは、利用者の位置に応じた適切な災害情報の発信が可能。
  • サービスの多様化と普及には、特定の機能をほかのスマホでも使用可能にするAPI化※1が有効。
  • 開発者が災害情報APIを利用しやすくするには、官民協働の取り組みが鍵。
スマートフォン(スマホ)の普及率は8割に迫り※2、全国民がスマホを所有する社会の実現も現実味を帯びてきた。普及率の高さに加え、利用者の現在位置に応じた情報の発信が可能なことから、スマホは個々の利用者の状況に即した災害情報の発信に欠かせないツールである。例えば、津波発生時に海岸付近にいる市民に対して、高台に逃げるよう促す情報を発信できる。

一方で、災害情報は、天気予報とは異なり日々必要とされるものではない。ニュースのように利用者の教養を深めたり楽しませたりするものでもない。このように、更新頻度がまれでそれ自体楽しいものでもない災害情報の提供は、民間事業者のサービスとしては成立しにくいという特徴がある。

有用性の高い災害情報サービスについては、実現する技術が確立されているにも関わらず、サービス自体の市場性が低いのが現状である。このジレンマを克服するには、既に広く普及しているサービスとの組み合わせが鍵となる。

具体的には、災害情報発信に関する主要機能のAPI化の推進が有効である。API化とは、スマホアプリに備わる特定の機能を、他のスマホアプリでも利用可能にする仕組みを構築することを指す。例えば2017年に観光庁は、同庁が監修する外国人向け災害時情報アプリSafety tips(開発はアールシーソリューション株式会社)の災害情報通知機能を、NAVITIME for Japan Travel(開発は株式会社ナビタイムジャパン)など、すでに広く普及している複数のアプリと連携させる実証実験を行った。2018年8月末時点の「Google Play」によると、Safety tipsのダウンロードは1万件超なのに対し、NAVITIME for Japan Travelのダウンロードは50万件を超えている。このことから、API化によって効率的に災害情報通知機能の普及を実現できることは明らかである。

言うまでもなく、アールシーソリューションのようなAPIを開発する事業者側だけでなく、ナビタイムジャパンのようにAPIを通じた機能連携を利用する事業者側にも、一定の対応コストが発生する。もとより、人命に関わる誤報のリスクを恐れ、機能連携に及び腰になる事業者がいても不思議ではない。そこで、API化を活用した災害情報サービスの普及においては、行政による「ひと押し」が求められる。例えば、公益性の高い災害情報の提供を行っている事業者を行政や関連団体が認定し、ウェブサイト上で公表・奨励したり、さらに認定を受けた事業者には行政機関でしか入手できないデータを特別に提供し、独自サービスの設計を支援することが考えられる。このような事業者の創造性や、災害情報サービスに取り組んでみようとする積極性にインセンティブを付与する方策であれば、行政側のコストも限りなく低く抑えられるだろう。当社としても、官民双方の支援実績を豊富に有するシンクタンクとして、社会のニーズに即したサービスの設計・提案や、API開発事業者/連携先アプリ/サービス導入先のマッチング支援、行政側の制度設計・実証支援などを通じ、官民協働のドライバーとして貢献していきたい。

図 スマホを活用した(あるいは受信者の位置情報を活用した)災害情報サービスのイメージ
図 スマホを活用した(あるいは受信者の位置情報を活用した)災害情報サービスのイメージ
出所:三菱総合研究所

※1Application Programming Interface の略

※2総務省「平成30年情報通信白書」(2017年)(閲覧日:2018年11月16日)
http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h30/html/nd252110.html