コラム

Safety Biz~安全・安心を創る新しいビジネス~防災・リスクマネジメント

生き延びるためのAI

避難情報のオーダーメイド化

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2018.12.11

科学・安全事業本部冨士岡加純

Safety Biz

POINT

  • 防災分野でもAIの活用が広まりつつある。
  • 現状は状況把握の高度化が中心だが、避難判断に今後活用される可能性もある。
  • 人命にかかわる判断を伴う場合は、AIの責任の所在についても検討する必要がある。
防災対策は、建造物の耐震化や食料品の備蓄から、自治体による避難所の整備、あるいは国の防災計画策定まで多岐にわたる。いずれも技術の進歩や社会の要請を受けて、レベル向上がなされてきた。これまで、自然現象の観測や通信などの多様な技術が防災対策に活用されてきたが、高度に進化したICTの代表例といえるAIについても、防災対策の高度化を実現するための検討が進められている。

国内の防災分野におけるAI活用の事例として、第一に災害時のSNS情報分析が挙げられる。国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)が主導して開発した対災害SNS情報分析システム(DISAANA)・災害状況要約システム(D-SUMM)では、AIがTwitterの情報を基に自然言語処理を行い、災害発生地域や被害様相を分析・整理する※1 ※2ことで、速やかに状況を把握し、対応を判断するのに役立つ。

これまでは過去のデータから自然現象と被害の相関を分析して災害の被害を推定してきたが、ここにもAIが活用されている。具体的には防災科学技術研究所をはじめとするチームが、AIを用いて災害時にリアルタイムで被害を推定し状況を把握するシステムの開発を進めている。対象地域ごとの特徴を反映することで、より精度が高く、素早い被害推定の実現を目指している※3 ※4

AIによる画像分析の活用も始まった。2017年9月、イームズラボ社は、沖縄県総合防災訓練において、ドローンを用いて上空から映像を撮影し、AIを利用した被災地域の状況把握試験を行った※5。ドローンとAIによるシステムの構築・運用が実用化されれば、交通インフラが寸断された被災地域の状況把握が可能となり、救命率の向上や物資の補給への寄与が期待できる。

これらは、災害の状況把握の精度を高めるためのAI活用の例である。しかし、あらゆるデータを分析し客観的な判断をすることが得意なAIを、より有効に活用する方法もある。個人の主観によってなされる対応判断に、AIによる状況判断に基づく情報が加味されれば、より客観的で適切な対応が可能となろう。具体的には、自治体や地区単位で発出される避難情報に個人の位置情報や年齢を反映し、リアルタイムな状況変化を考慮して適切な避難行動を伝えるような、避難情報のオーダーメイド化が考えられる。

自然災害発生時に、要援護者だけでなく全住民が自主的な早期避難の重要性も認識されている。とはいえ、災害の種類や発生状況によって適切な避難経路や避難場所は異なり、住民らが全て把握しておくことは極めて困難である。さらに、心理学的に災害時には、危機的な状況を過小評価するという心理的障壁(正常化バイアス)もあり、適切な避難行動が取れなくなる可能性もある。地区単位で発出される避難勧告などの情報に、個々の状況に応じたリスクを加えることで、被害の大きさを抑えることも可能になるだろう。こうした現状課題へAIを始めとする最新技術で一石を投じることの意義は大きい。

しかし、これらの取り組みは、人命の行方をAIに委ねることを意味する。総務省のAIネットワーク社会推進会議では、AIの倫理として「行為や意思決定の責任の問題」を論点としている※6。このような責任論は、防災分野でもAI活用の技術開発・適用対象の拡大と並行して議論すべきである。

昨今頻発する災害、そして今後発生が危惧される大災害に備え、一人でも多くの命を救うための技術開発と社会実装は急務であり、広く検討されるべきである。当社は最新技術による社会課題解決に向けて、政策形成と具体的な社会実装の双方からこうした動きを支援していく。
図 AIによる避難情報のオーダーメイドシステムのイメージ
図 AIによる避難情報のオーダーメイドシステムのイメージ
出所:三菱総合研究所

※1:DISAANA──対災害SNS情報分析システム【リアルタイム版】(閲覧日:2018/7/13)
https://disaana.jp/

※2:D-SUMM──災害状況要約システム リアルタイム版(閲覧日:2018/7/13)
https://disaana.jp/d-summ/

※3:内閣府 ⑤災害情報収集システムおよびリアルタイム被害推定システムの研究開発 戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)レジリエントな防災・減災機能の強化(リアルタイムな災害情報の共有と利活用)研究開発計画 p.10-12 2018/4/1(閲覧日:2018/7/13)
http://www8.cao.go.jp/cstp/gaiyo/sip/keikaku/8_bousai.pdf

※4:藤原広行 リアルタイム被害推定システム及び府省庁連携防災情報共有システム「SIP4D」と今後の展開(その1)~リアルタイム被害推定・災害情報収集・分析・利活用システム開発~ SIP防災シンポジウム 2017/7/27(閲覧日:2018/7/13)
https://www.jst.go.jp/sip/dl/k08/sympo2017/koen_08.pdf

※5:株式会社エンルートラボ(現:株式会社イームスラボ) 沖縄県総合防災訓練にてドローン、無人車両、運行管理システム、AI技術を活用(閲覧日:2018/7/13)
http://elab.co.jp/news-posts/沖縄県総合防災訓練にてドローン、無人車両、運/

※6:久木田水生 人工知能の倫理:何が問題なのか AIネットワーク社会推進会議 環境整備分科会・影響評価分科会 合同分科会(第1回)資料3, 2017/11/6(閲覧日:2018/7/13)
http://www.soumu.go.jp/main_content/000520384.pdf